1974年6月9日生まれ、アメリカ出身の日系2世。高校卒業後、ジョージ・ワシントン大学で政治学を専攻後ハリウッドへ。昼は脚本を書き、夜はナイトクラブDJという日々の後、『THE JUON/呪怨』(04年)の共同プロデューサーを務め、清水崇監督に日本人監督初の全米オープニング興収1位の栄誉を与えた。ドラマ『クリミナル・マインド 特命捜査班レッドセル』(11年/脚本)、『リンガー 〜2つの顔〜』(11-12年/製作・脚本)、ケヴィン・ベーコン主演『ザ・フォロイング』(13-15年/製作・脚本)、フォレスト・ウィテカー主演『エンジェルの狂気』(13年/脚本)などを手がけ、本作で念願の監督デビューを果たす。
野放しにされる巨大製薬会社の不正を暴くため、自らの手を汚すことを決意した野心家弁護士。危険な一歩を踏み出した主人公が、欲と業が複雑に絡み合った世界へと巻き込まれていく様子を描いた『ブラック・ファイル 野心の代償』が公開中だ。
アンソニー・ホプキンス、アル・パチーノが豪華初共演を果たしたほか、イ・ビョンホンのキャスティングも話題を呼ぶ本作を監督したのは、日系人のシンタロウ・シモサワ。手に汗握るこのサスペンスドラマについて、シモサワ監督に語ってもらった。
監督:正直言うと、2人を撮影現場に迎え入れた日は本当に緊張しました。いろんな名作に出演してきている2人ですから、どうしてもそれが頭をよぎってしまうんですね。だから僕自身も頭を切り替えるのが大変でした。でも僕が初監督だっていうのもちゃんと理解してくれたし、アイディアも聞き入れてくれました。彼らほどのキャリアを積んだ人ならありとあらゆる人からいろんなアイディアを聞いたり聞き入れたりしてきているのでしょうし、キャラクターについての話をいろんな人と散々してきていると思うのですが、今回は僕が話すことを、まるで初めて聞いた言葉かのようにとても丁寧に聞いてくれました。
撮影初日のファーストカットがアル・パチーノのシーンだったんです。私は本当に緊張していました。朝一で現場に来ると、大勢のスタッフがあちこち行き来していて、それだけでもキャパオーバーな感じでした。そんな時、アル・パチーノが僕のもとへやってきて、「これが君の初めての作品の撮影初日なわけだよね。気分はどう?」と声をかけてくれました。僕はその時、自信を持っているように見せかけたかったので、ちょっと虚勢を張ってしました。本音を言うと本当にパニクッていたんですけど、アルに対しては、「大丈夫! ここはどんどん進めていきます。このショットをこう撮ってああ撮って、進めて行きますから」という風にお話をしました。すると、アル・パチーノが、「そういうのは一旦忘れよう。これが君にとっての初めての作品のファーストショットなわけだから」と言い、トントンと肩を叩いてくれて、「落ち着いてじっくりとこの場を味わいなさい」と言ってくれました。なので、彼に言われる通りにその場の空気を味わってみました。
そうして始まった最初のシーンというのはアル・パチーノが弁護士事務所の机に座るシーンなんですけど、僕はモニターをのぞき込み、「アル・パチーノを監督している」ということを改めて認識しました。アカデミー賞俳優、そして『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネという役をやってきた俳優を僕が演出しているんだ、と。そのためモニターを見ながら、「ヤバい、今からアル・パチーノの演出をしなくてはいけない」と焦りました。すると、しばらくしてアルはレンズを見つめて、「『よーい、スタート!』は言ってくれないのかい?」と言ってくれました。そこでようやく皆が笑い始めました。張り詰めた緊張感がほどけていいガス抜きになりました。僕が監督としてしなければならなかった仕事は「よーい。スタート!」と言うことだったんですけど、それさえ忘れてしまった、そんな日でした。でもそこを笑いに変えてくれたのがアルでした。他の役者ではそういう風には行かなかったかもしれないです。そういう意味で、アルの器の大きさに助けられました。
監督:アンソニーは音楽の話をするのが大好きで、彼自身も作曲家で交響曲などを手がけています。俳優として多数の作品に出演してますが、それと同じくらい音楽でも多くの作品を手掛けているんです。彼は音楽の話をする時はまるで童心に帰るんですね。どうも、俳優としてステータスを築いたアンソニー・ホプキンスではなく、音楽家になりたいアンソニー・ホプキンスという意識を持ってるみたいです。なので、彼は自分の作曲した音楽をみんなに聞いてもらいたいし、みんなの素直な意見を聞きたいみたいですね。映画では世界有数の俳優として地位を築いていてアカデミー賞も受賞しているわけですが、音楽になると、とにかくみんなの感想を素直に知りたいようです。ということで彼と音楽の話をしてこれもまた奇特な経験になりました。
監督:監督としてではなく脚本家としてですが、他の作品で多くの俳優を見てきましたけども、その中でもジョシュはみんなが安心して取り組めているのかということをすごく気にする俳優でした。みんなの想像性を掻き立てるような気遣いが彼にはあるんです。例えば技術スタッフが、「ジョシュ、ここはこうした方がいいよ」と言ったとします。そういった意見をジョシュはきっと素直に聞き入れると思います。そういう温かいオープンな気遣いのある人で、人のそういうクリエイティブなアイディアを聞く耳があり、好奇心がある人なんですね。
監督:一番難しいのはノイズを排除すること。脚本を読む時、自分のヴィジュアライズする世界というのがあって、それは自分の想像、自分の中の個人の想像の世界なわけです。いざそれを映像にするとなると色んなハードルが出現します。時間がない、お金がない、俳優がうまくつかまらない、そういう色んな問題が出てくるわけで、そういうノイズはどうしても排除するのが難しいです。ですから自分が初めて脚本を読んだ時に感じたこと、そして想像したヴィジョンというものにしばしば立ち返らなければならない。それは簡単なことではありません。ですが、今回はそのヴィジョンにこだわってこだわり抜いて作りました。それをスクリーンで感じ取ってもらえれば嬉しいです。
監督:いかにもアジア人的な配役をしていないということに気付いてくれたのはすごく嬉しいです。東洋人のキャラってこうだよね、という風には使っていない。このキャラクターについて彼と色々話しました。スーツをパリッと着てビジネスマン風の恰好をしているけれども、でも実際どういう商売をしているのか実は分からなかったりとか、それは意識してのことです。この衣装というのはイ・ビョンホンさんの考えもあってのことですし、衣装のリズ・ウォルフの意見もあってスーツを着せました。あえてこのキャラクターに関する情報を排除しているのは意識してのことであって、いかにも冷血な殺人鬼という風にはしていませんけれども、人種だとかを限定するような役柄では無い。例えば実際に撮ったシーンで、彼が家族と電話で話していて、彼にはこういう問題があってこういう人生を生きているのだと分かるようなシーンがあるのですが、そこはあえて使わず、背景を描かないようにしました。何故かというと、語ってしまうと人間味が出てきてしまうし、ミステリアスな感じが無くなってしまうからです。そういう風に工夫を凝らしたので、西洋人から見た“いかにもアジア人”風なキャラクターにならないですみました。
監督:この映画で伝えたかったメッセージは、(物事には)正しいとか正しくないとかそういう線引きは無く、みんなどこかにグレーな部分があるんだということです。僕が魅力的に感じるストーリーは、モラルの線引きが実ははっきりしていず、「こいつは良い」「こいつは悪い」という善悪のラインをはっきりと引いてはっきりと分類できないものです。この作品もそうですね。
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