2001年俳優デビュー。『昼顔』、『シン・ウルトラマン』など数々のドラマや映画で主演を務め、現在配信中のNetflix『極悪女王』やTBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』など話題作に出演中。俳優業と並行して(俳優業では「斎」、制作では「齊」の字を使用)映像制作にも積極的に携わり、初⻑編監督作『blank13』で国内外の映画祭で8冠を獲得。劇場体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cinéma bird」の主宰や全国のミニシアターを俳優主導で支援するプラットフォーム「Mini Theater Park」を立ち上げるなど、幅広く活動している。
国内外問わず、映画というフィールドで挑戦し続けている斎藤工。俳優や監督としてだけでなく、企画、原案、プロデュース、映画評論、さらには映画館の無い地域や被災地に映画を届ける移動映画館の主催にいたるまで、独自の路線を貫いている。ときにはジャンルを超えて才能を発揮しており、その活躍ぶりはもはや言うまでもない。
そんななか、「通行人でもいいから出たかった」と出演を熱望したのがシンガポール映画界の第一人者といわれるエリック・クー監督の最新作『家族のレシピ』。日本とシンガポールのソウルフードをモチーフに、バラバラになった家族の絆を取り戻そうと奔走する主人公の真人を演じている。そこで今回は現場を通して感じた思いや自身の家族のレシピについて語ってもらった。
斎藤:脚本を読んでとかではなく、監督がエリック・クーだったからです。僕は世界で戦っているアジア出身のフィルムメイカーやクリエイターに以前から着目していましたが、彼はシンガポール映画の創立メンバーとして、後輩を育てながらシンガポール映画界を引率し続けている存在。
そういう彼の受容性の高さに尊敬と魅力を感じていたので、そんなエリックが日本人のキャストを探しているという情報を得たときは、どんな形でもいいから関わりたいと思いました。
斎藤:シンガポールは東京よりも小さくて、人口は神奈川県よりも少ないんですが、国全体が持っているパワーは外に向いていて、跳ねるようなエネルギーを持っていると感じました。
共演したマーク・リーはコメディアンとしても人気ですし、ジネット・アウも監督や絵本作家としても活動しているので、多才で優秀な方が多いという印象。しかも、彼らは基本的にマンダリンと英語が話せるので、中国語圏だけでなく英語圏でも未来を描ける人たちというのは僕にとっては刺激的でした。
斎藤:マーク・リーは僕の叔父役でしたが、本番でいきなりアドリブをしてきました。ただ、すごいのはまったく違う“成分”を入れるのではなく、あくまでも役柄の延長線上にあるもの。そこで空気がグッと彼に吸い寄せられる瞬間を肌で感じましたが、それに対して僕もただ茫然としていてはだめだなと思ったので、真人として反応するようにしていました。
そういう意味で、彼とのシーンは即興で発展していったシーンが多かったです。シンガポールの俳優さんたちはすごく誠実で、ユーモアのある魅力的な方ばかりだと思いました。
斎藤:あまりにもレジェンド的な存在なので、日本の企画だったらできないキャスティングだと感じました。僕も聖子さんと共演するという未来はまったく思い描いてなかったですから(笑)。
斎藤:そうですね。エリックが聖子さんの大ファンだったということもありますが、今回は聖子さんを認知しているアジアの観客に向けてではなく、エリックの市場であるヨーロッパの人たちが見たときにどう映っているのかを考えたうえでの巧妙なキャスティングだなと感じました。
斎藤:本読みのときに思ったのは、聖子さんの声は耳ではなく心に届く声だということ。第一声を聞いたときに僕のなかではすべてが成立したような感覚でした。そういう精霊のような不思議な魅力をお持ちの方だと思います。
斎藤:今回は実際に麺づくりの工程も全部体験させてもらいました。あとは、麺に合わせたスープを自宅で作ったこともありましたが、自分の好みとして最終的にたどり着いたのは、あさりだしのスープです。そのほかには、シンガポールのバクテーも作ってみたり、ラーメン屋さんに行ったときに店員さんの動きを観察もしていました。
斎藤:若い頃にパックパッカーをしていた時期があったので、そのときに自炊を余儀なくされていましたが、繊細な料理のレパートリーはあまりないです(笑)。でも、友人が家に来たときに振る舞える固定メニューを4つくらい、自分のなかで用意しています。
斎藤:代表的なものだとオニオングラタンスープ。おしゃれでも何でもなくて、自分が食べて本当においしかったものや感動したものを再現しているだけです。
斎藤:めんどくさがりなので、なかなか習慣になっていないですね。ただ、父が映像業界から料理の世界に転じた人間なので、その姿を見ていると食の世界もクリエイティブでフィルムメイキングと似ているなとは感じています。
つまり、素材を集めて、それらを合わせて、人に楽しんでもらって、でもあと片付けが大変みたいなところです。父が厨房に立っているのは自然なことだったので、演じるにあたって影響を受けたところもあったと思います。
斎藤:母はパン屋さんで修行していたことがあるので、昔はよく焼き立てのパンを食べさせてくれました。あとは、パエリア。母はラテンの文化に影響を受けていて、ラテン語を勉強していたので、スペイン人の先生に習ったパエリアをよく作ってくれました。
それは僕にも伝承されていて、たまに作りますが、母のレシピをそのままもらっています。大切なのは、サフランをケチらないこと(笑)。めちゃくちゃ高いんですけど、それによって色づきとかも全然違いますから。
斎藤:現地のクルーはとても好意的に接してくださいました。でも、彼らは劇中に描かれているような日本軍がシンガポールを占領していた時代のことを知っているうえで日本人を受け入れてくれていると思うと、彼らの笑顔は僕らが思っている以上に意味深いですし、彼らの人の温かさも、何層にもなっているんだと実感しました。
僕も両国の歴史については今回初めて知りましたが、それを僕ら日本人が理解していないことは、とても恥ずかしいし、情けないことだと思っています。
斎藤:向こうはユニオンの規定で10時間労働という決まりがあるので、自由時間もありました。数々の作品が成立しなくなるかもしれませんが、これは日本にも導入しないといけないなと思います。
というのも、長時間労働を強いられると、クリエイティビティよりも何かに追われていることが主になってしまうんです。なので、とても健全なスタンスだなと感じました。
斎藤:僕は毎日のように映画館に行ったり、チキンライスのおいしいお店や近所の屋台に行っていました。なので、撮影していたというよりも、生活をしていたという感じだったと思います。
斎藤:総じていうと、「自分たちのクリエイションにどういう市場価値をつけていくか」ということです。というのも、日本でものを作ると、国内で損をしないことが優先されてしまうので、世界市場に向かって戦おうとする日本のエンタテインメントはまだまだ少ないんです。
でも、エリックが考えているのは、いかにシンガポールを外に出していくかということ。これからは僕らも日本の観客にプラスして、世界に作品をセールスしていくということは大事なんじゃないかなと思っています。
僕もエリックのおかげでHBOアジアのプロジェクトに監督として参加させてもらいましたが、そこでは僕が何者であるかということは関係ないので、作品の良し悪しだけで評価されるという本来あるべきところに意識を戻してもらいました。
斎藤:エリックには親族の集まりにも呼んでもらったりしたので、僕は彼の家族の大半に会っていて、秘伝の伝統料理もいただきました。
いまでもおいしいものを見つけるとお互いに送り合ったりしていますが、食というフィルターを通してこういう関係になった人はエリックが初めて。まだ紹介できていないんですが、僕も早く自分の家族をエリックに会わせたいです。こんなことはいままでなかったので本当に不思議な関係ですが、僕の人生には必然の出会いだったと感じています。
斎藤:撮影の最終日に、エリックが手の込んだチキンスープを作ってきてくださって、飲みながら泣いてしまったことがありました。
それがおいしかったのはもちろんですが、監督として大変ななか、スープを作るのに費やしたエリックの労力がありがたくて、感情がこみ上げてしまったんです。言葉ではなく、料理を通じて感謝を伝えてもらったことに感動しましたが、家族のコミュニケーションというのは本来こういうことなんじゃないかなというのを思い出しました。
斎藤:家族であっても、お互いに見える部分と見せてない部分があってしかるべき。僕は血がつながっていても、どこか他人だとも思っています。ただ、自分が家族と過ごしてきた時間を振り返ってみると、やっぱり食事がいろんな感覚をシェアしていた空間。食卓で一番コミュニケーションを取っていた気がしています。
いま僕は独り者なので、考えているのはひとりでいかにたっぷり短く食事を済ませるかということ。でも良い映画を見たときと同じように、食も誰かと共有することで、初めて色づき、その価値が出てくると思っています。
いまは離れているので、家族と食卓を囲むことはあまりないですが、たまに会ったときに一緒に食事をすると、時間が戻るような感覚になります。
斎藤:これからは日本映画ももっと海外を含めて展開していくルートを見出していくべきだと思っています。というのも、中堅やベテランの監督たちも監督業だけではなかなか食べていけず、みんな学校の先生になっているのが実情。僕はそれを海外セールスで打開していくべきじゃないかなと考えています。
ただ、そのパイプ役になるような職業が日本では数名しかいないので、実際は取り合いの状態。とはいえ、最近は独創的な若い映画監督も日本でどんどん誕生しているので、彼らの行き先を僕らの時代で作っていかないといけないと感じています。
「海外進出したい」と言葉にすると漠然としていますが、今回エリックにはその道筋を見せてもらいました。それだけに、そこで見た景色を思い出の1ページにするのではなく、より具体的に考えるきっかけにしたいと思います。
斎藤:海外の映画祭や市場に触れて感じたのは、「自分の半径をしっかりと描く」ということです。それによって、日本でものを作ることの意味がよりはっきりしてきました。たとえば、『万引き家族』や『カメラを止めるな!』などは正攻法で、自分たちの半径にあるもので世界と戦うことができていると思います。
なので、背伸びをして何かを表現していくというよりも、自分の半径数メートルにあるリアルが自分にとって一番の長所であり強みになるのかなということは、僕なりにとらえたつもりです。
斎藤:すでに製作していますが、それは日本の過度なコンプライアンスについてです。プロットは1年くらい前に書いたものですが、この1年でもどんどんコンプライアンスが厳しくなって、世界との壁がどんどん厚くなっているように感じています。
これは、僕が感じている、日常のなかにある窮屈さや閉塞感をヒントにしていますが、おそらく10年前では生まれなかった作品。どこの国でも禁じ手みたいなことは映画の切り口になっているものですが、日本にもこういったタブーはたくさんあるので、いまの現状をシニカルに描きたいと思っています。
あと、最近はニュースをよく見るようになりました。ひとつひとつのニュースを切り離さないで考えると、そこにある共通性みたいなものが見えてくるので、そういったことを自分のなかでも意識して、メモするようにしています。
斎藤:俳優としてひとつの職業をまっとうする美学もありますが、僕なんかがトライする姿が若い人にとって少しでも希望に見えたらいいなという思いもあります。自分が10代や20代の頃には前例があるようでなかったので、行きたい道になかなか行けない時期が長かったんです。なので、失敗を恐れず、かつての自分が思い描いていた未来図みたいなことは、引き続き追っていきたいなとは思います。
若い頃は自分のことしか考えてなかったですが、いまは僕の挑戦が誰かの選択肢になったらいいなとも思うので、“轍(わだち)”みたいに自分がいなくなったあとにも残ることをしていきたいです。きれいごとではなく、これからもそういうことを提示していきたいなと感じています。
(text:志村昌美/photo:小川拓洋)
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