『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』デヴィッド・イェーツ監督インタビュー

根底にあるのは、欠点もある愛すべき人間たちへの共感!

#デイビッド・イェーツ

主人公ニュートの社会的不器用さに共感した

ニュート・スキャマンダーは、おっちょこちょいで人見知りな魔法動物学者。そんな彼のうっかりミスのせいで、ある日、魔法動物(ファンタスティック・ビースト)たちが人間界に逃げ出してしまった! 前代未聞の大パニックに陥ったニューヨークで、仲間と共に魔法動物を追跡するニュートはやがて、人間界と魔法界の双方に渡る大事件に巻き込まれていく……。

「ハリポタ」シリーズのJ.K.ローリングが脚本を書き下ろした新シリーズ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』が、11月23日からついに日本公開される。

奇想天外な物語で見る者を釘付けにする本作を手がけたのは、『ハリー・ポッターと死の秘宝』などを手がけたデヴィッド・イェーツ監督。彼に、この新たなる魔法体験について語ってもらった。

──『ハリポタ』シリーズでは『不死鳥の騎士団』、『謎のプリンス』、そして『死の秘宝』2部作を手がけていますね。今回、再びJ.K.ローリングの魔法世界に戻ってみて、どのように感じていらっしゃいますか?

デイビッド・イェーツ監督(左)とエディ・レッドメイン(右)
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』撮影中の様子

監督:家に戻り、何年も過ごした場所に再び足を踏み入れるような感覚だった。合計6年だからね。J.K.ローリングの脚本は、キャラクターや物語の語り口が素晴らしく、新鮮で、面白くて、関連性がある。それに時間も場所も、僕たち自身が今経験している世界と共鳴するものがあった。
 だから僕は、過去に仕事をした最高の人材を引き連れて戻ってきた。『ハリポタ』シリーズ全作のデザインを手がけたスチュアート・クレイグが、今度は『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を担当し、まるで夫婦みたいに僕の編集者を15年間務めているマーク・デイもいる(笑)。そのグループに、僕が一緒に仕事をしたいと思っていた何人かの新しい人たちを紹介した。魔法のようなカメラワークの撮影監督フィリップ・ルースロ、何年も僕が敬愛してやまない素晴らしい衣装デザイナーのコリーン・アトウッドたちだ。

──J.K.ローリングが特別に脚本を書いた作品です。初めて読んだ時に、あなた自身が共感できるキャラクターやテーマがありましたか?

監督:(主人公で魔法使いの)ニュート・スキャマンダーが好きだった。彼の社会的不器用さに共感した。北イングランドで子ども時代を過ごした僕は恥ずかしがり屋で、社会のどこに自分の居場所があるのかわからず、苦労した。自分を表現する方法として映画製作、ストーリーテリング、そして音楽に目を向けるようになった。少し不器用で、本当の自分や溶け込む方法を探しながら、自信を見出そうとする僕たちのような人間が、何かクリエイティブなことを始めることが多い。ニュート・スキャマンダーはワイルドな魔法動物たちを守り、育むことに全神経を集中している。だから、ニュートは僕にとって気の合う友だちなんだ。
 それに、ニュートと共に魔法動物を探す人間のジェイコブ・コワルスキーも好きだった。彼はどこにでもいる男で、大きな心をもち、オープンで、みんなのいいところを見ようとする。ジェイコブが人々の本質を受け入れるところが好きだ。それに彼は僕たちの仲間だ。マグル、あるいはアメリカではノー・マジと呼ばれていて、その意味では彼は魔法使いではないが、魔法世界にたまたま入り込む。そして自分たちとの違いや特異性にもかかわらず、その世界の素晴らしさを受け入れる。そこが本当に素晴らしい。この2つのキャラクターに僕は最も共感した。

ホグワーツの再現ではなく、ローリングの世界を広げた、新鮮で活気あふれる映画
『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』撮影中のデイビッド・イェーツ監督

──J.K.ローリングが直接私たちに語り掛けてくるキャラクターを描いたことについて、どう思いますか?

監督:ジョー(J.K.ローリング)のキャラクターを描く才能は計り知れない。彼女は、多くの意味で僕たちの一部だと感じられるキャラクターを巧みに作り出すことができる。彼らは、懐が深く、ある意味アウトサイダーで、自分の場所を求めている。彼らは善良だが、少し苦労している。本当に親しみのある美しいキャラクターだ。それは全員が、人生のある時期に差し掛かり、少しさまよいながら、本当の自分や自分が属する方法を見つけ出そうとしているからなんだ。
 ジョーが描くキャラクターたちを多くの人々が愛する理由は、彼らが完璧じゃないからだと思う。誰も完璧じゃない。ジョーは“僕たち全員、完璧であらねばならない”という神話を打ち砕いた。彼女が描くキャラクターは全員、どこか欠点がある。それは愛すべき個性で、普通なんだと、彼女は彼らを称えているんだ。

──ニュート役にエディ・レッドメインを選んだ理由は? また、ヒーローらしからぬヒーローの一団を形成するジェイコブ・コワルスキー役にダン・フォグラーを、ティナ・ゴールドスタイン役と彼女の妹クイニーにキャサリン・ウォーターストンとアリソン・スドルを配役したことについて聞かせてください。

監督:エディ・レッドメインはすぐに決まった。2〜3人の俳優をニュート役に考えていたが、エディがずっと頭から離れなかった。エディは魂のこもった俳優だ。ニュート・スキャマンダーに自然にフィットした。それからあとは、バンドをまとめるような感じだったよ(笑)。誰が、エディの素晴らしい感性とトーンにぴったり合うのか?僕たちは本当にラッキーだった。
 エディは太っ腹だ。『博士と彼女のセオリー』でスティーブン・ホーキングを演じて米アカデミー賞を受賞したばかりだったのに、ニューヨークに来て、多くの異なる俳優たちとのオーディションができるようにしてくれた。その集中した3〜4日間で、彼は同じシーンを異なる俳優と何度も何度も演じてくれたんだ。才能豊かな俳優が何人かいたが、エディにぴったりだと感じたのはひとりだけだった。エディが我々のささやかなファンタスティック・ビーストの世界の中心人物だからね(笑)。その彼がキャサリン、アリソン、ダンへと我々を導いてくれたんだ。
 例えば、彼はティナ役の4〜5人の女優と映画の1シーンを演じたが、キャサリンにはとても面白い幅があった。彼女は少しエディに似ている。パワフルな俳優で、自然なコメディセンスが備わっている。それは珍しい組み合わせなんだ。彼女はとても強烈なのに、非常に面白い。僕はそこが気に入った。
 クイニーはレジリメンスで、心を読むことができる。とても華やかで美しい魅惑的な女性だ。まず、アリソンには純粋無垢なところがある。それにこの役を賢く、魂を込めて演じた。彼女はひときわ優れていたし、キャサリンとは自然に姉妹だと感じることができた。
 ダンはジェイコブ役としてずば抜けていた。このキャラクターを素直に演じられそうな俳優は何人かいたが、彼がやってきてからはすべてが逆転した。愉快なものを期待していると彼は悲しく演じ、悲しみを期待していると愉快に演じた。まるで花火のようだ。まったくの掘り出し物だよ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
(C)2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

──パーシバル・グレイブス役のコリン・ファレルや、クレデンス・ベアボーン役のエズラ・ミラーも素晴らしいですね。

監督:コリン・ファレルは素晴らしく惜しみない俳優で、グレイブスというキャラクターを発展させるプロセスから参加し、貢献してくれた。コリンは、この映画にいてほしい、素晴らしい俳優だ。アーティストというだけじゃなく、J.K.ローリング現象を丸ごと体現する精神をもたらしてくれた。好奇心旺盛で、刺激的で、物惜しみせず、親切だ。コリンとの仕事で得をしたのは我々のほうだよ。本当に惜しみなく、パーシバル・グレイブスという少し腹黒いキャラクターの解釈に役立つアイデアをたくさん出してくれたんだ。
 エズラ・ミラーも同様に、素晴らしく興味深い若者だ。同じくらいの好奇心と野心がある。『ハリポタ』のすべてを愛し、この役を熱心に追いかけていた。本当にクレデンスを演じたいと思っていたんだ。ふたりがこの映画にいてくれて僕はとても感謝している。彼らは素晴らしいが、それ以上に、この作品に素晴らしい精神をもたらしてくれたからだ。

──映画のもうひとつの大きな部分が、ファンタスティック・ビーストたちです。デザイン/視覚効果チームとともに彼らの外見や個性を最初に形作り、次に、俳優たちと並行してこの素晴らしい生物たちを演出するプロセスはどのようなものでしたか?

監督:まず、コンセプトからスタートした。何百というコンセプトを異なる種類のビーストのために作り、何週間も、何ヵ月にも及ぶプロセスを通して、最もダイナミックなリストに絞り込んでいった。チームの全員に伝えたのは、ビーストは素晴らしくあるべきだが、彼らがファンタジーであってはならないということだった。彼らが別世界に属するものに見えてはならない。それぞれに、自然で、人類学的な息吹がなくてはならなかった。
 肌の質感やトーンに関して、我々はインスピレーションを得るために頻繁に自然界に赴いた。自然界ではたくさんの素晴らしいものを見つけられる。不思議で、美しくて、驚きに満ちた動物たち。そこから、さらにクリーチャーを発展させるために、僕は、何年も僕の視覚効果パートナーを務める視覚効果スーパーバイザーのティム・バーク、そして新しい仲間のクリスチャン・マンツと作業した。さらに、我々のチーフ・アニメーターを務めるパブロ・グリロが、ニフラーやエルンペントに命を吹き込んだ。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』
(C)2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

──お気に入りのビーストがいますか?

監督:僕はデミガイズが好きなんだ。とても可愛くて、チャーミングだ。それにニフラーだね。かなり生意気だからね。

──映画館で『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』を体験した後、観客に何を感じてほしいですか?

監督:この映画が観客を楽しませ、感動させるものであってほしいが、考えさせる映画でもあってほしい。物惜しみせず、気持ちのこもった映画を作りたいと思った。以前に見た映画より後退していると思ってほしくない。満足してもらえる方法でジョーの世界を広げる映画を作りたかった。それを達成できたと僕は思う。これまでと同じだと感じさせないことがとても重要だ。ホグワーツの再現ではないし、そうなっていないと思う。ジョーの世界を意味深く、関連性をもたせながら広げた、新鮮で、活気にあふれる映画だと思う。

デイビッド・イェーツ
デイビッド・イェーツ
David Yates

1963年11月30日生まれ、イギリス出身。テレビシリーズなどの演出を経て、『ある日、ダウニング街で』(05年)を監督。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(07年)、『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(09年)、『ハリー・ポッターと死の秘宝』の『PART1』(10年)と『PART2』(11年)を監督。