1936年5月4日生まれ。アメリカ、カリフォルニア州出身。カリフォルニア大学卒業後、フリーのデザイナーとして働き、1962年にフランシス・フォード・コッポラと出会い、結婚。二男一女をもうける。夫の監督作『地獄の黙示録』(79)の製作現場を追ったドキュメンタリー『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』(91)を共同監督し、エミー賞など多数受賞。以降、家族の監督した映画の現場を追うドキュメンタリーを手がける。『ボンジュール、アン』は初のフィクション映画。
夫は映画界の巨匠、フランシス・フォード・コッポラ。娘のソフィアも先日カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞、さらに息子も孫も映画監督という環境に暮らすエレノア・コッポラ。家族の監督作のメイキングなど、ドキュメンタリーを撮り続けてきた彼女は80歳にして『ボンジュール、アン』で長編映画監督デビューを果たした。
カンヌからパリまで、夫の仕事仲間の運転でのドライブ旅行を描くストーリーはエレノア自身の体験に基づくもの。ヒロイン、アンを演じるのは80年代からフランシスの作品に出演していたダイアン・レイン。気心の知れた2人が揃って来日した。
コッポラ:ストーリーを考えたり、脚本執筆の段階では非常に楽にできたけど、大変だったのはお金を集めること。それが一番のチャレンジでしたね。つまり、派手なドラマもカーチェイスなく、宇宙人もロボットも出てこないし、銃撃戦も列車の暴走もない(笑)。女性は分かってくれるけど、お金を出す男たちは「これじゃ映画にならない」と言う。本当に苦労して、資金集めに6年もかかりました。
コッポラ:夫は最初、あまり応援してはくれなかったんです。実現は無理だと思っていたみたい。それで私が悲しむことになると考えて、あまり積極的に応援はしなかった。でも、もう製作が始まるというところまでこぎつけた時に問題が発生したら、彼は手を差し伸べてくれました。そういうトラブルへの対処の仕方をよく知っているから。
レイン:すごくわくわくしました。彼女がそういう夢を持っていたことを知って、わくわくしたんです。そして映画が完成して、一緒に取材を受けながらエレノアの話を聞いていると、彼女が「今度は私の番よ」と声を上げるのに、どれだけの勇気を要したかがわかった気がします。
コッポラ:私、席を外そうかしら(笑)?
レイン:大丈夫よ(笑)。彼女が多くの経験を重ねてきたことはよく知っています。映画監督である家族の世話をしながら、映画作りの過程をずっと見てきたわけだから。食事をとらせて、心配事を聞いてあげて、サポートしてきたんです。そんな彼女が自ら運転席に座る瞬間、つまり彼女が舵を取る瞬間に立ち会えたのは、とてもうれしかった。車に乗るのも、運転するのとしないのとでは全然違うから。
コッポラ:素晴らしい例えね。
レイン:彼女の勇気を通して、私も喜びを味わいました。エレノアには前にも話したけど、この映画に『ワン・フロム・ザ・ハート』というタイトルをつけられなくて残念。“心から来ているもの”という意味だけど、フランシスの作品にすでにつけられているから。
レイン:全くなかったです。エレノアが自分のミューズと自分の経験、友人からもらった最高アドバイスを合わせて作った、ハイブリッドのように感じてました。彼女の聡明さの現れだと思うんです。アンは映画の結末に至ってもまだ模索し続けています。(コッポラに向かって)私にとっては、作品を介して、あなたの経験を追体験できたのは素晴らしいご褒美だったわ。
コッポラ:私は確かにフランスの男性と、ほとんど同じルートで実際にドライブしたことがあります。目の覚めるような経験でした。毎日iPhoneやコンピュータ、メールに振り回される生活から距離を置いて、田舎の風景を楽しみ、美味しいものを食べて……。で、帰国してから、自分の感じた新鮮な驚きを映画にしたくなったんです。でも、映画をもっと楽しくするために、自由に想像や創作を入れて、キャラクターはよりユニークに、特にジャックはもっとカラフルにしました。私たちのドライブでは車も故障しなかったし(笑)、そういうことは全部創作で付け加えていきました。
レイン:睡眠とお水かな。水をよく飲むこと。それから私の場合は遺伝かな。母がとてもきれいだったの。だから、ちょっとズルをしてる(笑)。でも、『ボンジュール、アン』という作品から学んだのは、いつであろうとどこであろうと人生の美しさを楽しむこと。そうすることで、ものの見方や感じ方を広げていけると思います。
コッポラ:私も「睡眠と水」には断然賛成ね(笑)。あとは自分のやりたいと思うことに時間を費やすというのも関係しているかも。誰もが忙しい生活を送っていて、これをしなくちゃいけないという義務感に追われて、本当に情熱を注ぎたいものに背を向けてしまいがちでしょう。自分の魂を豊かにすることを忘れてしまう。私は、人はそれぞれ雪の結晶みたいだと思っています。ユニークで、1つ1つ違う。自分は何者なのかを自ら見極めて、それに従っていかなくてはね。
コッポラ:ドキュメンタリーとは正反対ね。ドキュメンタリーは、そこで実際に起きていることをありのまま、カメラで捉えるもの。もし何かうまくいかないことが起きると、より面白くなる。そういう問題や困難に迫っていくと、ドキュメンタリーは豊かになる。でも、フィクションを撮っている場合にそういう危機に直面すると、私自身が解決しなきゃならない。これは新しい経験だったし、私の家族を含めた映画監督という人たちへの共感と同情が強まりました。
レイン:私は、エレノアがフランス語の台詞に敢えて字幕を付けなかったところが気に入っています。そうすることで、アン自身が言葉の通じない環境で迷子のような気分を味わっている感じが伝わると思う。自分でコントロールできず、新しいものを受け入れざるを得ない状態を強調しているというか。結論を急ぎすぎず、瞬間瞬間を味わうというのも、伝えたいメッセージじゃないかと思います。
コッポラ:撮影の準備を見ていたんです。椅子に座ってちょっと休みながらね。それをたまたま撮られたんです。撮影最終日の、終わり間近な時でした。もっときれいな女優がいたはずなのに。まあ、若いレディたちもいつかは必ずこうなるのよ、ということを示すためだということにしています、自分の中では(笑)。
(text:冨永由紀/photo:中村好伸)
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