1971年2月26日生まれ、アメリカ・ニュージャージー州出身。ニューヨーク大学映画学科卒業後、『Four Letter Words(原題)』(00年)でデビュー。インディーズ映画で活躍し、監督第4作の『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』(12年)でインディペンデント・スピリッツ賞ロバート・アルトマン賞を受賞。全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』(15年)はサンダンス映画祭でプレミア上映されて大きな反響を呼び、サンフランシスコ映画批評家協会賞脚本賞受賞をはじめ、22の賞に輝いた。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ではウィレム・デフォーがアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、映画俳優組合(SAG)賞などで助演男優賞候補になった。
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』ショーン・ベイカー監督インタビュー
インスタ発女優も! 素人発掘の天才が語るキャスティングの極意とは?
フロリダの安モーテルで若いシングルマザーと暮らす6歳の少女ムーニーと、同じ境遇の友だち2人が半径数キロの世界で繰り広げる冒険を描いた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』。
アカデミー賞など主要映画賞で助演男優賞にノミネートされたウィレム・デフォー以外は無名のキャストばかりだが、彼らのはつらつとした瑞々しい姿に魅了される。来日した監督のショーン・ベイカーに話を聞いた。
監督:素晴らしかったです。もちろん大人とは違うし、だからこその挑戦もあるわけですが、あの子たちとの仕事は非常に楽しかった。みんなエネルギーいっぱいで外向的で、いろいろ試すことに対して恥ずかしがったりしない。セリフもアドリブでどんどん挑戦できるような子たちだったから、僕が心がけたのは、現場を楽しくカジュアルな雰囲気にすること。そうすれば、彼ら自身が楽しめて、それが皆さんに伝わるんです。
監督:大人と同じで、それぞれに経験値が違うので、その人次第ではありますね。スクーティ役を演じたクリストファー・リヴェラの場合は、とにかく『デッドプール』の話ばかりしている子で、そんな彼にとっては『スパイダーマン』に出演していたウィレム・デフォーとの共演が最大のイベントで(笑)。「毎日グリーン・ゴブリン(デフォーが『スパイダーマン』で演じた悪役)に会える!」と喜んでました。
ブルックリンとジャンシー役のヴァレリア・コットはとても仲良くなったので、彼女たちが勝手におしゃべりしているのを撮影して、本編に使った映像もあります。もちろん脚本はあり、そこに書かれたセリフもありましたが、学校についての会話とか、彼女たちが自分の言葉で話す内容の方がリアルなんです。
監督:あれは本当に運が良かった。キャスティングのためにインスタをチェックしていたわけではなくて、たまたまヘイリーがアップした動画を誰かがリポストして、それが目に入ったんです。彼女の笑い方とか仕草に、脚本上のヘイリーと同じものを感じました。ハリウッドの女優をキャスティングする予定で動いていましたが、思い切って製作と話し合い、彼女にオーディションに来てもらったんです。
監督:分かりませんね(笑)……時間をかけることかな。本作のようにキャラクターが引っ張っていく物語の場合は特にそうです。俳優たちがまさに体現しなければならないわけですから。何本か前の長編作から、絶対にキャストの中で脆いリンクは作りたくない、と意識するようになりました。1つ弱いと全部が駄目になってしまうから。そうなると、夜も眠れない。自己中心的な理由です(笑)。
監督:インドのサタジット・レイ監督のオプー三部作(『大地のうた』『大河のうた』『大樹のうた』)からケン・ローチ監督の『ケス』、是枝裕和監督の『誰も知らない』まで、過去の名作をたくさん見て、やるべきこととやってはいけないことを学びました。ドキュメンタリーや、あまり知られていない作品ですど、イランのアミール・ナデリ監督の『駆ける少年』。韓国のユン・ジェギュン監督の『1番街の奇跡』はムーニーが泣くシーンの参考にしました。
監督:そうした存在や親子という関係については、撮影の過程でよりはっきりしてきました。劇中にボビーの息子が出てきますが、これはもともとボビーの弟という設定でした。2、3週間撮っていくうちに、親子というテーマを掘り下げたくなって、脚本を書き変えました。
監督:全く同じ理由です。フィルムにはすごく有機的な資質があって、それは決してデジタルでは得られないものだと思う。光化学のプロセスとか、セルロイドというところもすごく大きくて、他ではなかなか捉えることのできない質感、奥行きがある。特に『フロリダ・プロジェクト』にはぴったりはまるな、と思いました。(ディズニーワールドのある)オーランドに旅行した人が友だちに送る絵はがきのような、そういう資質を求めていたので。
フィルムについての話題なら何時間でも話せるけど(笑)、要は作品によると思います。作品の内容が、どのメディアを使うべきかを教えてくれる。そもそも映画は非常にコストのかかる芸術なので、毎回そんな贅沢ができるとは言えないから、そこが難しいところですね。
──フィルムの美しさに見とれていると、最後の瞬間にiPhoneで撮影した映像に切り替わります。急に画面の様子が変わりますね。
作品中、最もリアリティから逸脱する場面で最も生々しい映像に変わるのが面白いと思いました。35ミリの映像は全てを現実より少し美しく見せる、フィクションにふさわしいメディアだと思いますが、iPhoneの映像はもう少し生々しくなる。その生々しさを、ある種ファンタジーとも取れるシーンに使った意図をお聞きしたいです。
監督:それを指摘されたのは初めてです。気づいてもらえてよかった。iPhoneを使ったのは、あのシーンはスタッフ・キャストとも最小限の人数でのゲリラ撮影でした。となると、撮るのはiPhoneだよね、と。しかもメディア的にそこで変換するわけで、そこにどんな意味があるのか。ちゃんと物語に応じて考えなければならなかった。そこで思ったのが、まさに今、おっしゃったことだったんです。現実を撮るのに即していると言われるメディアを、もしかしたら現実じゃないかもしれないものを撮るために、チョイスしたということです。
監督:過度な説明には僕自身が引いてしまうんです。いかに隠しながら、それを分かってもらえるように伝えるのかが大切だと思っています。ムーニーたちのような境遇の子どもたちを描く時、彼らの立場になってみると、きっと彼らは親たちが直面している問題を完全には理解していないと思うんです。そして本作は彼らの視点で描くので、すべてをはっきり描写する必要はないと思い、説明的なシーンは省いていきました。少し撮ってはいたんですが、編集段階でカットしました。まるで違う作品のシーンみたいだった。観客をムーニーと同じ立場にすることを選びました。
(text:冨永由紀/photo:中村好伸)
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