1976 生まれ。世新大学で映画を学んだ後にカリフォルニ ア芸術大学院に留学。チェン・ウェンタン監督やツァ イ・ミンリャン監督の助監督をつとめながら短編映画を製作、2005年の短編映画『海岸巡視兵(原題:海巡尖兵)』 で国内の映画賞を数々受賞。2008 年『九月に降る風(原題: 九降風)』で長編監督デビュー、上海国際映画祭審査員賞 金馬賞オリジナル脚本賞を受賞。続く『星空』でアジア太平洋映画祭最優秀撮影賞を受賞。
5年前に妻を亡くした台湾の新鋭、トム・リン監督。最後まで「映画を作り続けて」と願い続けたという妻への思いを綴った作品『百日告別』が、2月25日より公開される。
大規模な交通事故により大切な人を亡くした男女。愛する人を亡くしたばかりか、2人で紡いでいた夢や希望まで失ってしまった彼らが、苦しみながら再び歩き始めるまでの姿に涙がこみ上げる。
自身も喪失感を乗り越えた監督が、映画に込めた思いを語った。
監督:妻が亡くなったのは2012年の7月でした。僕はキリスト教信者ですが妻は仏教徒だったので、仏教につい て調べたり人に聞いたりして、あるお寺のことを知りました。初七日から四十九日まで毎週そこへ行き、読経をしました。その寺は山の上にあるのですが、そこからふもとに下りるバスの中でいろいろな事を考えている時に、ふっと映像が浮かんだのです。2人の主人公が同じ時に愛する人を亡くし、同じようでもあり違うよう でもあるという中で事実に向き合っていくという話です。最後にこの2人がどうなるのか、この時は自分でも 全く考えていませんでした。
監督:それはなかったですね。毎日の撮影の過程で「今日はこれを撮る」「あれを完成させる」と一つ一つに専念するしているので。1〜2回だけ、スクリーンで映像を見た時にすごく悲しく、辛くなった時がありました。ただ、これは決して私個人の思い出により悲しくなったのではなく、むしろ役柄としてというか、例えば映画のなかでユーウェイが事故を起こした運転手さんの家に電話をして、母親が電話に出る場面がありましたね。この場面は観ていて本当に悲しくなりました。むしろユーウェイの素晴らしい演技に感動したという部分でもあります。
──音楽がとても効果的に使われた作品だと思います。シー・チンハンさんはミュージシャン、カリーナ・ラムさんも歌手としてデビューした方ですが、2人の起用はそんな部分も念頭にあったからでしょうか?また、2人から音楽的な部分で触発されたりはしましたか?
監督:キャスティング段階で、彼らがミュージシャンであるという点は考慮していませんでした。あくまで彼らが持っている気質や演技を考慮し、この2人を合わせればきっと素晴らしい結果になるだろうとの予測の上でのキャスティングでした。勿論、実際に彼らと仕事をすることになり、彼らがミュージシャンであることは助けにはなりました。例えば、『百日告別』では様々なクラシック音楽を使うことになりましたが、実はシー・チンハンにもどの音楽がいいか等は相談しました。メジャーとは、マイナーとは何かなど、細かいことも彼から教わりましたね。
(シー・チンハンがギタリストをつとめるバンド)MAYDAYのライブは何度か拝見していますが、役者とはまた違う彼が見えて、とても不思議な感覚ですね。満席の会場の中、観客はみな彼らを崇拝していて、そんな中でギターを弾く姿、カッコイイですね。
監督:実は、彼女が貰った金馬奨のトロフィーは今うちの会社にあるんです。「このトロフィーは香港ではなく、台湾にあるべきだ」と言ってくれて。我々もすごく感動しました。
金馬奨の授賞式後の晩、みんなで小さな打ち上げをしました。自分の作品に出演した役者がこういった賞を受賞したのは、正直言って嬉しいです。僕たちは映画を撮っていますが、実は一番大きな犠牲を払っているのは役者なんです。だって観客の皆さんは裏方のことを知らないでしょうし、映画を見て、あの役者は下手だとか、ボロクソ言うんですね。だからそういう意味で、役者のほうが犠牲が多いんです。裏方はみんなカメラのこっち側にいて、彼らはカメラの真ん前、第一線に立っている。彼らの受賞が、ある種の励ましになればすごく嬉しいです。
監督:もちろん好きな日本映画は沢山あります。監督だと是枝裕和、黒沢清、黒澤明、青山真治、豊田利晃、今村昌平など。最近だと『シン・ゴジラ』が良かったですね。アニメも好きで『時をかける少女』など細田守監督の作品は大好きです。
先日、MAYDAYの新しいMVを撮影したんですが、蒼井優さんに出てもらいたいと思ってオファーしましたが、スケジュールの関係で出来ませんでした。彼女はぜひ一緒に仕事がしたいと思っています。
オダギリジョーさんの『オーバー・フェンス』も良かったですね。役所広司さんも最高です。渡辺謙さん、真田広之さん、『クリーピー』の香川照之、『悪人』に出ていた深津絵里さん、阿部寛さんなど、好きな俳優も多いです。
実は、この映画を撮る前にカメラマンと色々と打ち合わせをしましたが、参考に是枝監督の『誰も知らない』を見ました。撮影に関してはもちろん、役柄や演技の見せ方など、独特の優しさがあって、非常に内面的で決して扇情することなく、とてもリアルに淡々と見せる。とても好きで影響を受けました。
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