『追想』シアーシャ・ローナン インタビュー

高揚から絶望へ。悲しみの初夜に秘められた関係を語る

#シアーシャ・ローナン

2人は互いに与え合うの。それがきっと恋だと思う

24歳にしてアカデミー賞常連のシアーシャ・ローナンが主演した『追想』。ブッカー賞作家イアン・マキューアンの「初夜」を、マキューアン自身が大胆に脚本化した作品で、結婚式を終えたばかりの男女の姿を綴った唯一無二のラブストーリーだ。

1962年のイギリスを舞台に、偶然の出会いから恋に落ち困難を乗り越えるも、残酷な新婚初夜を迎えてしまう若き男女の物語について、ローナンに話を聞いた。

──劇中であなたは、美しく野心的なバイオリニストのフローレンスを演じていますね。一方、恋に落ちるエドワードは歴史学者を目指す青年です。2人の音楽の好みの違いについて教えてください。

『追想』
(C)British Broadcasting Corporation/ Number 9 Films (Chesil) Limited 2017

ローナン:フローレンスはクラシック音楽が大好きで、音楽に強く情熱を注ぐの。自分の好きな領域に関しては知識が豊富だけど、それ以外に関してはよく知らない。C・ベリーやE・プレスリーの音楽も聞いたことがなかった。エドワードが彼女にロックを教えるのよ。1960年代前半にロックが流行してね。そして、フローレンスは彼にクラシックを教える。2人は互いに新しい何かを与え合うの。とても素敵なことよね。自分の一部も相手に与えようとする。それがきっと恋だと思う。

──エドワードをビリー・ハウルが演じていますが、ハウルと共演した感想は?

ローナン:彼とは、『追想』の1年前にも仕事をしたわ。そのお陰で、今回はすごく安心して仕事ができた。互いをよく理解していたから。既に築いていた信頼関係を演技に生かすこともできたわ。

──ドミニク・クック監督の演出方法はいかがでしたか?

ローナン:監督は演劇界で長年の経験を積んだ人よ。彼は演劇の手法を映画の撮影に見事に取り入れたわ。撮影前からテーブルを囲み、長い時間をかけて稽古をした。彼は何より役者たちを優先してくれたわ。伝統的な演出家らしくね。私たちからいい演技を引き出すために、役者に多くの情報を与えて全ての物事を明確にしようと努力した。役者を優先し、稽古に時間をかけるのが演劇界の特徴よ。

──原作者のイアン・マキューアン自身が脚本を手がけたことについての感想を教えてください。あなたは、彼の小説「贖罪」を映画化した『つぐない』(07年)にも出演していますよね。

『追想』撮影中の様子。左からドミニク・クック監督、ビリー・ハウル、シアーシャ・ローナン

ローナン:イアンの書く物語はとても独特よ。ある瞬間的な出来事によって、すべての流れが大きく変わるの。「贖罪」もそうだったわ。物語の重要な出来事が1日の数時間のうちに起こる。本作もそんな感じよ。イアンは、たくさんの深い何かを短い時間の中に詰め込もうとする。そうすることで、物語の世界観が明確になるの。素晴らしい才能だわ。ある瞬間に物語が一変するという点に私は感銘を受けるわ。

──1960年代の物語ですが、今に通じる物語でもありますね。

ローナン:幸せになる機会を失う男女の物語。時代を超越して多くの人々の胸に響くと思う。素晴しい関係を築こうとする直前に、ある出来事が起こってしまう。主人公たちの親密な関係が本作のテーマになっているわ。恋人同士の関係を描く作品に、映画の観客は常に惹かれるものでしょ。2人の間に何かが起こって、彼らの心に不安や恐怖が生まれる。関係性が変化する、すごく興味深い物語よ。

シアーシャ・ローナン
シアーシャ・ローナン
Saoirse Ronan

1994年4月12日、アイルランド人の両親の下、アメリカのニューヨークで生まれる。3歳の時にアイルランドに移住し、9歳で子役としてキャリアをスタートさせる。ブッカー賞作家イアン・マキューアンの「贖罪」を映画化した『つぐない』(07年)でアカデミー賞にノミネート、一躍脚光を浴びる。その後『ラブリーボーン』(09年)、『ハンナ』(11年)などでも注目を集め、『ブルックリン』(15年)ではアカデミー賞主演女優賞及び作品賞にもノミネートされた。『レディ・バード』(17年)でゴールデン・グローブ賞主演女優賞を受賞。2020年には『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19年)で4度目となるアカデミー賞、5度目の英国アカデミー賞、4度目のゴールデン・グローブ賞等にノミネートされた。待機作にウェス・アンダーソン監督の新作『The French Dispatch』がある。