『インクレディブル・ファミリー』ジョン・ウォーカー(プロデューサー)インタビュー

大ヒットしたのに14年も続編が作られなかった理由に納得!

#ジョン・ウォーカー

ダメだと思ったら容赦なくスパッと切るようになりました

ピクサーの新作アニメーション『インクレディブル・ファミリー』は『Mr.インクレディブル』(04年)の続編。一足早く公開されたアメリカでは、『ファインディング・ドリー』を超えてアニメ映画の歴代興行収入新記録を樹立した。スーパーパワーが街に損害を与えるため、ヒーロー活動が禁止されている中、ヒーロー活動復活をかけたミッションが母ヘレンに舞い込む。彼女に代わって父ボブは家事と育児に悪戦苦闘する一方、ヘレンの身に危険が迫る。

前作同様、父ボブ、母ヘレン、長女ヴァイオレット、長男ダッシュがそれぞれのパワーを生かし、家族が協力し合って危機に挑む。また本作では、末っ子で赤ちゃんのジャック・ジャックのパワーが覚醒。ボブを振り回し、笑わせてくれる。

プロデューサーのジョン・ウォーカーに製作の舞台裏を聞いた。

──アメリカでは興行記録を塗り替える大ヒットとなっています。どんな点が観客に支持されたと思いますか?

取材中のジョン・ウォーカー

ウォーカー:分かりません(笑)。私たちは自分が気に入る映画を作り、それを世の中に出しています。みなさんに楽しんでもらいたいと思っていますが、映画が観客に気に入られるか、ヒットするか、未だにミステリーです。ヒットとしてうれしいですし、ホッとしていますが、なぜかと聞かれても分かりませんね(笑)。

──今回は父ボブが家で子育て、母ヘレンが外で悪と戦う、と前作から内容ががらりと変わりました。この設定はどうやって生まれたのですか?

ウォーカー:このアイデア自体は1作目をプロモーションしている時に脚本家兼監督のブラッド・バードが持っていました。もし2作目を作るとしたら、今度はヘレンがミッションをもらい敵と戦って、ボブが家にいて辛い思いをするのが面白いんじゃないか、と。もう1つ、入れたいと言っていたのが、ジャック・ジャックがアライグマと戦うシーンです。1作目に入れたかったんですが、入る場所がありませんでした。ジャック・ジャックがもっと主要な役をやる話もしていました。前作で観客はジャック・ジャックがいろんなパワーを持っている片鱗を見たわけですが、家族は知りません。その辺を知っていくのは面白いね、という話もしていました。

『インクレディブル・ファミリー』来日イベントの様子

──前作はジャック・ジャックのパワーが覚醒しそうな所で終わりました。映画の上映時間がもっと長ければ、ジャック・ジャックの場面がもっと増えていたのでしょうか?

ウォーカー:1作目のラストで、敵のシンドロームはジャック・ジャックの力を見ましたが、家族は見ていません。(長女ヴァイオレットの同級生でジャック・ジャックの子守をしていた)カーリは見たんですが、(インクレディブル・ファミリーが起こしたトラブルの後始末をする)ディッカーが記憶を消してしまいました。2作目は1作目の直後から始まるので、ジャック・ジャックのパワーが見えてくるのです。

──ブラッド・バード監督は『レミーのおいしいレストラン』以降、アニメ映画の監督を離れて『ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル』『トゥモローランド』と実写映画を監督。本作は10年ぶりのアニメ映画です。クリエイティブ面で彼に何か変化は見られましたか?

ウォーカー:私は『アイアン・ジャイアント』や『Mr.インクレディブル』、『トゥモローランド』をプロデュースしましたが、彼は変わったと思います。私たち2人とも変わりました。今までは、うまく行っていないものを、時間をかけてうまく行かそうとしていたんですが、それをやらなくなりました。実写では早く決断しなければいけません。1日で決められたショットを撮らなければいけない。うまく行かないものはカットするという決断の早さが求められます。アニメでも今までより決断が早くなりましたし、ダメだと思ったら容赦なくスパッと切るようになりました。

──「このシーンはうまく行かないな」とカットしたシーンはかなりありますか?

ウォーカー:20シーン以上あります。シーンとしてはいいんですが、映画全体として見た時にうまく入らない。もう1本映画ができるぐらいありました。DVDに特典で入るかもしれません。ご覧になったら「いいシーンじゃないか。入れても良かったんじゃないか」というシーンが結構あります。

──製作で一番チャレンジングだったことは何ですか?

ウォーカー:いつもストーリーをいいものにすることが大きな課題です。笑えて楽しめて。それがいつも大きなチャレンジです。どんな芸術作品でもそうですが、いいものを作ることはとても大変です。前作は4年かかりましたが、今回は3年とスケジュール的に短かったので、それも大変でした。

妻のキャリアを夫が後押し。そのシーンの脚本は50回以上書き直した
『インクレディブル・ファミリー』
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──製作で一番気を付けたことは何ですか?

ウォーカー:最初の方でヘレンがボブに対し「この仕事を受けるべきかどうかを悩んでいる」と話し、ボブが「僕が家の中のことをやるからさ」と返すシーンです。すごく難しく、注意を払って作ったシーンです。最初に作った頃は、ボブが文句たらたらに話すシーンになったので、「なぜヘレンはあんなひどいやつと結婚したんだ」という感じになってしまいました。ボブは本当はその仕事を自分もやりたいんですが、ヘレンがやるべきだと話します。微妙なバランスを出すのがすごく難しく、ブラッド・バードは脚本を50回以上書き直しました。自分もやりたいけれども、フラストレーションも感じつつ「いいよ、君がやりなよ」という感情を出すために注意を払いました。あのシーンを担当したアニメーター2人は実生活でも奥さんとダンナさんで、奥さんがヘレン、ダンナさんがボブを描きました。

──1作目が公開された2004年は、スーパーヒーロー映画といえばスパイダーマンくらいで、スーパーヒーロー映画そのものが新鮮でした。今はマーベルのヒーロー映画が毎年公開され、ヒーローがあふれています。本作を製作するにあたり、「ヒーローがあふれている時代だから内容をこう変えよう」などと何か意識したことはありますか?

ウォーカー:だからこそ2作目を作るのにこんなに時間がかかったんです。毎年というか、毎週のように新しいスーパーヒーロー映画が公開される今、「もう1作、スーパーヒーロー映画はいらないよね」「2作目はいらないよね」という話をしていました。最終的に「『インクレディブル・ファミリー』はスーパーヒーローの話じゃなく家族の話だよね」ということに気が付きました。スーパーヒーローの面はスパイスなんだと。だから他のスーパーヒーロー映画とは違う。基本的には家族の話、家族内の人間関係の話で、スーパーヒーローの部分はスパイスにすぎない。だから2作目を作ろう、ということになりました。

(text:相良智弘)

ジョン・ウォーカー
ジョン・ウォーカー
John Walker

1956年年4月21日生まれ、イリノイ州出身。『Mr.インクレディブル』(04年)のプロデューサーをつとめ、作品を大ヒットへと導いた。その他、『アイアン・ジャイアント』(99年)、『トゥモローランド』(15年)などの製作をつとめる。