1973年10月10日カルナータカ州ライチュール生まれ。CMの製作、ETVのテレビドラマ演出を経て、2001年にNTRジュニア主演の『STUDENT NO.1』で監督デビュー。その後もヒット作を連発し、一躍テルグ語映画界のヒットメーカーとして期待の存在となる。2012年、ハエが主人公となる『マッキー』は、ラージャマウリ監督の天才ぶりを世界中に知らしめ、世界興収1900万ドルのメガヒットを記録、数々の賞を獲得した。そうした成功を積み重ね、キャリアの集大成として挑んだ『バーフバリ』2部作は世界興収3万7000万ドルを記録し、まさにインド映画史上最大の映画となった。
『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』S・S・ラージャマウリ監督インタビュー
絶叫上映も大盛況! インドのヒットメーカーが熱いエンタメ魂を語る
インド映画史上歴代最高興収を達成し、日本でも異例の人気を集める映画『バーフバリ 王の凱旋』。古代インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」をベースに祖父、父、息子と三世代にわたる愛と復讐の物語は、多くのファンの心をつかみ、そしてまたたく間に広がっていった。
そんな同作のロングランヒットを受け、6月1日よりオリジナル・テルグ語版での完全版公開が決定。その熱狂の渦はいまだやむ気配も見えない。その祝祭感あふれる神話的世界を創造したS・S・ラージャマウリ監督に本作の魅力を聞いた。
監督:かつてインドでは映画が100日、200日という期間で、ロングラン上映されることがありました。ですから日本で今、わたしの映画が皆さんに受け入れてもらえているこの状況というのは、本当に昔のインドを思わせるような感じがします。現代のインドでは2週間、3週間で上映が終わってしまうのが普通になってしまっていて、ロングラン上映というのは難しいんです。それはどこの国でも同じ状況だと思うんですが。でも、日本では1週、2週、3週と上映するにつれて、お客さんが増えていったと聞きました。なんだか15年前のインドを思い出したような気分です。
監督:もしわたしに男の子と女の子の子どもがいたとしたら、今の質問は「息子と娘、どちらが大事ですか?」と聞かれるようなものなんです。つまり、まず日本で先に公開されたバージョンは展開が早くて、ローラーコースターのようにどんどん転がっていく楽しみ方ができるものだと思うんです。一方、完全版の方は、それぞれの余韻に浸って、そこのシーンに長くとどまっていけるもの。わたしにとっては両バージョンの違いというのは、そういう受け取り方の違いでしかない。ですから、完全版がよりハードコアな、熱狂的なファン向けの作品であるといった、そういう位置付けの作品ではないのです。
監督:人生においてエンターテインメントは欠かせないものであり、その必要性というものを重要に感じているんです。かつて人が狩猟をしていた時代がありました。彼らはその日に生きて帰ることができるのかどうかも分からない。だから彼らは、家に無事に帰ることができたら、家族で火を囲んで、家族に話を伝えていたんです。そうすることによって恐れや不安から自分を解放していたわけですね。物語というものは、自分とは違う人生や違う体験を味あわせてくれる。それが活力を与えてくれるし、また次の日も生きていこうという力となる。でもそれは現代だって同じことですよね。われわれだっていろいろな問題を抱えながら日々生きているわけです。そんな時、エンターテインメントは、そういったことを忘れさせてくれて、明日を生きるための活力、勇気を与えてくれる。そのための手段が映画であり、ファンタジーな世界を構築するということなんです。
監督:その通りです。CGというのは、まさに物語を伝えるためのツールなんです。CGを使うと、“CGを使った映画”というジャンルがあるかのように捉えられがちなんですが、それは間違っていると思います。CGというのは話を伝え、解釈し、まわりの人に分かりやすく翻訳するためのツールであるのだとわたしは捉えています。
監督:そうですね。ただやはり、脈絡無く、いきなりCGを使うのは危険なことなんです。もちろん私が描いているキャラクターは、普通の人間の力をはるかに超えたことをやってのけるわけですが、そこには必然性、信ぴょう性がなくてはならない。『バーフバリ』でも、パート1の時からしっかりとキャラクターの行動、どういう人物なのかを確立させた上で使っていいのではないかと思います。
監督:そうですね。おっしゃる通り、わたしはそういった他人を喜ばせるためならなんでもしたいと思うタイプの人間だとは思います。ただ先ほどの質問に戻りますが、だからといって、そこでCGで簡単に問題の解決策を提示するということはやりたくない。やはり頭から計算して、なぜそこに向かうのかを見せなくてはいけない。例えばパート1の『伝説誕生』では、最初に主人公シヴドゥが山を越え、滝を登り、そしてようやく滝に背を向けて矢を射ることができるようになる。そういった成長の課程を見せているんです。また、彼の父親は国民を助けるためにヤシの木で水を運んだ、という描写を入れています。あくまでそういったことをできる力を持った人なんだということを確立した上でないと、いきなり荒唐無稽な描写をポッと出したところで、それは物語として機能しないんです。
監督:その通りです。ただ補足しておきたいのは、人間というのは感情を震わせることがあると、火事場のばか力といったものを発揮できるということなんです。例えばパート1の『伝説誕生』でずっと滝を越えられなかったシブドゥが恋の力によって成し遂げることができるようになる。そしてその思いがパート2の『王の凱旋』で、母を救いたいという気持ちにつながる。つまり何かスイッチが入ると、より力が出るということなんです。といってもわたしの場合はかなりとんでもないところまで力が入って、発揮されてしまうわけですが(笑)。
──確かに(笑)。この映画のイマジネーションの豊かさに感動してしまいます。日本では時代劇という表現スタイルがあり、直接見た時代ではないゆえに逆にイマジネーションを自由に膨らませて物語を作ることができるということがあります。この『バーフバリ』の豊かなイマジネーションによる世界観も、神話が題材であるということが大きいのではないでしょうか?
監督:そうですね。神話というのは自分で世界を自由に確立することができるものだと思います。ただしそれはどこまでも信ぴょう性があって、共感が得られないと機能しないことであることは忘れてはならない。いくら荒唐無稽な世界観を作りあげたとしても、話を伝えるためのルールと言うのは存在すると思います。
監督:バーフバリというのはきっとインドだけでなく、国を超えた普遍的な存在なんだと思うんです。皆が統治者にも望むことは、まず正義をしっかり持っていること。そして身分を問わず、国民を尊重すること。そしてその統治者が男性ならば女性、つまり妻と母を尊重するということ。そして自分を犠牲にする覚悟があるということ。これだけの素質を持ったリーダーを望まない人はいないと思います。
監督:それはきっと世界中の皆さんがそう思ってると思います(笑)。
監督:いえいえ。絶叫上映の様子をビデオで見させていただいたんですが、日本の皆さんはわたしが思った以上に、私の想像をはるかに超えたリアクションをしてくださっている。愛を持って映画を楽しんでくださっているので、わたしの方からどうこう言えることはありません。ただ、日本でこういう風に受け入れてくださっていることはいまだに信じられなくて。心の底からありがとうございますとお礼を言いたいです。
監督:日本の「バーフバリ」ファンの皆さんにお伝えしたいことは、まずはありがとうということ。皆さんの愛と応援を本当に感謝しています。わたしからのメッセージというよりも、逆に皆さんの愛をインドに持ち帰って、この映画のスタッフ、キャストとみんなで分かち合いたいと思います。
(text&photo:壬生智裕)
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