1973年生まれ。韓国映画芸術アカデミー在学中に製作した短編映画が海外の映画祭で上映され、高く評価される。明日への希望もなく暮らす2人の青年が予期せぬ事件に巻き込まれる『俺たちの明日』(06年)で第60回ロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞。本作で、初めて商業映画に取り組んだ。
伊坂幸太郎の人気小説を、韓国の人気スター、カン・ドンウォン主演で映画化した『ゴールデンスランバー』。大統領候補暗殺犯に仕立てられた1人の宅配ドライバーの大逃走劇に手に汗握る、極上エンターテインメントだ。
大胆な脚色が随所に施され、原作とは異なるラストに驚く本作を手がけたのは、ノ・ドンソク監督。カン・ドンウォンの強い思いが結実したという本作について、語ってくれた。
監督:主演のカン・ドンウォンさんが原作を読んで、韓国で映画化したらどうかと製作会社に提案しました。そのあと、私のところに監督のオファーがきたので、ぜひやりたいというお返事をしました。
監督:平凡な小市民が巨大な組織によって濡れ衣を着せられ大変悔しい思いをし、追われることになりますが、その彼の力や支えになるものが彼をよく知っている家族や友だちだったという点と、これだけスケールの大きな事件が起きたときに主人公はだいたい特別な人間だったりすることが多いのですが、それが宅配ドライバーという、私たちの周りに普通に生活している身近な人間だということが新鮮だと感じました。
監督:まずは「ミステリースリラー」という部分と「友情が描かれるドラマ」の部分のバランスを失わずに映画を引っ張っていくことが大きなテーマでした。2つの面白い要素である「スリラー」と「感動」を観客に伝えることを目標にしたので、原作からその要素を取り入れるようにしました。
原作では過去と現在が入り乱れていて、とても複雑な構成で描かれているように思うのですが、そのなかで何を選択してフォーカスをあてていくかというのが重要で課題でもありました。
原作者の伊坂幸太郎さんにはシナリオができる度にご意見をうかがっていたのですが、伊坂さんからは、ほとんど「こうしてほしい」という要求はありませんでした。
監督:シーンそのもののディテールについての話をするよりも、主人公・ゴヌが生きてきた背景について、今までどういう経験をしてきたのか等を中心に、色々と話をしました。カン・ドンウォンさん自身にもゴヌの人生と似通った経験があったりして共通点があるということも話しましたし、カン・ドンウォンさん自身が経験した高校時代の友だちとの話や恋愛の話など、生きていく中で誰もが経験するようなことをゴヌというキャラクターを演じるうえでどこまで反映できるかという会話をしていたような記憶があります。
監督:意外に大変だったのは、ゴヌの逃走シーンで、カン・ドンウォンさんが学生街に登場するシーンでした。、女子大の前で一度ロケを行ったのですが、お店に入るシーンを学生街のど真ん中で行わなければならなくなり、一瞬にして千人ほどが集まってきてしまったのです。私たちとしては俳優を守らなければなりませんし、撮影もしなければならないので、どうしたらよいか混乱を極めました。そこではワンテイクしか撮れませんでしたが、そのシーンでは、カン・ドンウォンさんを守るように円を描くようにしてエキストラの皆さんが一般人のように振る舞い壁を作って取り囲んでいました。ですが、一瞬にして大勢の人が集まってきたので、手を打つ暇もありませんでした。
監督:もともと私は、アウトサイダーについての強い関心を持っています。
好きな映画でいうとガス・ヴァン・サントの作品が好きで、そこで描かれる青春の描写というのは、青春を経ることによって誰もが経験しうる痛みや寂しさ、孤独というものがあります。ですから、『ゴールデンスランバー』でゴヌが世の中で孤立してしまい、1人で立ち向かっていくという設定を自然に描くことが出来たんだと思います。
監督:とても深刻に捉えています。とくに私のような職業の人間は外部に露出されやすいですし、ネットで検索するだけでどんな人間なのかプロフィールなどの情報を他者に知られる状況です。今の社会というのはネット検索で誰かの名前を打つだけである程度情報が出てきてしまう、それによって言いがかりをつけられたり非難されたりするような怖い社会になっていると思います。得体の知れない暴力に晒されやすい世の中になってしまったと思うのですが、いま韓国では隠しカメラや違法な動画が深刻な社会問題となっていて、それを反省する声が出てきています。もし個人データが悪用されるかたちで恐ろしい国家権力に掌握され統制されるということが起これば、想像を絶するおぞましいことが起こり得ると思います。『ゴールデンスランバー』では、その危機感や警笛が描かれていると思います。
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