1943年1月15日生まれ、東京都出身。1961年に文学座に入り、「悠木千帆」名義で女優活動を始める。1964年に森繁久彌主演のテレビドラマ『七人の孫』にレギュラー出演し、人気を博す。20代から老け役を演じ、テレビドラマ『寺内貫太郎一家』(74年)の貫太郎の母役は大反響を呼んだ。映画にも幅広いジャンルの作品に出演し、近年は『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(07年)、『わが母の記』(11年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、『悪人』(10年)で同最優秀助演女優賞を受賞。その他、『歩いても 歩いても』(08年)、『ツナグ』(12年)、『そして父になる』(13年)、『海街diary』(15年)、『海よりもまだ深く』(16年)、『あん』(15年)、『万引き家族』(18年)などに出演。
山崎努と樹木希林。日本が誇る2人の名優が初共演を果たした『モリのいる場所』が5月19日より公開される。30年間ほとんど自宅を出ることなく、小さな庭の生き物たちを見つめ、描き続けてきた画家・熊谷守一(モリ)とその妻・秀子の味わい深い暮らしを綴った作品だ。本作で秀子を演じた樹木希林に話を聞いた。
樹木:もう飛びつきました。あの熊谷守一さんを演じられる山努さんのそばにいられるんですから……だからすぐにハイって。山さんとはこれまで、ご一緒するチャンスが全くなかったんです。この映画で出会わせてもらえ、至福でした。
樹木:20代の終わりぐらいに知人から奨められ、見るようになりました。初期は写実的なタッチ、それが年齢と共に変わっていき、抽象的な、極端に単純化されたスタイルになった。その過程と、守一さん本人の生き方がとても味わい深いです。
樹木:お二人を実際に知っている方々の話を聞くと、つまらないことでけっこう口喧嘩をしている夫婦だったらしいですね。“相手”は佇まいが特殊なだけで、別に仙人の伴侶ぽくしなくてもよく、普通の感覚で接すればいいんだな、と。いちいち目を見て話さなかったり、時にはぞんざいな態度をとったりして、ごく有り体な夫婦のような空気感を大事にしました。
樹木:いえ、山さんは前方の席、わたしは後方で。自分の姿を見るのはいつまで経っても恥ずかしい。映画が終わったら山さんが「かあちゃん、可愛かったよ〜」と声をかけてくださってね、「嬉しいです」とわたしは答えました。
樹木:なかなか愉快な映画ができたのではないでしょうか。ある不思議な、生きものたちの生態を細部に至るまで覗いているような。それこそ庭には、左の二番目の足から歩きだす蟻もいれば、いろんな生きものがいて、モリやわたしたちもまたそのひとつなわけです。こんな作品に出られて、俳優として得しました。
樹木:池谷さんも聴いたことなかったんだって。一所懸命、現場で歌詞とメロディーを覚えてた。時の流れを感じますねえ。
それから、カメラマンのアシスタント役の吉村界人くん、あの子、普段も映画みたいにマイペースでトボけていて面白かった。口元が色っぽいのよね。それで私が「あなた、ジュリーのデビューの頃に似てるよ」って言ったら、「ジュリーって誰すか?」と平然と(笑)。
樹木:一ヵ所どこかに、あの言葉を入れたかったの。5人の子どものうち、3人を赤貧で亡くしているんです。単に、のほほんと人生を送ってきた夫婦ではないんですよね。そんな“背景”を出したくて。
樹木:『キツツキと雨』を見たら、安心して参加できました。役者をよく見ているし、生きもの全般に対して愛情があるのよね。モリが「みんな、学校がなくていいな」って渋々、画室に入って行くじゃない。わたしはその前に、やさしく諭すように「……ほーら」って言う。「早く行きなさいよ」ではなくて。こういうセリフが言える映画は素敵です。本当に素敵です。
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