1964年、エリトリア国アスマラ生まれ。エリトリア独立戦争中、13歳で家族と離れてイタリアへ避難。青年期をローマとイスタンブールで過ごす。イタリアの大学卒業後、85年、ニューヨークに移住。現在はイタリアならびにアメリカ合衆国民。 ニューヨーク大学フィルム・スクール卒業後、インド全土を旅し、中編「Boatman(原題)」の製作と 監督を務めた。この作品は、サンダンス映画祭、ロカルノ国際映画祭、トロント国際映画祭を含む 様々な国際映画祭で上映され、成功を収めた。2008年、カリフォルニア州スラブ・シティで撮影さ れた初の長編作「Below Sea Level(原題)」は、ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門ドキュメン タリー賞、そして最も優秀なドキュメンタリーに贈られるDoc/It賞を受賞。10年には、メキシコの麻薬カルテルの殺し屋から、警察協力 者となった人物のインタビュー映画“El Sicario, Room164(原題)”を撮影。ヴェネチア国際映画 祭で国際批評家連盟賞、Doc/It賞を受賞した。13年に 長編映画『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』を製作し、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。ドキュメンタリー映画では初の快挙として話題を呼んだ。
『海は燃えている〜イタリア最南端の小さな島〜』ジャンフランコ・ロージ監督インタビュー
1万5000人が溺死、難民問題の最前線で紡いだ物語
イタリア最南端、5000人ほどが暮らすのんびりとした島、ランペドゥーサ。ここはアフリカや中東からヨーロッパを目指す難民たちの玄関口のひとつでもあり、この20年間で約40万人の難民が上陸し、1万5千人がシチリア海峡で溺死したといわれている。
『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で2013年ヴェネチア国際映画祭最高賞・金獅子賞を受賞したジャンフランコ・ロージ監督が手がけたドキュメンタリー『海は燃えて いる〜イタリア最南端の小さな島〜』の舞台となるのはこのランペドゥーサ島。ロージ監督は、ニュースなどからはうかがい知ることのできない難民問題に迫り、16年度ベルリン国際映画祭の最高賞・金熊賞を受賞した。
メリル・ストリープに「現代を生きる私たちに必要な映画。この映画が世界中で公開されるためならどんなことでもする」と言わしめた本作について、自身も少年の頃に中東からイタリアへと移り住んだロージ監督に語ってもらった。
監督:2014年、ヨーロッパの移民、難民問題についての短編映画を撮るために初めてランペドゥーサ島を訪れました。しかし実際に島に行ってみて、メディアでの報道とは全く違う複雑さを発見し、それを短編映画に納めることなど不可能だと気づきました。この島を理解するには、この島に時間をかけて入り込む必要がある、そのための方法を探さなければならないと知ったのです。
監督:ドキュメンタリー映画を作っているとよくあることですが、思いがけないことが起こります。私はひどい気管支炎になり地元の救急医療室に行ったのですが、そこでバルトロ医師と出会ったのです。彼はこの30年間、救助された移民、難民の上陸にすべて立ち会ってきた人物でした。上陸した人々を、病院や抑留センターへ行く者、死亡した者に振り分けるのが彼だったのです。
監督:彼は私が映画監督とは知らないまま、医療施設や人道救護の現場での経験を話してくれました。その話、そして、彼の使う言葉は深い感動を与えてくれました。
私たちはお互いの理解を深めていき、私は彼こそがこの映画の主要人物だと理解しました。1時間半ほど話し合った後、バルトロ医師はこれまで誰にも見せたことのない写真を見せ、私に移民や難民の悲劇を伝えてくれました。それは胸が張り裂けるような写真でした。その瞬間、私はこれを自分の次回作にしなければならないと悟ったのです。
監督:企画を立ち上げた後、私は島に引っ越し、古い港の小さな家を借りました。私はこの悲劇を、島人の目を通して語りたかったのです。彼らの意見、生活様式は過去20年で大きな変化を遂げています。
監督:島での暮らしは、私の見る全てを変えました。長い冬を島で越え、船に乗る季節を過ぎて、私は移民・難民の波の真のリズムを知りました。緊急事態が生じた時だけランペドゥーサ島に押し寄せるメディアの習慣を超えることができたのです。島に住んでみて、緊急事態という言葉の無意味さを知りました。毎日が緊急事態だからです。悲劇を本当に感じ取るためには近くにいるだけではだめで、常に接触している必要があるのです。そうして初めて、20年間繰り返される悲劇を見続けてきた島民たちの感覚が理解できるのです。
監督::サムエレは出会った当時9歳で、漁師の息子でした。その曇りのない無邪気な彼に私は魅了されました。彼の眼差しを通じてなら、いっそう自由にこの島と住民たちについて語ることができると気づいたのです。私は彼が友だちと遊び、学校に行き、おばあちゃんと家で過ごし、おじさんと船に乗るのについて行きました。サムエレのおかげで島を違った視点で、これまで知らなかったような純粋さで見ることでき、他の登場人物たちは彼を通して紹介されていきます。
監督:この映画を終えるにあたって、バルトロ医師との出会いに戻る必要があると感じました。そこで私はカメラを持ち、彼に会いに行きました。そして彼の証言、彼の物語を撮りました。20年間の救護の記録が収められたパソコンの画面を見ながら、バルトロ医師は深い人間性と穏やかさをで巨大な悲劇、そして援助と庇護を与える義務について語ってくれました。それこそがまさに、映画を締めくくるのに必要なものでした。
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