1990年12月6日生まれ、滋賀県出身。中学3年生の修学旅行中にスカウトされ2005年芸能界入り。07年、映画『バッテリー』主演で俳優デビュー。同作品での演技が評価され、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞などその年の多くの新人賞を受賞した。 その後、『DIVE!!』(08年)、『ラブファイト』(08年)、『荒川アンダー ザ ブリッジ』(12年)など多数の映画で主演を務め、若手実力派俳優としてさらに注目を集める。近年は、Netflixドラマ「火花」に主演、NHKでも放送が開始している。NHK連続テレビ小説『べっぴんさん』『精霊の守り人』といった人気ドラマをはじめ、映画『花芯』『にがくてあまい』『グッドモーニングショー』(すべて16年)など話題作に次々と出演している。
あるときはお笑い芸人、またあるときはゲイの美術教師、そしてまたあるときは妻を激しく求める夫、といった幅広い役どころで昨年私たちを驚かせた若手俳優といえば、林遣都。精悍な顔立ちのなかにどこか少年らしさも漂い、その絶妙なバランスが魅力でもあるが、いまや実力派俳優の一人としても名を連ねている。
映画デビューから10年という節目の年に主演作として選んだのは、乃南アサのベストセラー小説が原作の『しゃぼん玉』。親の愛を知らずに育ち、犯罪を繰り返してきた孤独な青年が偶然降り立った田舎で、人の温かさに触れ、自分の人生を見つめ直す物語だ。大女優である市原悦子との初共演で得たものや繊細な演技が求められた難役とどう向き合ってきたのかなど、その思いを語ってもらった。
林:まず原作を読みましたが、そのときに伊豆見翔人を演じることにやりがいを感じたからです。嘘がないように大事に作っていかないといけないなと思って、色々と準備をしました。
林:僕は15歳から俳優業を始めたので、青春時代とか家族との時間というのはわりと少なくて、18歳で東京に出てきたときには、さみしい思いをしていた時期もありました。でも、そのなかで久々に会う家族や新しく出会う人にぬくもりを感じる瞬間があり、僕も出会いで生きてきているというか、そうやって人生を歩んできているなと思ったので、そのあたりが似ていると感じたのかもしれません。
林:ロケ地である宮崎県の椎葉村にいたときは、その土地の食材や景色にすごく引き込まれる瞬間がありました。そんな風に、ぼーっとしながら色んなことを振り返ったり、じっくり考えたりする時間って少なくなってきたなということを感じながらやっていたので、そういう気持ちを重ね合わせられたらいいなとは思いました。
林:ありましたね。特に、亡くなった祖母のことや小さい頃に過ごしていた時間を結構思い出していました。
林:とにかくすべてを受け止めてくれるような存在感で、本当の優しさを持っている人だと思いました。市原さんがただ笑ったり、泣いたりしている姿を見ているだけで、役として心が動きましたし、そういうお芝居の仕方ってあまり経験できないと思ったので、すごくいい時間を過ごす事が出来ました。
林:台本はあくまでベースなので、その場その場で起こることもありましたし、監督も市原さんもゆったりと流れている時間をすごく大事にしていました。今回僕がありがたいなと感じたのは、全スタッフが翔人のことを考えていてくれていたことです。僕は全シーンに出させて頂いているので、僕がどういう感情表現をするのかとか、どういう心の動きをするのかというのを全員がずっと見守っているという空気感がありました。
みなさんそれぞれに翔人に対する思いや人物像というのがあるので、「あのときは何を思ってたの?」とか質問もしょっちゅうされてました(笑)。でも、そうやってひとつの映画をみんなで作っていくというのはすごくいいなって。あとは、市原さんが何をしてくるかわからなかったので、全部を決めつけないで瞬間瞬間に起きることを大事にしながら、作っていけたと思います。
林:本を読んだときに「こういう育ち方をしている人は、こういう喋り方で、こういう人との接し方をする」という自分の勝手なイメージでは絶対にやらないようにしようと思っていたので、もっと根本的な部分を知るために犯罪者の心理の本を読んだりとそういうことから始めました。
どういう育ち方をしてきているかは事細かく描かれているわけではないので、この役をやる上で何が魅力的かと考えたときに、最初に出てきたときの目つきだったり、顔色だったりで「どんな生き方してきたんだろう」と思わせないといけないような役だなと感じました。それはやりがいがあることなので、それを表現するためには深いところから、考えていかなきゃいけないなと思って取り組んでいました。
林:本当に難しい役だったんですけど、何か出来事が起きて劇的に人が変わるっていうわかりやすいことがあってはいけないな、というのはありました。たとえば、お箸の持ち方を市原さんに注意されるところでは、「伊豆見の生き方だと、誰かに何かを言われたことですぐ直ったりはしないな」と思ったので、そういうことを意識して演じていました。
林:市原さんが夜中に縫物をしているシーンで、僕が手伝ってあげるという場面ですね。伊豆見にとっては初めて体が勝手に動いたところですが、完成した作品を見たときも好きだなと思いました。伊豆見は人と触れ合ってきてない人間なので、自分でも自分の感情がわからないというか、どう気持ちを表現したらいいのかわからないので、自分に対しても悩んでいると思うんです。それだけに気持ちで体が勝手に動く瞬間はすごくステキだなと思って印象に残っています。
林:一度だけ現場にいらっしゃいましたが、市原さんと初めてお会いしたときの僕への第一声とまったく同じで、乃南さんからも「すごく難しい役ですね。がんばってください」とそれだけ言われました。つまり、それは「しっかり考えなさいね」というメッセージだなと。だから、自分の経験上の考えとかは入れちゃだめだなとも思いました。
林:映画とかでもっと使うべき場所なんじゃないかなとすごく感じました。この場所は「日本三大秘境」とも呼ばれていますが、椎葉村のなかにはもっと「これぞ秘境!」というようなポイントもあるんです。今回は普段は入れない場所とかにも入れて頂いて、そこで撮影もしましたが、ただ自然が豊かというだけじゃない雰囲気がありました。
林:ありきたりですけど、やっぱり人が優しいですよね。なにより、自分の育ってきた椎葉村をみんなが愛していて、その場所を全国に映画で広めて欲しいという熱意と歓迎ムードがすごく伝わってきました。
撮影期間中は僕もペンションみたいなところでずっと泊まらせて頂いたんですけど、そこのお母さんもすごく優しくて、毎朝おにぎりを持たせてくれたり、普段東京にいたら感じられないような温かさを感じました。「明日はうちで夜ご飯食べるの?」とか、「ちゃんとしたものを食べないとダメだよ」みたいな会話があって、必要以上に優しくしてくれました(笑)。
林:ありがたいことに色んな作品に出させて頂いて、気持ち的にもとても充実してます。もちろん不安や焦りもあるんですけど、10年経ってみると、苦しかったことも楽しかったことも、すべてがいまに活きていて、無駄なことがひとつもなかったなという風にいま思えてます。
林:少し前までは、「できないものはない」と思ってギラギラしてたんですけど、最近は「人に何を感じてもらっているのか」というのをもっと深く知りたいなという思いが芽生えてきています。今回の作品もそうですけど、人を感動させたり、人の心を動かしたりする仕事ってすごいやりがいがあって、素敵な仕事をやれているなと感じているので、人に何かを届けられる部分は大事にしていきたいです。
林:一人の人生をすごく長い期間で描くような役に出会いたいなと思います。
林:この作品は、どの世代の方でも何か感じるものがあると思いますが、愛情がいっぱい詰まった映画なので、何かに悩んでいたり、寂しい気持ちになったりしている人は前向きになれるはずです。そして、大事なものに気づけたりとか、失っちゃいけないものっていっぱいあるんだなとか、ありきたりな日常や当たり前な時間の大切さみたいなものを感じられると思うので、ぜひご覧ください。
(text&photo:志村昌美)
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