『レオン』竹中直人インタビュー

これぞ理想の俳優! 竹中直人が監督たちから愛される理由とは?

#竹中直人

どんな状況でも臨機応変に対応できるフットワークの軽さは持っていたい

女好きのワンマン社長と、地味でナイスバディだけが取り柄のOLの”心”と”身体”が入れ替わってしまうという大倉かおり&清智英のコミックを実写映画化した『レオン』。

本作で女好きのワンマン社長・朝比奈玲男を演じているのが名優・竹中直人だ。主役からカメオ出演まで、出演時間の長さに関係なく強い存在感を見せ、さらに映画監督を務めるなど、非常に幅広い活躍を見せる竹中が、タッグを組んだ元KARAの知英の印象や、俳優としての在り方などを語った。

──男女が入れ替わってしまうという痛快なコメディ作品でしたが、塚本連平監督からはどんな演出があったのでしょうか?

竹中直人

竹中:連平監督とは過去にも何本がご一緒しているのですが、繊細な佇まいを持っていて、静かな監督なんです。僕と知英が何度か本読みをしているときも、静かにうなずいているだけでも十分演出できるような監督ですね。ただ、基本的に本読みなどをしても、現場に入ってみないと分からないことは多いですからね。衣装を着て、ロケ場所に行って動くことで役は生まれるものだと思います。

──ライブ感が重要ということでしょうか?

竹中:舞台ほどではありませんが、基本的には映画もライブだと思うんです。最低限の決め事はありますが、カメラの前では即興的なライブのような感じが大切です。

竹中直人

──その意味では、知英さん演じる小鳥遊玲音とのやり取りは、すごく躍動感あるように感じられました。

竹中:知英とはとても相性が良かったですね。とても開放的な方で、お芝居のリズムも素晴らしい。ある種のテンションをキープしてとても気持ちがいい演技をする方ですね。チャーミングであり、美しくもある。緊張しないで並んでいられる人です。

──竹中さんでも緊張されることがあるのですか?

竹中:もちろんしますよ(笑)。特に舞台は緊張します。セリフを間違えてもそのままやらなければいけないですからね。映画やテレビはカットがかけられるからまだいいですが、フィルム撮影していた時代は決めショットというのがあって、そのときはNGは絶対に出せない緊張感がありました。失敗したらフィルム代も高いですからね。

女好きのワンマン社長を演じた竹中直人
──では昔の方が緊張感はすごかったのですか?

竹中:テストも繰り返しますが、本番では失敗できないというプレッシャーが本当にすごかった。でも、五社英雄監督や周防正行監督などは、何度NG出しても「よーござんすよ。竹中直人のためにフィルムはあるのだから」って仰ってくださいましたが。

──では本番前は集中したいタイプですか?

竹中:俳優は集中力だと思います。だからといって面倒くさい俳優にはなりたくないので、ギリギリまでふざけていますけれどね。どんな状況でも臨機応変に対応できるフットワークの軽さは持っていたいです。役者にはいろいろなタイプがいますが、常に客観性を持つことは必要だと思います。僕は役を引きずるタイプではないので、カットがかかればそこで役は終わり、次本番になったらまたその役になる。そのとき、常にどうしたらおもしろくなるか考えますが、それは自分の価値観でしかないので、自分の価値観と監督の価値観を融合させることが大切だと思います。

地味なOL(知英)とワンマン社長(竹中直人)の身体が入れ替わってしまい…
──さまざまな役柄をされていますが、ご自身のなかで受ける、受けないという基準はありますか?

竹中:それはないですね。監督として作品を作りたいという思いはありますが、役はスケジュールさえ合えば、基本的にはどんな役でもやりたいと思っています。台本を読んでから決めるのは嫌いです。デビューしたてのころ、台本をもらうことがうれしかったのに、だんだん年を重ねて仕事を選ぶようになるのは嫌ですよね。ひどい台本だなとか、なんだこの監督!?なんてこともありますが、それでもしっかり演じられる役者でいたいなと常に思います。

──作り手からすれば理想的な俳優さんですね。

竹中:長年やっていると、現場でもめてしまう役者さんとかもいるでしょ。僕はぶつぶつ言うぐらいなら「やってしまえ!」と思っちゃうので、どんな状況になっても行けるように心掛けてはいます。

竹中直人の芸達者ぶりが楽しめる!
──昔からそういうお考えなのですか?

竹中:デビューしてから基本的には考え方は変わってないかな。役者なんて、どんなに良い評価をされたって、作品を見ていない人にとっては、まったく意味のない存在ですからね。その意味では、ベテランも若手もない。同じ現場にいけば、みな同じです。もちろん人を敬う気持ちは大切ですが、みんな対等。この年になると、周囲が気を使ってくれたりもしますが、そういうときにこそ常にリセットしてゼロに戻るようにしています。

監督すると、自分の作品の主演女優にはみんな恋しちゃう
身体が入れ替わってしまった地味OL(知英/右)と女好きワンマン社長(竹中直人/左)
──竹中さんは監督もされていますが、キャスティングについてはどんなお考えでしょうか?

竹中:とても大事です。キャスティングによって作品の90%は決まると思っています。あとの10パーセントは現場での即興性じゃないかな。その意味ではまり役というのはあると思います。芝居って本当は芝居をしない方がおもしろいし、計算も見えない方がいい。だからキャスティングは大事です。同じ話でも、キャストが違えばまったく違うものになってしまいます。

──竹中さんが監督された作品もキャスティングにはこだわり抜きましたか?

竹中:もちろんです。自分の作品の主演女優にはみんな恋しちゃっていましたよ。34歳のとき『無能の人』という映画を初めて撮ったのですが、そのときの風吹ジュンさん、2本目の『119』では鈴木京香さん、3本目の『東京日和』では中山美穂さん
、みんな恋心を抱いて、撮影が終わると「とうとう別れが来てしまったな……」と切なくなっちゃいますよね(笑)。

(text:磯部正和/photo: 小川拓洋)

竹中直人
竹中直人
たけなか・なおと

1956年3月20日生まれ、神奈川県出身。83年に『ザ・テレビ演芸』でデビュー。俳優や映画監督、ミュージシャンなど幅広く活動。91年に『無能の人』で映画監督デビューを果たすと、ベネチア国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞する。俳優としては、『シコふんじゃった』(92年)、『EAST MEETS WEST』(95年)、『Shall we ダンス?』(96年)で日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞受賞や、96年には大河ドラマ『秀吉』で主演を務めるなど、国民的俳優として活躍している。