1973年1月19日生まれ、スイスのシエール出身。リヨンのエコール・エミール・コールでイラストレーションとコンピューター・グラフィックスを学び、人類学とデジタル画像の学位で卒業後、ローザンヌ州立美術学校にてコンピューター・グラフィックスを学ぶ。いくつかの短編を監督した後、本作『ぼくの名前はズッキーニ』が長編デビュー作となる。
“フランスのアカデミー賞”とも言えるセザール賞で最優秀長編アニメーション賞を受賞、さらには実写映画を押さえて堂々、最優秀脚色賞を受賞したストップモーションアニメ『ぼくの名前はズッキーニ』。アメリカでもズッキーニ旋風を巻き起こし、Rotten Tomatoesでは満足度100%の高評価を獲得したアニメーション映画が、2月10日より公開される。
不慮の事故で両親を亡くした9歳の少年・ズッキーニが、孤児院に預けられ、自分の居場所を探していく本作についてクロード・バラス監督に語ってもらった。
監督:まず、優しくてポエティカルな成長物語であるジル・パリスの原作「Autobiographie d’une courgette」の虜になりました。その物語と文体は、私を子ども時代に連れ戻してくれます。そして、当時『大人は判ってくれない』、「家なき子」、「ベル&セバスチャン(アルプスの村の犬と少年 )」、「アルプスの少女ハイジ」、『バンビ』などを見て、初めて感じた”心のときめき”を思い出させてくれました。今回、このアニメ映画を作ることで、今の私を育て、形作ってくれたその驚くべき感情を、少しでも今の観客と共有したいと思いました。
この映画は何よりも、育児放棄をされ、虐待されて、傷を抱えながらも必死に生きる子どもたちへのオマージュでもあります。私たちのヒーロー、ズッキーニはたくさんの困難を経験し、母親を亡くしたあと自分は世界でひとりぼっちだと思ってしまう。そのなかで孤児院での新たな生活で信頼できる友だちができ、恋に落ちて、いつか幸せになれるのではないかと思えるようになるのです。
彼は、人生で学ぶべきことがまだまだあるのです。このシンプルで深いメッセージを、我々の子どもたちに伝えていく必要があると思い、この願いが私を導いてくれました。
監督:私がジル・パリスの本を映画化しようと思ったのは、今の世界で起きている子どもの虐待と、(虐待から)立ち直ることを伝えられる、子どもについての映画を作りたかったからです。笑って、同時に泣くことができるエンターテイメントでありながら、実際にいま起きていることを描写し、仲間がいることで生まれる癒しの力の大きさを伝え、思いやり、友情、分かち合うこと、そして寛容さを広げていきたかったのです。
『大人は判ってくれない』や『コーラス』のように、現代の映画の中では、児童養護施設は虐待の場であり、自由な世界は外にあると描かれていることが多いけれど、『ぼくの名前はズッキーニ』では、そのパターンを反転させて、虐待は外の世界で行われ、施設は治癒と再生の場になっています。これがこの物語を素晴らしく、新しいものにしています。
実際に施設で時間を過ごしてみて、このテーマを扱うには細心の注意を払わなければならないことに気づきました。それは、愛情に飢えながら生きている子どもたちと、大人たちの世界の関係の中心にあるものだからです。養子縁組について、里親と、親族による親権獲得という現代の2つの動向に合わせて描きました。子どもの年齢、大人の意図次第で、養子縁組は虐待の悪循環に戻ってしまう場合もありますし、世界と再び繋がることができる可能性ともあります。今日さまざまな形の家族がある中で、私たちの社会における多様な家族像をしっかりと伝えることが特に重要だと考えました。
監督:子どもたちが受ける暴力をしっかり描いているため、原作の大部分は若者や親たちに向けられています。この物語をアニメーションとして映画化するにあたり、私はもっと間口を広げて、幼い子どもたちにも見てもらえるものにしたいと思いました。長時間をかけて初期段階の脚本執筆をした後、プロデューサーがセリーヌ・シアマと組んでみてはどうかと提案してくれました。私は数ヵ月前にちょうど見ていた『トムボーイ』が大好きでした。というわけで、私たちは頻繁に会ってアイデアを交換し、日記形式の物語を展開していく際に穴がないよう話し合いました。セリーヌは、脚本を一流に構築し、ユーモアとエモーション、冒険と社会のリアリズムのバランスをとる方法を知っていました。暗く悲劇的な過去の出来事を微かに呼び起こしながら、新たに芽生える友情が生き生きと映るように、キャラクターを繊細に扱うことで、すばらしい脚本を完成させることができました。
監督:はい。そして、声と、マイクの前で緊張しないでいられるかどうかで選びました。アフレコを通して(物語を)実際に経験をしていく役者たちが、お互い可能な限り自然に振る舞えるグループを作りたかったので、役者たちの性格と年齢を最終的な役柄に生かしました。子どもたちに寄り添い、彼らが自信を持って演技をできる環境を作るために、大人たちの役にはプロの役者を選びました。この選択は完璧でした。例えば、ミシェル・ヴュイエルモーズはレイモンに驚くべき人間性とユニークさ、深みを与えてくれ、子どもたちとの強い絆を築き上げてくれました。6週間のアフレコ作業でシーン、シークエンスを重ねながら、役者たちは、心の琴線に触れる、本物の感情を映画に与えてくれました。
会話は、自然で、短く、テンポよく、動きに合わせて、間と共に語られ、時に生じるズレも、キャラクターの心理描写に深みを与えてくれます。沈黙や間には、たっぷり意味があり、視線に余白を与え、言葉によらないコミュニケーションを可能にしました。アフレコ中の子どもたちの自然な言葉を取り入れることで、会話はより豊かに、珍しいほどに幅広い感情のある、詩的でナチュラルなものになっていきました。また、声だけの演技ではなく、実際の映像の動きに合わせたアクションをとることで、物語にリアルさが加わったのです。
監督: 『ぼくの名前はズッキーニ』はキャラクターたちの精神生活、私的な世界を描くべく作られた映画です。小さな身振り、表情、瞬き、待ちの”間”に、時間をしっかりと割くことがとても重要でした。鳥のカップルが巣を作る間に愛を交わすとか、都会のランドスケープ、雲で覆われた空、雷、明るい地平線がキャラクターの内面を映し出しています。
典型的なアニメーションでは短いショットを重ねることが多いですが、本作では長回しのショットで表情や感情をしっかり映すようにしました。
監督:ストップモーションは、フィクションとアニメーションが交差する手作りの冒険で、映画が伝えようとしている価値に近いものです。何よりも、制作の中心にあるのは協働の精神で、それぞれのセクションが目的とノウハウを共有しなくてはなりません。
60ほどのセットを作って色をつけ、54の人形に3種類の衣装をつけなければなりませんでした。そして、8ヵ月以上の間、15の映画セットにおいて3秒ずつのリズムで、アニメーターが日々撮影を重ねて70分の映画を撮りました。そして、映画に音をつけ、グリーンバックで前景、背景、空、雲、その他のコンピューター処理された景色のすべてのショットを合成するために、さらに8ヵ月が要されました。
本作の制作は、結果的に2年間、50人以上の職人の絶え間ない努力が必要となりましたが、素晴らしいチームのおかげで、常に適切な制作環境で撮影を進めることができました。
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