1962年6月6日生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビ制作会社を経て、95年に『幻の光』で監督デビュー。『誰も知らない』(04年)で主演の柳楽優弥にカンヌ国際映画祭最優秀男優賞をもたらす。『そして父になる』(13年)で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。その他、『ワンダフルライフ』(98年)、『花よりもなほ』(06年)、『歩いても 歩いても』(08年)、『空気人形』(09年)、『奇跡』(11年)、『三度目の殺人』(17年)などを監督。
是枝裕和監督が、家族、そして絆の意味について問いかけた『万引き家族』が公開された。カンヌ国際映画祭で最高賞・パルムドールを受賞し、審査員長を務めたケイト・ブランシェットが「見えない家族を描いた」と絶賛した本作について、是枝監督に語ってもらった。
監督:悲願ってよく新聞に書かれていたんですけど、言ったことは一度もなくて……。賞というのは目標にするものではないといつも思っています。この場所に来て、クロージングセレモニーに立てるということはとても光栄なことですし、ましてや最高賞をいただくというのは、僕自身のキャリアにとっても大きなステップアップとなるでしょうし、これであと20年くらいは作りたいなという勇気をもらった気がします。
監督:変わりません。スタンディングオベーションをいただいたときも嬉しかったのですが、TVディレクターの性でつい観察してしまって、純粋に楽しめないんです。それは、僕の強みでもあり、弱点でもありますが、これからも変わらず、TVにも映画にも関わっていきたいと思っています。
監督:それって、自分で自分の作品を褒めることにもなりますよね? 自慢げに聞こえるようで嫌なのですが……(苦笑)。でも、授賞式後の映画祭公式のディナーの場で、審査員長を務められたケイト・ブランシェットさんに、「演技、監督、撮影などトータルで素晴らしかった」と改めて言っていただきました。また、安藤さんの芝居についても熱く語っていて、彼女の泣くシーンがとにかくすごかった、と。「今後、私も含め今回の審査員を務めた俳優たちがあの泣き方をしたら、彼女の真似をしたと思って」と仰っていて、その会話から虜にしたんだなとよくわかりました。元々付き合いのあるチャン・チェンは、「家族が、見えない花火をみんなで見ているカットが素晴らしかった」と言ってくれました。他にもそれぞれの方たちとのやりとりが、審査員というよりは、シンプルに作品によって心を動かされたと言ってくれている感じで、良い時間でした。
監督:そうですね。最初に思い付いたのは、「犯罪でしかつながれなかった」というキャッチコピーです。年金詐欺を働いていたり、親が子どもに万引きを働かせていたり、そういった事件が報道されるとものすごいバッシングが起きますよね。当たり前ですけど、悪いことをしていたんだから。でももっと悪いことをしている人が山ほどいるのに、それをスルーしておいて、なぜ小さなことばかりに目くじらを立てるんだろうって。一方で僕がへそ曲がりだからかもしれませんが、特に震災以降、世間で家族の絆が連呼されることに居心地の悪さを感じていました。絆って何だろうなと。だから犯罪でつながった家族の姿を描くことによって、あらためて絆について考えてみたいと思いました。
監督:描き方で言えば、事件報道で断罪されたある家族の内側を、少し近づいて見てみるという視点の持ち方は、『誰も知らない』と似た部分があるかもしれません。貧困家庭を描こうとか社会の最底辺を描こうとか、そういった意図はありませんでした。むしろそこにかろうじて転がり落ちないために、今回の家族はあの家に集まることになったんじゃないかなって。『誰も知らない』の柳楽優弥くんと今回祥太を演じた城桧吏くんが似た雰囲気を持っているとしたら、もうそれは、彼らのような顔が好きだからです(笑)。
監督:『誰も知らない』以来のことかもしれませんね。作っている感情の核にあるものが喜怒哀楽の何かと言われると、今回は“怒”だったんだと思います。『歩いても 歩いても』で自分の身の回りのモチーフを切実に、狭く深く掘るという作業を行ってから、『海よりもまだ深く』までそれを続けてきて、なるべくミニマムに、社会へ視野を広げずに撮ってみるという考え方をいったん一区切りさせたんです。だからもう一度立ち返ったということじゃないでしょうか、原点に。
監督:今回、役者のアンサンブルがとてもうまくいきました。自分なりの子どもへの演出と、演出も担える樹木さんとリリーさん、安藤さん、松岡さんも相手の演技を受けるのが上手でバランスがよかった。撮影している中で、惚れ惚れするくらいの演技も見せてくれたりと、監督としてはとても恵まれた環境で撮れたと思っています。
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