『V.I.P. 修羅の獣たち』パク・フンジョン監督インタビュー

韓国×北朝鮮×米国の思惑が錯綜! 朝鮮半島のジレンマを語る

#パク・フンジョン

演出が容赦ない!という声が続出の現場についても明かす

連続殺人事件の有力な容疑者として浮かび上がったのは、北から亡命したVIPだった……。 韓国×北朝鮮×米国の国家機関間の緊迫のなかで展開するクライム・アクション大作『V.I.P. 修羅の獣たち 』が、先週末から公開中だ。

3年ぶりに映画出演したチャン・ドンゴンが主演したことも話題の本作について、パク・フンジョン監督に聞いた。

──本作を製作した理由について教えてください。韓国の国家情報院とCIAの企てにより北から亡命したエリート高官の息子が連続殺人事件の有力な容疑者となるという、今までにない物語が興味深いです。

『V.I.P. 修羅の獣たち』撮影中の様子

監督:分断国家である韓国だからこそ扱うことのできる題材だと思いました。 韓半島を取り囲む国際情勢のジレンマを描くのにピッタリだと思ったところからスタートしています。 内容やスタイル、全体のトーンについても、前例のない作品なので、ストーリーは明確にしなければならないと考えました。 企画亡命を素材として扱ったこと自体は、それほど難しいことではありませんでした。

──「韓国×北朝鮮×米国」が絡む物語なので、撮影は大変だったのではないですか?

監督:初めて海外で撮影をしました。 撮影自体はそれほど苦労せずに済んだけれど、製作費が高額であったり撮影場所の交渉も大変で、多くの試行錯誤が必要でした。特に北朝鮮の村の再現がとても難しかった。 韓国には北朝鮮の雰囲気を感じられる場所がありません。それでも一番雰囲気的に近いだろうと思う所を探し出し、セットを作り、残りはCGで作りました。 香港のレストランも同じです。元々の設定はレストランではありませんが、セットを作って撮影しました。

──緊迫関係の3ヵ国が、目の前に存在する悪人を見て見ぬ振りをするという設定が秀逸です。

『V.I.P. 修羅の獣たち』撮影中の様子

監督:国家間の作戦で必要に応じて連れてきた人物が怪物だった……。どんな社会でもそのような怪物に対する備えと処置システムがあるはずです。けれどある時、各国の事情や政治的な利害関係によりそのシステムが正常に作動しなくなった。そうしている間に、より深刻さを増した怪物が大手を振って歩き回るというジレンマに関する物語を作ってみたかったんです。このような状況下において、国家が傍観者となり、むしろその怪物をかばう側に回ってしまった時に起きる出来事を描こうと思いました。

──殺人事件の容疑者で北から亡命させられたエリート高官の息子、キム・グァンイルは今まで韓国映画になかった新しいタイプの悪役ですね。

監督:サイコパスのキャラクターは韓国映画の中に多く登場しています。 キム・グァンイルは北からのVIPという点が他のキャラクターと違いますね。 サイコパスの犯罪者は各国の社会的なシステムを利用して完全犯罪を目論むが、キム・グァンイルはいまだ王朝国家の様相を呈するいびつな国家で生まれた特権階級に属する人物です。 サイコパスの本能を道徳的に制御してくれる人がいないため、人の命を軽視する傾向にあり、犯罪の概念自体が最初からない。 「僕がやったけど、何か?」という感じだ。 サイコパスの中でもハイレベルなサイコパスですね (笑)。

──そのキム・グァンイルを、若手No.1の人気俳優イ・ジョンソクさんが演じています。

監督:イ・ジョンソクさんについては、彼の方から「キム・グァンイルを演じてみたい」と連絡が来たんです。 俳優としてとても意欲的な人で、頼もしかったですね。 積極的で心がけもいいし、 若手スターで、こんな役をわざわざ演じなくてもいくらでも素敵な役をもらえるのに。イ・ジョンソクさんの演じたキム・グァンイルは、海外暮らしの長い北朝鮮のエリート高官の息子で、元々、そのイメージに合った貴族的な雰囲気のある俳優を望んでいました。 幼いころから何不自由なく育ち、すべての人々を見下すような怖い物知らずのキャラクターです。

──事実を隠蔽しようとする国家情報院の要員・パク・ジェヒョクをチャン・ドンゴンさんが演じています。起用の理由は?

『V.I.P. 修羅の獣たち』撮影中の様子

監督:ジェヒョク役にぴったりだと思いました。 ただそこにいるだけでキャラクターが表現されるというか。素晴らしい俳優なので特に指示したことはありません。 作品を見て頂ければ分かると思いますが、とてもよく演じてくださったので感謝しかありません。

──俳優たちが「パク・フンジョン監督との作業は容赦がなかった」と口をそろえて話していました。

監督:出演者は経歴が20年を越える俳優ばかりでした。 演技については私が口を出すことでもありません。彼らのほうが演技の専門家ですから。 けれど、キャラクターが一連の状況下でどのような行動を取るかにについては、すべての設定が私の頭の中にありました。 私は一定のラインを設定し、その中で最も良いものを選びました。つまり、それ以外は容認できないというわけです。そういう時は「それは違う気がする」という程度のことを言ったと思います。 そこまでキッパリと否定したことはないと思うんですけれど(笑)。

──撮影時、最も苦労したシーンはどこですか?

監督:人を殺める場面は撮影と編集過程において非常に悩んだ部分でした。恐ろしさを見せつけるという一方で観客がどのように受け取るかということもありますし、表現する程度について、非常に悩みました。私としても明らかに不快を感じる部分についてはカットしようとも考えましたし、短めのシーンにしてみたりと色々試しましたが、そうなるとキム・グァンイルの行為が鬼畜の所業には見えなくなり、悪行の程度が弱まる気もしました。

──韓国ではジェンダーにまつわる話題も過熱しました。キム・グァンイルの残忍さを示すために、劇中で犠牲となった女性のシーンについてです。

監督:例のシーンは私たちも非常に悩みました。観客が不快に感じ、震え上がるに違いないとも思っていました。 けれど、キム・グァンイルの魔物性を見せつけるに相応しい代案が他にありませんでした。 主人公の恐ろしさをしっかり伝えてこそストーリーの原動力が確保されるのです。 悩んだ末にあの場面を入れたけれど、女性客が見ると、より暴力的に見えるのかもしれませんね。私のジェンダーに対する感性が鈍いせいだと思う。もっと言えば、ジェンダーに対する知識不足なのかもしれません。

パク・フンジョン
パク・フンジョン

『悪魔を見た』『生き残るための3つの取引』(10年)の脚本を担当し高い評価を得て、監督作『新しき世界』(13年)はハリウッドからも注目され、韓国でも大ヒット。その他、『血闘』(11年)、『隻眼の虎』(15年)を監督。