1990年4月27日生まれ。フランス・ボルドー出身。パリで演技を学び、2009年にコスメブランド「ブルジョワ」のCMに出演して注目を集める。その後TVドラマ出演を経て、2011年にフレデリック・ルフ監督の『女の子が好き』で映画デビュー。クリスチャン・デュゲイ監督『世界にひとつの金メダル』(13年)、メラニー・ロランが監督を務めた『Respire(原題)』(14年)でセザール賞有望若手女優賞に2年連続でノミネート。ピエロ・メッシーナ監督、ジュリエット・ビノシュ共演の『待つ女たち』(15年)などに出演。テレビドラマや舞台でも活躍中。
第二次世界大戦が終わったその年の冬、ポーランドの赤十字の施設で医療活動に従事するフランス人の若き女性医師・マチルドは、見知らぬ尼僧に請われて、ある修道院を訪ねる。そこには戦争末期のソ連兵の蛮行によって身ごもった7人の修道女がいた。信仰、そして新しい命を救おうとする使命感を軸に、戦争がもたらす残酷な現実と悲劇に立ち向かう女性たちを描いた『夜明けの祈り』。言葉も通じない異国で、信念を貫くために活動したヒロインを演じたフランスのルー・ドゥ・ラージュが6月開催のフランス映画祭で来日した。
ドゥ・ラージュ:滅多に出会えないくらい素晴らしい脚本だったからです。史実に基づいた物語で、重いテーマでしたが。監督とのフィーリングもとても合いました。私にとって、いい挑戦になると思ったんです。私がそれまで演じてきたのは10代の少女の役ばかりだったので。マチルドも若いですが、大人の女性です。
ドゥ・ラージュ:事実を基にしていますが、かなり脚色もしています。というのは、彼女が遺したのは日記には私的なことはほとんど書かれていません。何が起きたかを淡々と記録した臨床学的な日誌です。ですから、彼女がどんな女性だったのかについては、私自身で作っていかなければならなかった部分もありました。日記の中には、神父さんからの手紙が収められているのですが、「いつの日か、この女性の存在を世に知らせてほしい。彼女は本物のヒロインなのだから」とあって、それを実現させなければ、と思いました。
ドゥ・ラージュ:マチルド自身がポーランド語は堪能ではないので、流ちょうに話す必要はありませんでしたが、やはり大変でした。世界で一番複雑な言語とも言われていますから。私はポーランド語を一言も話せなかったので、セリフはポーランドの女優が録音してくれたものを耳で聞いて覚えました。まるで子どもみたいだったので、よく笑われました(笑)。そのほかの準備をするにも時間はあまりなかったです。私が現場に入ったのは、撮影が始まってしばらく経ってからだったので。医師の技術的な動作については産婦人科の医師や助産婦の人に会って指導を受けました。
ドゥ・ラージュ:とても穏やかなものでした。彼女は自分の望むものをよくわかっている人です。厳しくて冷たいイメージを抱かれがちな女性ですが、いつも落ち着いている人だから、すごくやりやすかった。重いテーマの作品でしたが、監督も女性、出演者もほぼ女性だけという現場は美しいエネルギーに満ちて、とてもいい雰囲気でした。
ドゥ・ラージュ:全編ポーランド撮影です。2ヵ月間、修道院跡で撮りました。赤十字の病院も今は使われていない駅舎でした。フランスでの撮影とは違う点もありました。ポーランドのスタッフは数が多いんです。細かく役割分担がされている。だから、現場に入ってすぐの頃は「誰に何を聞けばいいの?」と迷ってばかりでした。と言っても、監督はフランス人だし、基本的に撮影はフランス流で進んでいきました。共演したポーランドの女優たちからも多くを学びました。役についても、彼女たちは脚本を読み込んで、みんなで話し合いを重ねていきます。すごく熱心で、その綿密な仕事ぶりに学ぶことはたくさんありました。
ドゥ・ラージュ:アガタ・ブゼクと食堂で語り合うシーンです。彼女はほとんどフランス語を話せないけれど、映画の中では私よりもずっと美しいフランス語を話しています。あのシーンでは、彼女を見ているだけで、彼女の表現に応えていくだけで、自然と泣けてきて、演技をする必要なんてなかったくらい。撮影前に1週間リハーサルをしたのですが、その時点で「この人たちは只者ではない、大女優たちなんだ」と感じました。
ドゥ・ラージュ:私も撮影現場でそう感じていました(笑)。映画の内容と私の実体験が並行して進んでいるようでしたね。彼女たち同士は当然ポーランド語で喋っていて、私はさっぱりわからない。どうやって彼女たちと親しくなっていけばいいんだろうと思っていました(笑)。でも、その感覚が演技に生かされたと思います。
ドゥ・ラージュ:人としてこの映画の中で、花が咲いていくように、進化していく素敵な役だと思います。彼女は若さゆえに、自分が正しいと思い込む頑固な面があります。でも、修道女たちとの出会いによって、科学者としての固さが少し変化していく。もちろん彼女自身の信念、信条を保ちながら。
ドゥ・ラージュ:彼とは撮影が始まるまで会ったことはなかったんです。フランスでは演出家としても有名ですが、とても面白い人です。エネルギッシュで、質問を矢継ぎ早にして、いつもソワソワして……すごく繊細な人です。映画で彼が演じている役が醸す優しさや温かさは、実際の彼が持っているものだったので、そういう意味でもいい出会いになったと思います。今回の彼は女性たちの中でたった1人の男性という状態。普通とは逆でしたね(笑)。
ドゥ・ラージュ:6歳から両親に「舞台がやりたい」と話していました。でも、どこからその考えが浮かんだのかはわかりません(笑)。どうやったらその世界に入れるのかもわかりませんでした。幸い、その後に良き星に導かれ、いい出会いに恵まれて、映画界に入ることができました。実際に仕事をし始めて、改めて「これが私のやりたかったことだ」と思いました。こういう表現方法を求めていたんだと思ったんです。女優になる前にはダンスをやっていたのですが、ダンスには言葉というものがありません。演劇や映画は私の肉体と言葉、両方を使って表現できる手段だったのです。
ドゥ・ラージュ:好きな女優はたくさんいますが、誰か特定の人のファンだったことはありません。子どもの頃から、「仕事は素晴らしくても、実生活では最悪かもしれない」と思ったりして、誰かに憧れることはなかった(笑)。でも今回の映画祭では、カトリーヌ・ドヌーヴやイザベル・ユペールといった大女優の方々とご一緒できて光栄です。好きな女優はジーナ・ローランズ、ロミー・シュナイダーです。
ドゥ・ラージュ:毎回どの役もそうですが、自分の内面の探求だと感じています。演じることは自分自身を成長させる旅のようなもので、今回もそうでした。アンヌ・フォンテーヌから無表情で淡々と演じるように指示されて、こんな無表情で何か伝わるのか、と不安になるくらいでしたけど、興味深くいい経験になりました。
(text:冨永由紀/photo:中村好伸)
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