1974年7月8日生まれ。広島県出身。早稲田大学在学中より是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』にスタッフとして参加する。助監督の経験を経て2002年、『蛇イチゴ』で脚本・監督デビュー。2006年『ゆれる』がカンヌ国際映画祭監督週間に正式出品されたほか、ブルーリボン賞をはじめ数々の賞を受賞する。『ディア・ドクター』『夢売るふたり』も国内外で賞賛を受けた。また、『ゆれる』のノベライズは三島由紀夫賞候補、「きのうの神様」と本作の原作は直木賞候補となるなど、小説でも才能を発揮している。
人気の高い小説家である衣笠幸夫は不倫相手と密会している最中に、妻の夏子が旅行先のバス事故で亡くなったと知る。もはや妻への愛は冷め、悲しむことができない幸夫はともに亡くなった夏子の親友・ゆきの夫の陽一と子どもたちと出会う。彼らとの交流を通して幸夫の中に小さな変化が生まれる……。
『ゆれる』や『ディア・ドクター』などの気鋭の監督、西川美和が直木賞候補となった自身の小説「永い言い訳」を映画化した。本木雅弘を主演に描く、一風変わった喪失の物語だ。
西川:東日本大震災がきっかけでした。大きな被災や親しい人を亡くしたわけではなく、大多数の方と同じように報道を見ながら時間を過ごしていくうちに、誰もが、メディアが伝えるような円満な関係のまま別れを迎えたわけではないのでは?考えるようになったんです。「どうして死んでしまったんだ」とすぐに号泣するほどストレートではない別れが、きっとあるはずだと。人間関係というものはそんなにシンプルなものばかりではありませんから。
西川:あります、あります。こうすれば良かったな、と悔やむような。死別の場合において、逆に思い残しがない別れの方が少ないんじゃないでしょうか。そういった気持ちはなかなか解消されるものではなくて、自分の中に滞っているものなんですよね。
西川:ええ、そうなんです。自分の中で言い訳をしつつ、同時に自分自身を赦してあげながら生きていくしかなくて。そうやって、失った者の代わりに別の何かと出会いながら、生きる道を探していく大人の話を描いてみたかったんです。
西川:うーん……その方が人間的だと思うから、です(笑)。誰もが多少なりとも持っている要素じゃないでしょうか。彼は自分なりにまともに生きていきたいと思っているけれど、理想になれない苦しさがあって、自分に絶望しています。それに、ハンサムがゆえに外見の良さが彼の自意識をややこしく肥大させている。ただ、弱くて愚かな人間でいて、私は彼を嫌な人間だとは思っていないです。
西川:善人で愛妻家で誰のことも傷つけない完璧な人間より、よほど共感性が高いと思います。
西川:演じてくれる方のキャラクターを大切にしました。ハンサムな見た目の中にある親しみや可笑しみは、演じる人が実際に持っていないとにじみ出てこないもの。意外と思われるかもしれませんが、本木さんはおしゃべりで、すっごく面白い方なんです。
西川:そうなんです! 軽いというと語弊があるんですが、柔らかさがあってチャーミングな方なんです。今回はとくに、子どもという予測不可能な存在と関わることでうまく化学反応を起こしてくれるんじゃないかという目論見もありました。
西川:はじめからそのテーマが念頭にあったわけじゃないのだけど、書くという孤独な作業をするなかで、孤独であればあるほど他人との出会いや関わり、他人の存在を大きく感じました。人間って独りぼっちだと思っているかもしれないけど、自分が気づいていないところで案外、他人が自分のことを気にかけてくれていたり、誰かが見てくれていたりするものだなと思って、今までも物語を紡いでいきました。家族や夫婦といった密接な関係だけでなく、自分が周囲といろんな関係ができていることを大事にしたいです。言葉で言うと表層的になるけれど、自分の実感が少しでも伝われば嬉しいですね。
西川:意識してるわけではないんです、実は。人間のことを考えて作るとそういうものができちゃう(笑)。
西川:「この人、嘘ついてるな」とはあまり気にかけたりしませんね。むしろ自分自身のことについて、「今、私ってカッコつけてるな」とか「繕ってるな」ということに関して非常に敏感です。嫌な感じが残っていて、自分で自分に対する不信感のようなものが募っていく。そんな自分に我慢ならない部分を作品にしているところがありますね。
西川:改めようと思っても、なかなかコントロールできるものじゃないです。どんなに違う種類の人間に憧れても、理想の人間にはなれないものだし。だから、「嘘をついてはいけない」と人にも言えないです。それに、自分も含めて、嘘をつくことってとても人間らしいことだと思うんですよね。
(text:入江奈々)
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