1981年生まれ、パリ近郊のブローニュ=ビヤンクール出身。幼少よりモデルとして活動を始め、イタリア版「VOGUE」誌などファッション雑誌で活躍。エルメスやイヴ・サンローランの広告に出演し、TVや映画にも女優として出演。1999年、イタリアのジュゼッペ・トルナトーレ監督(『ニュー・シネマ・パラダイス』)の『海の上のピアニスト』で注目を浴びる。『インストーラー』(07年)などを経て、マチュー・カソヴィッツ監督の『バビロンA.D.』(08年)でヴィン・ディーゼルと共演し、ハリウッドに進出し、テリー・ギリアム監督の『ゼロの未来』(13年)にも出演。『ザ・ダンサー』(16年)でセザール賞助演女優賞候補となり、『あなたはまだ帰ってこない』で同主演女優賞にノミネートされている。
「愛人/ラマン」で知られる20世紀最大の女流作家、マルグリット・デュラスは第二次世界大戦時、レジスタンス活動に従事していた夫をゲシュタポに連れ去られる経験をした。ナチス占領下のパリで生死もわからない夫の帰りを待ち続け、消息を求めて親ナチスのヴィシー政権の手先の男からの誘惑、彼女を支える愛人との関係に煩悶した日々を綴った自伝的小説「苦悩」を映画化した『あなたはまだ帰ってこない』に主演し、昨年フランス映画祭2018で来日したメラニー・ティエリーに話を聞いた。
メラニー:この時代を題材にした映画はたくさんあります。それこそ数えきれないくらいの切り口で物語を作れる題材です。
メラニー:確かにこの物語で描かれる時代には、大作家のデュラスはまだ存在していませんでした。だから私自身、偉大なマルグリット・デュラスではなく、1人の女性を演じるという気持ちで臨みました。ある種のエゴと罪悪感を抱えて苦悩しながら、待つ女性です。
とはいえ、ヒロインのマルグリットは同時にデュラスでもあると思っています。原作「苦悩」の主人公は彼女自身。でも、ノンフィクションではない。1940年代当時の日記をそのまま使っているというけれど、そうでないことは完成された文体を読めば一目瞭然です。ただ、情熱的な若き日の自分の思いを、作家として成熟した文章で綴ったこの小説は本当に美しい作品です。
メラニー:夫の生還を知ったとき、原作でのマルグリットは激しく動揺し、床に倒れながら絶叫し、嘔吐し……と、かなりドラマティックに悲劇の女王っぽく描かれています。でも、エマニュエル・フィンケル監督は『本当にそうだったのか? と疑問に思った』と話してくれました。大きな悲しみに襲われて号泣しているとき、そんな様子を見ているもう1人の自分がいる感覚ってあるでしょう? 私、なんでこんなに泣いているんだろう?と思うような。激怒した時もそうです。特にフランス人はね(笑)。でも、自分を客観視しながらも怒りや悲しみを抑えようとは思わない。2人のマルグリットがいる場面は、1人は若き日の彼女であり、もう1人は作家デュラスが当時を見つめ直しているのを表している。私はそう思っています。
メラニー:いいえ、むしろ逆です。エマニュエルとはこれが2度目の仕事だったので、彼の映画ではメイクをほとんどしないことは知っていました。だから怖くなかった、というより、むしろ心地良かったです。肌が生きている感覚がするんです。大げさにしなくても繊細な表現をカメラがとらえてくれるし、表情に純粋さが宿りますから。
メラニー:監督はアシュケナージ(東ヨーロッパに定住していたユダヤ人)です。1942年に監督のお父様は家族全員で強制収容所に送られ、彼だけが生き残りました。それでもお父様は生涯、家族が戻ってくるのを待ち続けていたそうです。エマニュエルにとっての父親像は“待っている人”という一面があり、だからこそ彼は「苦悩」を映画化したかったんです。これは彼の父親の物語でもあるんです。
メラニー:デュラスの書くフレーズには確固としたスタイルがあります。デュラスは映画監督でもあり、ジャンヌ・モローやデルフィーヌ・セリグ、エマニュエル・リヴァといった女優たちと仕事をしていますから、彼女たちの出演作を見ました。彼女たちは彼女たちなりの“デュラスの音楽”を探求しましたが、私も自分らしい、私なりのデュラスの音楽を探しました。
メラニー:デュラスは本当に難しい人間だと思いました。あれは、それまでずっと彼女の被っていた仮面が落ちる場面なんです。マルグリットは弱い女性じゃない。泣き虫ではありませんから、先ほども話したように、非常に劇的にギリシャ悲劇のように振る舞ったんです。あれは撮影期間のちょうど折り返した直後くらいに撮りました。演じている私、メラニー自身が本当に疲れ果てていました。感情的にも肉体的にも。それが功を奏したのかもしれません。撮影は1テイクで済みました。
メラニー:偶然だったんです。TV映画に出たりしていましたが、オーディションに受かって、撮影は楽しくて。撮影現場のエネルギーが好きでした。メイクしてもらって、ライトを当てて、きれいに撮ってもらって……。若い女の子だったから、丁寧に扱ってもらえるのが嬉しかった。でも、子どもの頃も女優になりたいと思ったことはありませんでした。演技をするのは怖くて緊張の連続で、最初は楽しめなかった。現場でちやほやしてもらえるのは好きだったんだけど(笑)。仕事を続けることで徐々に演技を楽しむ余裕も身についていきました。今も緊張はするけど、演じる喜びが何倍も勝っています。
(text:冨永由紀)
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