1975年5月19日生まれ、神奈川県出身。1996年、北野武監督の『キッズ・リターン』に主演し、俳優デビュー。同年の映画賞新人賞を総なめにする。その後、『サトラレ』(01年)主演など数多くの映画、ドラマに出演。09年、チェン・カイコー監督の『花の生涯〜梅蘭芳〜』で海外進出し、台湾映画『セデック・バレ 第一部 太陽旗/第二部 虹の橋』(11年)、中国映画『ソード・ロワイヤル』(11年)、『GONINサーガ』(15年)、『セーラー服と機関銃 卒業』(16年)などに出演。今夏は主演昨『STILL LIFE OF MEMORIES(スティルライフオブメモリーズ)』や『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』が劇場公開された。
読書好きな青年・明海が偶然手にした古本がきっかけで出会ったのは、いつも明るく前向きな女性・あかねだった。見たもの全部を輝かせる“きらきら眼鏡”をかけていると話す彼女には、実は余命宣告を受けた恋人がいた。
森沢明夫原作の小説を、『つむぐもの』(16)の犬童一利監督が映画化した『きらきら眼鏡』で、あかねの恋人・裕二を演じた安藤政信は、本作撮影直前までドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命- 3rd season」に医師役で出演していた。立場が逆転した役への挑戦、子を持つ親になったことでの仕事に対する思いの変化などを語ってくれた。
安藤:1年前のちょうど今頃、脚本を渡されて読んで、すごくきれいな作品だなと思ったんすよね。優しさがあって、愛情ある関係の中で死に向き合うというテーマで。ちょうど『コード・ブルー』で医者役をやっていて、患者さんの命に向き合うっていう立場で4ヵ月いたから、今度は逆に、患者の立場で死を宣告されてどう生きるか、自分の愛する家族とどう向き合うかということを、反対側から経験してみたいと思ったのはありますね。そういう意味ではタイムリーだったと思います。主人公の明海は、うらやましいなと思うぐらいの役でした。それを支える意味でも、自分の演じた裕二という役もすごい大切だと思ったんです。せっかく声をかけてもらったし、力になれたらな、と感じました。
安藤:プロデューサーの友人で、末期のがんで余命宣告された方と会わせてもらいました。宣告を受けた時、「こう言われたことが少し傷付いたんだよね」という話を聞いて。ちょうど医者の役をやっていたから「医者の立場でいうと、こういう言い方しかないと思うんです」と僕も話しながら。その方も働き盛りで急にがんになって、家族がいるのにどういうふうにいればいいんだろうと葛藤していらっしゃいました。僕もこの2〜3年で子どもが生まれて、働き盛りの年齢になって、自分がその立場になったら、と考えたんですよね。その方は「本当に思ったのは前向きに生きるしかない」と言ってくれて。宣告された瞬間、普段は別に死とか考えずに生きていたのが、今度は「生きよう」と逆に強く思うんだな、と思いました。
安藤:はい。がんの痛みで苦しむシーンでは『コード・ブルー』で出会った先生に、どれくらいの痛みなのかを聞いたりしました。それを映画で伝わる芝居とし誇張するか、その時期はずっと考えていましたね。抗がん剤の副作用で食を受け付けなくなったと聞いて、裕二という役はベッドで寝ている状態での表現しかないから、僕自身その時期は食も断ちました。
安藤:裕二は病室のベッドにいて、その世界だけだから、すべて想像するしかないんですよね。あかねと明海は見えない所で、いろいろな風だったり、においだったりを共有し合ってるんじゃないかと想像する。そして、自分はもうすぐいなくなるから、今度あかねが次に踏み出す人生を考えてやらなければいけないとも思う。自分の体が弱って動かなくなっていく中で、自分より肉体的にも生命力が溢れる若い明海に対する、ちょっと複雑な嫉妬を細かくちゃんと出したいなと思ったんです。悲しいだけではなくて、彼に任せたい気持ちもありながら、幸せにもなってもらいたいけど、うらやましいとか。ベッドの中のシーンでしかなかったから、そこをどうグラデーションを出すはすごい考えましたね。
安藤:いや、サポートしてあげるような気持ちは全然なくて。新人だろうが、ベテランだろうが、1個の作品に入ってるときは絶対平等であって当然だと思ってるので、あまりそういう感情はなかったですね。ただ、これは監督に対しても役者に対してもですけど、感情的にあったかく温度がちゃんと伝わるようにお互いいたいとはいつも思っていて。それだけだったような気がします。
安藤:そこら辺の話は聞いてないし、監督本人じゃないんで想像ですけど、たぶん感情の変化をカットを割ってプチプチ切るよりは1本通して1シーンに、詰めたかったんじゃないかなと思って。そのリズムを最後まで見たい感じはありましたね。フィクションなんだけど、ちょっとドキュメンタリーのようなにおいもあったような気がする。
安藤:最近はセリフの量もカットも多いから、詰め込み過ぎて感情の流れがないと思う映画が多いですよね。カットを長くすることで、余韻とか表現の変化があると思うから、そこを大切にしてるのがいいと思います。今って、前のシーンも全然引きずらずにどんどん先へ流れちゃうことが多い。世の中がそういうものなのかもしれないんだけど、映画の中では余韻を味わいたい。食事でもお酒でもそうだけど、いいものには絶対余韻があって、それを少し感じてからまた次の味にいくわけじゃないですか。だから深く入ってくる感じがする。
安藤:『ストロベリーショートケイクス』は撮影で一緒のシーンもなかったですが、その後に石井克人監督のオムニバスドラマで1度。東野圭吾さんの原作を10人の監督が撮る企画があって、僕は弁護士役で、初日にいきなり謎解きをしてみんなの前で事件を解決するシーンを撮ったんです。(長澤)まさみと(池脇)千鶴と同じシーンだったんですが、1シーン1カットで、ものすごく苦労して、NG20発ぐらい出して。まさみも千鶴も疲れ切ってしまう状況を1回作っちゃったことがあったんです。そんな初対面で「お疲れさまでした」って帰っちゃったっていうのもあったんで、今回はその悔いを挽回したいっていう思いもあった(笑)。千鶴は10代の頃からとってもうまい人だし、僕は彼女の声もすごく好きなんです。彼女がこんなきれいな役をどう演じていくのか見たかったし、こんなすてきな人と人生の最後を苦悩しながら一緒にいるというのも演じてみたかった。本当にせりふをしゃべる声がめちゃくちゃいいから、スーッと入ってくるんすよ。それがすごい良かったです。
安藤:疲れ切ってたとき(笑)。
安藤:選びまくってましたね。金がなくなると働くぐらいの感じでした。1年に1本とか。
安藤:その時期、俺、映画4本やりましたからね(笑)。
安藤:竹中直人さんが友人なんですが、竹中さんは本当に精力的です。脚本も読まずにいろいろな作品に出演を決めて、きちっとできる。昔から仲いいんですけど、僕はずっとブラブラしていて、会うと向こうはいつもすっごい仕事してて(笑)。それで一度、竹中さんみたいな芝居はできませんけど、竹中さんみたいにどんどん依頼が来た作品やってみようと思ったんです。実際にやってみると、今までやったことのないような役だったり、今まで全然知り合うきっかけもなかった人と出会えて、そこでつながりもできて、すごい広がるのを実感しました。
あとは子どもが生まれたのはすごい大きくて。
『キッズ・リターン』の撮影が終わりかけの頃、武さんが「シンジ(安藤が演じた役名)、たぶん絶対行くと思うんだよね」と言ってくれて。「いろいろ考えて、作品を選んだりしながら。事務所がどういうふうにするかはよく分かんないけど」って。その「事務所がどういうふうにするか」ということすら、俺はまだ全然業界のこと分かってなかったんですが、1年後くらいに映画賞の授賞式で会ったときに、「選びながら自分でもいろいろやってます」と報告したんです。そうしたら、「若いうちはそっちのほうがいいよ。金なくたっていいしさ。子どもが生まれたときに、嫌でも今度働かなきゃいけねえことになるからさ」とおっしゃって。その時は全然ピンとこなかったんだけど、20年ぐらいして、子どもが生まれて、「確かに!」と思っています。今度は本当に、命を預かってるっていうか、その人たちを食べさせていくわけで。選ぶ必要もなくなるぐらいやるべきになる。それをほったらかしてブラブラしてたら、それこそ本当に人としてどうなのか、ですよ。役者としてより(笑)。
安藤:20年いた事務所を辞めて自分で監督やプロデューサーと交渉して、スケジュール管理やって、請求書を送ったりとか(笑)。1人で全部やってみて、昔は「マネージャーなんて」とか考えてたんだけど、こんな大変なことしてくれてたのか、と。そこで人のありがたみがわかりました。だいぶ遅かったんですけどね。ご縁があって、竹中さんの事務所に入れてもらいました。数日前に会った時も「焦らずに、でもがむしゃらにやれよ」と言ってもらいました。でも、必要としてもらえるって、すごいことだと思うんです。これだけだけたくさん、役者が星の数ほどいる中で、フラフラしていても誘ってくれて、引き戻されるっていうのは、役者に縁があるのかなと思って。
安藤:いや、もう本当にそんなのどうでもいい(笑)。どんな状況でも「安藤さんと仕事したいんです」と言われることがすごい大事で、言ってくれた人に対してはちゃんときちっと芝居をしてあげたいと思います。確かに選ぶことも大事なんだけど、来た仕事をきちっと受けて、オファーしてくれた人たちを納得させて、作品を見てくれる人たちに喜んでもらう。それがいいんじゃないかと思うんです。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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