1997 年10 ⽉2 日生まれ。東京都出身。主な映画出演作は『トイレのピエタ』(15)、『湯を沸かすほどの熱い愛で』(16)、『十二⼈の死にたい⼦どもたち』(19)、『⻘くて痛くて脆い』(20)、『99.9―刑事専門弁護⼠―』(21)、『⼤名倒産』(23)、『法廷遊戯』(23)、『市⼦』(23)、『52ヘルツのクジラたち』(24)など。
ドラマ『花のち晴れ〜花男Next Season〜』(18)、NHK 連続テレビ⼩説『おちょやん』(20〜21)、『杉咲花の撮休』(23)、『アンメット ある脳外科医の日記』(24)など、TVドラマやCMにも多数出演。
5人の若手新鋭監督たちが10年後の香港を描き、 社会現象となった香港の短編オムニバス作品『十年』を出発点に、日本、タイ、台湾それぞれの気鋭の監督たちが、独自の視点で10年後の社会、人間を描き出す国際共同プロジェクトが始動。是枝裕和監督が監修した日本版『十年 Ten Years Japan』には、早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶といった気鋭の映画監督たちが参加した。
その中の一編となる杉咲花主演作『DATA』は、母の生前のデータが入った「デジタル遺産」を手に入れた女子高生の記録と記憶を巡る物語となる。そこで今回は、津野愛監督、杉咲花に本作の裏側について話を聞いた。
杉咲:わたしはいつか是枝監督の作品に携わりたいという夢があったので、今回は総合監修という形ですが、作品に携わらせていただける喜びは大きかったです。
監督:若手監督がオリジナルの企画で脚本を書かせていただき、映画作りに参加できるということはとても魅力的な企画だと思いました。
監督:確かに(笑)。でもうれしさの方が強かったので。まわりの分福のメンバーも応援してくれましたし。プレッシャーというよりは、頑張りたいという思いの方が強かったですね。
杉咲:本当にそうなんです。撮影でも、食べながらセリフを言うシーンはけっこう多くて、苦手だったのですが、いつの日からか苦手意識はなくなってきました。撮影の時は、目の前でラーメンを作ってくださり、そのラーメンがとにかく美味しかったんですよ。だから完成した映画を見た後も食べたくなってしまい、その後、母とラーメンを食べに行ってしまいました(笑)。
監督:ラーメンが食べたくなって、食べに行っちゃったと聞くと、なんだかうれしいですね(笑)。美味しそうに撮れていてよかったなぁ、と。
杉咲:舞花はお母さんのことを知りたくて、データをどんどん自分で探していこうとする女の子です。わたしは舞花の気持ちで台本を読んで、この役をどうやって演じようかということを考えました。
杉咲:私も同じ立場だったら調べたくなってしまうだろうなと思います。そこにあるからこそ、気になってしまうと思うんです。なければそういう考えにはならないんだと思います。今は調べればすぐに情報が出てくる便利な時代ですが、それがなかったら、今の行動のひとつひとつがちょっとずつ変わってきたんじゃないかなと。そんな風に考えさせられました。
監督:これは「記録と記憶」の話なんですけど、私たちは日々SNSなど、様々なデジタル情報を残して暮らしていますよね。その中には自分でも気付かないうちに残っているようなGPS情報などもあったり……。10年後にはきっと、個人の詳細なデータが今よりも増えていくんだろうなと思ったんです。そういった時、形として残らないものの存在が見落とされてしまうんじゃないかと思って。そのようなものを身近に感じて描きました。
監督:まず杉咲さんがとても魅力的で。もっと見ていたいとおっしゃっていました。
杉咲:本当ですか、うれしいです。
監督:杉咲さんに主演を演じていただけて、本当に幸せでした。
杉咲:いえいえ、こちらこそです。
監督:実は舞花という役は、もともとは14歳の設定だったんです。でも杉咲さんと初めてお会いしてみて、杉咲さんは、質問に対して、自分の中でじっくりと考えて、言葉を選んでから話す方なんだなと思って。わたしが最初に考えていた、14歳の舞花は、頭に浮かんだことをすぐにワッと言うようなキャラクターだったんですけども、杉咲さんの、自分の中で言葉を探しているような、悩んでいるような姿を、舞花のキャラクターに生かしたいなと。もう少し感情を抑えた役にしたら、これはきっと素敵だろうなと思って。年齢の設定を上げたんです。
杉咲:高校生になりましたね。
監督:そうです。高校生を演じていただきましたね。
監督:いえ。最初からすごく脚本を読み込んでいただけて。最初のシーンを撮った時から、わたしは感動していました。本当にここに舞花がいると思ったんです。自分で脚本を書いてみて、脚本の中では舞花は存在していたんですけど、現実に杉咲さんに演じていただいたことで、本当に舞花がここに立っているんだ、という感動を覚えました。
杉咲:ホッとしました。ありがとうございます。
杉咲:哲司さんは、2回目の共演だったのですが、またご一緒できるということがうれしかったです。すごくお茶目な方なんですよね。
監督:そうなんですよ。
杉咲:最初のおうちのシーンで、舞花とお父さんのお弁当のやりとりがあって。その後にお父さんがバッグを持って出て行く、という流れになっていたのですが、段取りの時に、間違えてわたしのスクールバッグを持っていってしまって。みんな笑っていましたね。
監督:そうなんです(笑)。
杉咲:ラーメンを食べるシーンも、撮影だと何度も食べないといけないのですが、でもそのシーンの撮影前に「家でラーメン食べて来ちゃったよ。お腹いっぱいなんだよな」とおっしゃっていたんですよ(笑)。ものすごくおちゃめな一面を垣間見ることができました。
監督:でも撮影では、最初からすごい勢いで食べてくださっていたんですよね。
監督:ただの厳粛な父親というよりは、ちょっとユニークなで頼りない一面も見えるような人間味のあるお父さんにしたかったというところがあります。母親がいない家庭で、2人で暮らしているので、普通の親子というよりは、友だち感覚に近いところでやっていただきたかった。哲司さんなら、父親という存在感をしっかり保ったままそういうお茶目な父親をチャーミングに演じていただけるかなと思い、お願いしました。
監督:どうだった? 私すごく緊張していて……。
杉咲:とても温かい空気の流れる現場で……。(スタッフは)結構ずっとやられている方たちだったんですよね。
監督:そうです。皆さんベテランの方々で、是枝組でお会いしたことがある方も多かったので、とてもリラックスして現場に立つことができましたし、様々な場面で支えていただきました。
杉咲:撮影はたった3日だったんですけど、初日から、スタッフの皆さんが仲良しな感じがしていましたね。でも、わたしは初めましてだったので、やっぱり緊張したのですが、嫌な緊張感ではなく。私の中では3日以上に感じるような、充実した時間を過ごせたなと思っています。あとは現場に訪問される方が豪華すぎて、ビックリしていました。
杉咲:是枝監督だったり、西川美和監督や、カメラマンの山崎裕さんもいらっしゃって。緊張してしまいました。でも、とってもぜいたくな時間でしたね。
杉咲:先ほど監督がおっしゃっていた、「記憶と記録」ですが、わたしはこの映画を見て、自分が体験したもの、見たもの、自分しか知らないものが、どれだけ尊いものなのだろうか、という思いにさせてもらいました。今は何でもすぐに調べられるし、とても便利な時代になりましたが、だからこそそれに頼ってばかりではなく、自分でもっと歩いてみて、自分の手で探してみれば、思ってもみなかったような出会いができるかもしれない。そういう時間をもっと大切にしてみたら、自分の中にもっと豊かな何かが生まれるのかなと。そういう風に思わせてもらえる作品になっているんじゃないかなと思いました。
監督:普段は忘れていて、それこそもう曖昧になってしまっているような記憶の断片を、ふと思い出していただけるような、そんな作品になっていれば嬉しいです。
(text:壬生智裕/photo:小川拓洋)
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