『地獄愛』ファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督インタビュー

『変態村』に続く衝撃作! 狂気の愛描く鬼才を直撃

#ファブリス・ドゥ・ヴェルツ

愛し合う2人の孤立感をリアルに描くことが重要だった

1940年代後半のアメリカを騒然とさせた連続殺人事件“ロンリー・ハーツ・キラー事件”。その犯人である殺人鬼カップル、マーサ・ベックとレイモンド・フェルナンデスの狂気の愛を描いた『地獄愛』が、7月1日より公開される。

シングルマザーのグロリアと結婚詐欺師のミシェル。出会い系サイトを通じて知り合った2人は、お互いに惹かれ合うがゆえに罪を重ね、共犯関係に陥っていく……。

人々の異常な愛と狂気を寓話的に描いた『変態村』で物議を醸したベルギーの鬼才監督、ファブリス・ドゥ・ヴェルツ。伝説のカルト作『ハネムーン・キラーズ』をはじめ、『ディープ・クリムゾン 深紅の愛』『ロンリーハーツ』と、幾度も映画化されてきたモチーフを題材に、愛と嫉妬のラブ・ホラーを作り上げたヴェルツ監督に話しを聞いた。

──本作は狂気の愛を描く〈ベルギーの闇3部作〉の第2弾となる作品ですが、様々な監督が映像化してきた“ロンリー・ハーツ・キラー事件”を映画化した理由は?

『地獄愛』
(C)Panique / Radar Films / Savage Film / Versus Production / One Eyed - 2014  

監督:映画のテーマを探していたとき、犯人カップル、マーサ・ベックとレイモンド・フェルナンデスを題材にしたアルトゥーロ・リプステイン監督の『深紅の愛 DEEP CRIMSON』を偶然に見て衝撃を受けた。そこで、このテーマを元にして、ベルギーを舞台にすれば、面白い作品ができるのではないかと考えた。愛し合っている恋人2人の孤立と孤独はいいテーマになる、と。そしてすぐに脚本に取りかかった。もちろんオリジナル作品『ハネムーン・キラーズ』の存在も知っていた。すでに有名な題材を使って、自由に脚色したいと思ったのがきっかけだったんだ。

──『ハネムーン・キラーズ』などと、あなたが監督した『地獄愛』との違いは?

監督:まず社会的背景に違いがある。『ハネムーン・キラーズ』では、事件が起きた60年代の時代背景が重要な要素になっていて、『深紅の愛 DEEP CRIMSON』ではスタイルが重要視されている。演劇的とも言えるし夢のようなクオリティも醸し出している。
 今回の作品は愛し合う2人の孤立感をリアルに描くことが重要だった。孤独な人間が偶然出会い、孤独を分かち合いながら、反道徳的で自分勝手な方法で、社会との関わり方を見つけてしまう。その軌跡を映画で検証してみようと思った。今回の題材は、何度も映画化されていることを考えても、古典的題材とも言える。しかしそれに新しい解釈や見方を加えて、全く新しいものを創造することができる。それが『地獄愛』における試みだったんだ。

『地獄愛』
(C)Panique / Radar Films / Savage Film / Versus Production / One Eyed - 2014  

──グロリアを演じるロラ・ドゥエニャスの演技が強烈ですね。

監督:ロラは非常に敏感で繊細、かつ情熱的で本能的な俳優だ。キャスティングが決定した時点で、彼女を想像しながら脚本を練り直した。なので現場ではすごくスムーズにいったと思う。彼女には アンジェイ・ズラウスキー監督の『ポゼッション』を見てもらって、いろいろディスカッションもした。演技の参考としてではなくて、あのエネルギーを如何にしてこの作品で創りだすことができるかについて語り合った。

──16ミリで撮影した理由は?

監督:フィルム特有の粒子が荒い質感をあえて強調している。フィルムの有機性みたいなものを醸し出したかった。子どもの頃、『悪魔のいけにえ』を見てショックを受けたけれど、まさにああいう質感を創りだしたかった。まるで匂いまで伝わってきそうな質感だね。
 デジタルは好きじゃない。まさにウソの世界だ。シネマのポエジーを台無しにしてしまう。映画作家はある意味では錬金術師のようなもの。いろいろイメージで実験しながら、限界に挑戦するべきだ。でもデジタルはフラットで冷たい。ミステリーもない。ただフィルムで映画を撮り続けることは非常に難しくなってきている。それでも毎回フィルムで撮りたいと考えているんだ。すごくフィルムが好きだから。

──『変態村』では印象的なミュージカル的な場面がありますが、今回もグロリアが歌を唄う場面が非常に印象的ですね。

監督:あの死体を前にして歌う場面だね。最初は歌を唄う場面ではなかった。撮影の数週間前になにか音楽的な要素を取り込めないかと考えて、自分で歌詞を書いて、作曲家に渡して曲にしてもらった。実はあの歌を唄っているのはロラではなく、吹き替えなんだ。現場ではプレイバックを流して、口パクで演じてもらった。現場でもうまくいくかどうかは、わからなかった。でも編集の段階で、歌を盛り込んだ形でうまくまとまったのでよかったよ。テストで周囲のスタッフにも見てもらったら、反応がすごくよかった。『変態村』でも、当初は酒場の場面にミュージカル的要素はなかった。でもなにかできないかと思って作曲家に頼んで、実験してみようと思って、最終的にはああいう場面になった。とてもうまくいったと思っているよ。

──影響を受けた映画監督は?
『地獄愛』
(C)Panique / Radar Films / Savage Film / Versus Production / One Eyed - 2014  

監督:本当に映画が大好きだから、名前を挙げるのさえ難しいね。大好きな監督や作品がたくさんありすぎて。『地獄愛』に限って言うのであれば、ズラウスキーの作品は参考にした。塚本晋也監督作品のエネルギーにも触発された。ジョルジュ・フランジュ、ジャン・コクトー、ジャン=ピエール・メルヴィル、ロマン・ポランスキー、溝口健二、黒澤明、イングマル・ベルイマンも大好きだ。たくさんいるから、数人だけ挙げるのは難しい。ベルイマンは20代のときは見るのが辛かったけれど、40代に入ってみると非常に興味深く見ることができる。

──『地獄愛』は、ギャスパー・ノエ作品を思い起こさせると言う批評家がいます。

監督:ギャスパーとは知り合いで、彼は人格者でもあるし才能もある。でも作品に共通点があるとは思わないね。たしかに2人とも映像の可能性を信じている点では似ているかもしれない。処女作からその評判はつきまとっているけれど、フェアでもないし、自分では正当性のあるものだとは思わない。ギャスパーの作品はエッジの効いたコンセプトムービーだ。僕の作品はもっと人間の本能に基づいたものだと思う。テーマの関連性という点でも類似点はないと思う。

ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
Fabrice Du Welz

1972年10月21日生まれ、ベルギー出身。リエージュの国立演劇学院を卒業後、ブリュッセルの映画研究所INSASで演出を学ぶ。その後、テレビのバラエティ番組司会者などを経て、99年に制作された短編『Quand On Est Amoureux Cest Merveilleux』で、第7回ジュラルメール映画祭グランプリを受賞。初の長編作品となる『変態村』(04年)はカンヌ映画祭・批評家週間をはじめ、各地の映画祭で物議を醸し、ヨーロッパ映画界を騒然とさせた。08年にエマニュエル・ベアールを主演に迎えたホラー・サスペンス映画『変態島』を監督、第41回シッチェス・カタロニア国際映画祭にて、ファンタスティック・コンペティション部門のカルネー・ホベン審査員賞受賞を受賞。本作は“ベルギーの闇3部作”の第2弾。