シンガポールの銀行家の家系に生まれ、子供の頃にアメリカに移住。パーソンズ美術大学を卒業しデザイン会社などで働いた後、2014年に自身の体験をもとにした小説「クレイジー・リッチ・アジアンズ」を出版、ベストセラーとなる。
今年の夏、全米興収1位を記録し話題となった『クレイジー・リッチ!』が、先週末より日本公開された。なぜ話題となったかというと、主要キャスト全員がアジア系のメジャースタジオ配給作だったから。描かれるのは、“正気の沙汰ではないほどリッチ”なアジアン・セレブの恋。ロマンス小説さながらのゴージャスでロマンティックな物語だ。
シンガポール出身の原作者ケビン・クワンが自身の経験を基に執筆した世界的ベストセラー小説を映画化した作品で、彼自身が制作にも大きく関与、白人キャストでの映画化を望む依頼を蹴って、本作が完成した。
そんな異色話題作について、クワンに語ってもらった。
クワン:カレッジの文章創作講座の課題で「シンガポール・バイブル・スタディ」という詩を書いたんだ。クラスでそれを読み上げた時、ほかの生徒たちが驚いてもっと先を知りたがった。その時に「やった、いいところをついたぞ」って思ったんだ。その後20年しまっておいた。
最終的に「シンガポール・バイブル・スタディ」は「クレイジー・リッチ・アジアンズ」の第2章になった。
大変なお金持ちの女性の家で開かれた聖書研究会を観察している子どもの話なんだ。研究会はゴシップと新しい宝石を見せびらかすための口実にすぎない。コミカルな詩だったんだ。何年もあとになって、私はそれを本の章に仕立てようと試みた。その章を書き上げたとき、そのまま書き続けようと決めて、ようやく小説を完成させたんだ。その章は映画ではエレノアがキャロル・タイの家で聖書研究を先導しているシーンになってるよ。
クワン:シンガポールは500万人が住む小さな島だが、その5分の1が百万長者なんだ。物語の背景にあるのは、10年前に中国の億万長者は1人もいなかったが、今では819人以上もいる。アメリカより248人多い。アジアではこれまで世界が経験したことのない規模で富のバブルが成長しているんだ。一瞬の間に創出されるお金、そしてまた消費されるお金は、気が遠くなるような額なんだ。
クワン:100%、完全にリアルだよ。そして、西側で今までにそのことが一度も話されたり書かれたことがなかったという事実から、僕はこれらの本を書きたいと思ったんだ。なぜならアジアはこの50年間、最大のプームを経験していると感じているけど、誰もそれについて話していない。伝統に根付いているけどモダンで、ものすごく繁栄しているこの世界に存在するのはどういう意味かについてのこういった人間のストーリーを、誰も語っていないんだ。
クワン:アメリカの反応も気になったけど、それ以外の国々で映画を見た人たちがどんな反応をするのかとても興味がある。だってとても画期的な作品だからね。メジャー映画初となるアジア人が主役のロマンティック・コメディで、現代社会の物語だ。いつ見ても、毎回、ジョン(・M・チュウ監督)が作り出した世界に驚かされるんだよ。
クワン:全行程に関わったよ。脚本家たちとも作業をして、彼らをランチにも連れ出して、キャラクターや、私が喚起したいことについても話し合った。その後で彼らは書きあげた。製作中はジョンとも仕事をしたよ。私に聞きたいことがたくさんあったんだ。ジョンに紹介された美術製作や衣装さんとも親しく関わって、彼らがこの世界を映像化するのに役立つようなイメージや家族の写真を送ったりしたよ。
クワン:中心にあるのは、家族の物語だ。アジアのとある名家の跡取り息子がシンガポールに戻ってきたときに巻き起こる事件を描いている。名家の息子、ニック・ヤンはニューヨークに住んでいて、シンガポールに戻るときに恋人を連れて帰る。それがレイチェル・チュウだ。アメリカで生まれ育った中国系の女の子で、彼女を家族に紹介するときの周囲の反応を描いている。
作品の冒頭から、ニックがレイチェルと真剣に付き合っていることは伝わってくる。一方、ニックの家族が初めてレイチェルに会うときには、家族はかなり厳しい目線でレイチェルを見ている。アジアの富裕層家族という、ものすごく結束の固い世界によそ者が入ったときにどんなことが起きるのかを、この作品で描いているんだ。
クワン:撮影を見た初日はすごく興奮した。時差ボケのまま、すぐセットに連れて行かれたらね。最初に見たものは私の祖父母の古い2枚の写真だった。なんだか、家に帰ってきたかのようだったよ。
同時にまた、普段の人生よりもすべてが過剰だった。何百人もがディナー・パーティーのシーンに関わっている。俳優やエキストラたちがタキシードやドレスに身を包んでいてね。フードスタイリストもいた。製作現場の空気を初めて体感して「ワォ! 現実なんだ。本当に映画を撮ってるんだ!」って気持ちになったよ(笑)。非常に印象深い瞬間だったね。
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