1973年2月24日、イタリア・キエーリに生まれる。ドイツのフランクフルトで育ち、写真家アシスタントを経て、2001年に『コマーシャル★マン』(03年・未)で長編映画監督デビューを果たす。
1950年代、経済復興に沸き戦争の記憶が風化しつつあったドイツで、信念を貫き通した男がいた。ドイツの検事長フリッツ・バウアーだ。祖国の未来のためには過去と向き合うことが大切だと考え、ナチスによる戦争犯罪を徹底追求。命の危険にさらされながら戦い続けたバウアーの姿を描いた『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』が、1月7日より全国公開される。
ホロコーストの中心的役割を担い、戦後は南米に逃亡していたナチス戦犯、アドルフ・アイヒマンを捕らえる孤立無援の戦いを映画化した本作は、ドイツアカデミー賞で作品賞、監督賞ほか最多6部門を受賞。来日したラース・クラウメ監督に製作秘話などを語ってもらった。
監督:本作の共同脚本家のオリヴィエ・グエズが、ホロコースト後のユダヤ人たちについて書いた本を読み、そこに書かれていたフリッツ・バウアーとアウシュヴィッツ裁判について注目した。彼はとても非凡な人物で、ホロコーストについて話したがらないほとんどの犠牲者たちと取る行動がまったく違う。圧倒されてしまうようなとてつもない圧力を受けるのに、それでもナチス党員たちを告発しようとするんだ。それは復讐ではなく、人本主義的精神、そして人々を教育したいという意識から。映画の主人公向きの、燦然と輝く人物だと思ったよ。
監督:歴史家、政治家やユダヤ人コミュニティでは知られていたけども、多くのドイツ人は知らなかった。なぜ、評価されなかったのかはわからないけど、ドイツの暗い過去と関係があるかもしれない。過去を直視したがらなかった人々にとって、過去をほじくり返したことは苛立ちの原因だったのかもしれない。だから、彼が亡くなった当時、居心地の悪い質問をする人物がいなくなったと喜んだ人もいたのかもしれない。その中で彼の存在が埋もれてしまったのかもしれないね。
監督:彼が唯一の人物ではなかったけど、50年代60年代の中で、こういう居心地の悪い質問をあえてした数人の人物の1人ではあった。もしバウアーがいなかったとして、他の人が声をあげたかどうかは分からないが、バウアーが始めたことを他の人は始めなかったし、バウアーが問いかけたことを他の人は問いかけなかったとは思うね。ドイツの国としての発達、過去と向き合い、過去から学ぶということは起きなかったと思います。
監督:その通りだね。バウアーの自伝についてオリヴィエと長い間検討した結果、フリッツ・バウアーが何を追い求め、何が彼を魅力的な人物にさせたのかを探すために、彼の人生でとりわけ緊迫に満ちた時期であるアドルフ・アイヒマンの追跡を核に据えることにした。ここで我々が語るのは、第二次世界大戦後に悲観し、打ちひしがれてドイツに戻ってきたけれど、「意識の風化」との闘いに自身の存在意義を見いだした男の贖罪の物語なんだ。
監督:一番驚いたのは、バウアーの敵である元ナチの人々が、若い民主国家においてどのくらい力をもっていたのかということを今まで知らなかったことだね。
監督:同性愛の部分は脚本の段階では入れていなかった。ユダヤミュージアムでバウアーの生涯についての展覧会が行われた時にはじめてデンマークで男娼と関わりあいがあったという警察の調書が歴史研究家の手によって展示されていてそれが証拠となった。それまでも、噂はあった。フランクフルトで1人で住んでいたことや、若い男性の友人が多かったりしたからね。結婚していたのは、デンマークで安全を得る為にしたということもわかっていた。
彼が同性愛者であったのかというのはわからないが、生涯の中で男性に性的に惹かれていた時期があったことは事実だということがわかった。だからといって、彼を同性愛者として描くのは違うのではないか思った。
監督:第三帝国(ナチ政権)から新しい民主国家になったからといって、一晩でみなが民主主義的考え方になるわけではない。映画では、いかにかつてのナチ政権の時の道徳観や価値観がそのまま引き継がれていたか、そいういう世の中だったということを見せたかった。という意図があった。つまり1948年にドイツの新しい憲法が作られたわけなのだけど、すぐに価値観やモラルが変わったわけではない。
監督:考えうる限りの圧力があったとしても、大義のために邁進することに勇気をもち、粘り強くゴールを目指すべきということだ。フリッツ・バウアーは「復讐に燃えるユダヤ人」として反対勢力にあい、生涯にわたり手強い敵に囲まれ続けた。ドイツ当局はひとりも彼に協力したがらず、あの手この手で彼を妨害しつづけた。「執務室を出ればそこは敵のいる外国だ」という伝説的なこの声明は彼から出てきたものだ。それにも関わらず、最後に彼は成し遂げた。僕にとっては真のヒーローなんだ。
監督:本作にはサスペンス要素もあり、アウトサイダーvs.権力、という古典的な闘いが、架空の漫画の世界ではなく、本当にあったことが描かれている。簡潔に言えば、感情に訴えかけ、時代を問わず人を鼓舞し続けるヒーローの物語なんだ。
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