1952年10月20日生まれ、アメリカ出身。テレビ向けの映画やミニシリーズ、ドラマシリーズの脚本からキャリアをスタートし、監督や製作も務めるようになる。関わった作品がエミー賞やゴールデン・グローブ賞での受賞もしくはノミネートされた回数は35回以上。自身もエミー賞に2度ノミネートされ、ミニシリーズ『フランク・シナトラ/ザ・グレイテスト・ストーリー』(92年)では監督賞を受賞した。全米監督協会賞(DGA賞)で2回、ヒューマニタス賞で1回候補となる。
青春小説の金字塔といわれ、刊行から60年以上経ったいまなお世界中で愛されている作品、J.D.サリンジャー著の「ライ麦畑でつかまえて」。まもなく公開の映画『ライ麦畑で出会ったら』では、人々の心をとらえて離さない名作に感銘を受けた冴えない高校生・ジェイミーが繰り広げる青春の1ページが描かれている。
「ライ麦畑でつかまえて」を舞台化するにあたって必要な作者の許可を取るため、演劇部のジェイミーが隠遁生活を送っているサリンジャーを探す旅に出るという物語。本作を手がけたのは、念願の長編映画デビューをはたしたジェームズ・サドウィズ監督だが、なんとこの作品は監督自身の実体験を基にしているという。そこで今回は、これまでの道のりやこの経験から学んだことについて語ってもらった。
監督:実は日本では、テレビなのか劇場なのか、どのような形で公開されるのか最初はわからなかったから、劇場公開されると聞いてとにかくうれしく思っているよ。感謝の気持ちでいっぱいだし、すごくワクワクもしているんだ。
監督:僕が映像の世界に飛び込んで以来、サリンジャーとのエピソードはみんなが知っていた話だったから、「いつ映画化するの?」と周りにはずっと言われ続けていたよ。でも、どうしてもこの経験を長編映画にするというのがイメージできなくて、ずっと躊躇していたんだ。自伝的な内容であるということもあるし、何と言っても「僕が主人公?」というのがうまく腑に落ちなかった部分もあったからね。
監督:長らくテレビで仕事をさせてもらっていたんだけど、そろそろ長編映画を作りたいと思うようになって、「いましかない」という気持ちになったんだ。製作にあたっては、自分で出資を集めようと決めていたこともあって、「どんな物語ならお金を集めやすいかな?」と考えたときに、この話かもしれないと思ったのが理由のひとつ。なぜなら、自分自身がよく知っている物語だからこそ、作りやすいし、撮影もしやすいと思ったからなんだ。
監督:最初は、自分をそのまま登場人物として書き進めるのがどうしてもうまくいかなかったんだけど、ジェイミーというキャラクターにして、自分と違う側面をある程度持たせたらやっと書くことができた。自分ではない人物としてだったら脚本にできるというのは、おもしろいものだなと感じたよ。
監督:それはおもしろい質問だね。というのも、実はこの46年の間に発見したいろいろなことがこの映画のなかに反映されているところもあるからなんだ。たとえば、僕をいじめていた生徒のひとりと10年くらい前に電話で話をしたんだけど、そのときに「僕は君の部屋を襲撃した仲間ではなかったけれど、彼らを止めるべきだった」と言ってくれて、それは劇中のセリフとしても実際に使っているんだよ。
そのほかにも、後から言われたことがセリフに反映されていたりもするから、この作品を作るプロセスは、僕にとっては当時の人々とふたたび平穏を取り戻す経験でもあり、癒しにもなったと言えるんじゃないかな。そのことは意図したわけでもないし、それが理由でこの映画を作ったわけでもないんだけどね。でも、いまではみんなと友情を取り戻すこともできたし、この作品のプレミアにも来てくれた人もいたくらいなんだよ。
監督:僕の意図としては、演劇部がというよりも、ジェイミーがそういう風にみんなから見下されている対象であるということを描きたかったんだ。とはいえ、僕の奥さんは高校でカウンセラーをしているんだけど、確かに演劇部の生徒というのはちょっと変わったところのあるかもしれないね(笑)。
監督:テレビや映画をたくさん見たり、あとは劇場にもよく行ったりしていたこともあって、6、7歳くらいのときには、「大人になったら、おもしろい獣医か優しいコメディアンになりたい」と思っていたんだ(笑)。僕はCMのパロディとかをやっては家族を笑わせているような子どもだったから、幼い頃から注目を浴びるのが好きだったというのもあるかな。
監督:映画のなかで描かれているように、実際いろんな人に手紙を書いて出したし、脚本には入れていないけど、NYの市立図書館ではたくさんのマイクロフィルムを見てサリンジャーの情報を探したりもしたよ。今回、ジェイミーと一緒に旅に出るディーディーという女の子は、僕の奥さんと当時知り合いだった女の子からインスピレーションを受けているけれど、その女の子のお父さんからも「君の助けになるような記事があるよ」と教えてもらったりもしたくらい。そのお陰で彼が住んでいるエリアがわかったりもしたんだ。あと、旅の途中でいろんな人に出会っているのは劇中でも描いているけど、まさにあの通りという人たちも登場させているんだよ。でも、実際はもっと多くの人にサリンジャーのことを尋ねてはわからないと言われたり、違う情報を教えられたりしたので、時間にするともっとかかっているかもしれないね。
監督:実際は地元の友達と一緒に行ったんだけど、サリンジャーと出会ったときには車の中で待機していたから、映画のディーディーみたいに僕の味方になって擁護してはくれなかったよ。だから、僕はひとりでがんばったんだ(笑)。
監督:まずはパーティのときに、最高のネタになるということかな(笑)。というのは冗談で、サリンジャーを探し出して戯曲にするんだと決意をしたことによる道のりというのは、「本気でがんばってあきらめなければ何でもできるんだ」ということ知るきっかけになったよ。そういうことを10代という若い年齢で経験することができて、本当によかったと思っているんだ。なぜなら、そのことに僕はすごく助けられていているからね。映像の世界に飛び込むことができたのも、何事も努力を惜しまず、くじけずにがんばり続ける大切さを知っていたからこそ。それが一番大きな学びだったと思っているよ。
監督:この作品はインディペンデント映画として、自分で作ろうと決めていたんだけど、それまで制作もプロデュースもしたことがなかったので、すべてをインターネットで検索するところから始めたんだ。だから、実際に「どうしたらインディペンデント映画を作れるか」というのをググったんだよ(笑)。
監督:そのほかにもたとえば、製作費の集め方を調べていたときには、「LLC(合同会社)形式で作るべき」と書いてあったんだけど、「LLCって何だろう?」となってそれをまたググってみたり(笑)。そうなると次は、ビジネスプランが必要だと書いてあるんだけど、ビジネスプランも作ったことがない。それでまたググっていくということを繰り返していたんだ。すべてをひとりでするというのはすごく大変で、正直「どうしたらいいんだろう」という気持ちにもなったけど、そのときもサリンジャーを探した旅から学んだことは大きな支えになっていたと思うよ。
というのも、その経験のおかげでブレずに信じ続けていれば必ず形になるという自信と学び持っていたからね。それに、出資や配給をお願いした人たちに断られたときというのは、サリンジャーの家を探していたときに知らないと言われた経験とある意味重なるところもあったから、おもしろいことだなと思っていたよ。
監督:繰り返しにはなるけれど、これと思ったら決して諦めないで欲しいし、がんばり続けていれば人は何でもできるんだということを感じてもらいたいなと思っているよ。あとはとにかく皆さんにもこの作品を愛してもらえたらうれしいね。
(text:志村昌美)
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