『パパは奮闘中!』ギヨーム・セネズ監督インタビュー

パパもワンオペ育児に大苦戦!? 育児と仕事に奮闘する父の姿を温かな視点で描く

#ギヨーム・セネズ

自分の体験を通じて感じた育児への不安や父としての責任を題材に

フランス映画界きっての人気俳優、ロマン・デュリスが“妻に出ていかれた父親”を持ち前のチャーミングな魅力で好演する『パパは奮闘中!』が、4月27日より公開される。

監督はこれが長編2作目となるベルギー出身のギヨーム・セネズ。初来日を果たした新鋭監督に、自身の体験から生まれたストーリーのことやロマン・デュリスとの仕事について、話を聞いた。

──母親が突然いなくなり、残された父親が幼い子どもたちの育児や仕事に悪戦苦闘する物語ですが、ご自身の体験をもとにした企画だそうですね。プライベートな体験をベースにした作品をつくることは、つらくありませんでしたか?

『パパは奮闘中!』
(C)2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma

監督:本作の企画は私がパートナーと別れたという体験から出発していますが、実際には映画とは違っていて、私自身は子どもたちの母親と1週間ずつ交代で育児をしています。ただ、この体験をしたことで、生活に対して不安を感じたり、父親としての責任を自問自答するようになりました。その内面の変化を、クリエイティブな仕事(本作)に役立てたのです。もし自分ひとりで子どもたちと暮らすことになったらどうしたらいいのだろう。仕事には野心を持って取り組んでいるし、子どもたちの父としての責任も果たしたい。そんな状況を想像しながら作品を撮りました。

──主人公のオリヴィエは通信販売の倉庫で働いていますが、過酷な労働や不況、労働組合のことなども描かれています。父子の物語に、社会問題も盛り込んだのはなぜですか?

監督:私は現代の空気の中に何かがうまく機能していないことを感じたので、社会階級や労働についても取り上げました。主人公のオリヴィエはミドルクラスの人物ですが、ミドルクラスというのは政治的にもメディア的にも気にとめられていない人々なんです。メディアの中には、映画も含まれています。映画でも彼らのことをあまり取り上げません。話題になるのは、すごくお金持ちかすごく貧しいか、どちらかですよね。

『パパは奮闘中!』
(C)2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma

──ロマン・デュリスさんを主演に選んだ理由は? また、監督とデュリスさんは年齢が近いので、役への理解などお互いに共通する部分が多かったのではないでしょうか。

監督:ロマンはフランスで人気の俳優であり、有名な監督ともたくさん仕事をしていますから、私は常に敬愛の念を抱いていました。さまざまな作品に出ている彼を見て感じていたのは、彼自身がクリエイティブで自由で常に挑戦しようという意欲があることです。それが私のメソッドに合っていると思いました。私の方法は、監督が指示して俳優が従うのではなく、監督と俳優が話し合いながら作りあげていきます。つまり、みんなで作りあげていくスタイルなので、それに向いている人でないといけません。また、彼とは年齢が近いうえ、互いに子どもが2人いるという共通点もあります。そして、今回の作品は私の体験をベースにしているので、同世代の彼がそこに自分の体験を重ねて、よりよいものにしてくれたと思います。

──監督のメソッドとは、「脚本にセリフがなく、状況だけを伝えて、俳優自らが言葉を探す」といった記述を拝見しましたが、デュリスさんはその方法にすぐ慣れましたか?

監督:パンフレットなどによくそのように書かれているのですが、正確に説明しますと、セリフがないわけではありません。脚本にセリフは書いてありますが、それを俳優に見せないのです。俳優と人物や状況について話し合いながら、いかにして書いてあるセリフに到達するか、ということなのです。ロマンはそのメソッドで撮影するのは初めてでしたが、彼は新しいことに挑戦するのが好きなので、とても楽しんでくれていました。彼が本作に出演を決めた理由は、もちろんストーリーを気に入ってくれたということもありますが、それ以上にこのメソッドに興味を持っていたからではないかと思います。

──当初は子どもを捨てた女性の話を撮りたかった、と監督が答えている記事を拝見しましたが、今後、女性側から撮ってみる計画はありますか?

監督:自分が知っていることを映画にしようとすると、どうしても男性の視点になります。前作の『Keeper』も同じで、ティーンエイジャーの妊娠を男性側の視点から描いています。ただ、男性の視点を通じて、女性を描くことはできます。今回の作品では女性の地位や自由について語ることができていると思いますし、妻について良いとか悪いとか判定もしていません。またオリヴィエは、彼が育った家長制の家族像を試そうしていたもののそれがうまくいっていないうえ、母や妹など女性たちに助けられています。

日本は、映画映えしそうなビジュアルが多い
──洋服や壁などに青い色が多用されていましたが、その意図は?

『パパは奮闘中!』
(C)2018 Iota Production / LFP – Les Films Pelléas / RTBF / Auvergne-Rhöne-Alpes Cinéma

監督:工場などでは冷たさを表現するために寒色系の色を使いました。私のメソッドでは俳優の動きをリアルに撮影するので、カメラワークは限られてしまい、カットバックなどの様式的な映像美は追求できません。その代わりに、洋服の色や美術などでビジュアル的な意図を表現しています。

──青系の色が多かったせいか、時折、暖色が出てくると印象に残りました。

監督:オリヴィエに父としての責任感が芽生えて成長を遂げた、ということをビジュアル的に示す手段として暖色を使ったシーンもあります。

──エンディングは見る人によってさまざまな感想があるかと思います。

ギヨーム・セネズ監督

監督:エンディングを観客にゆだねる理由は、私自身、映画は観客に属するものだと考えているからです。見る人の年齢や感性、価値観などによって、考える余裕を与えるべきだと思います。私の好みの問題ですが、観客の手を引いて、こっちが善、こっちが悪、と誘導するような映画は好きではありません。

──最後に、日本の観客へメッセージと、日本の感想を教えてください。

監督:この映画は普遍的な内容なので、国や言語、年齢などに関係なく、それぞれの立場から見てもらえると嬉しいです。また、日本、特に東京にずっと来たいと思っていました。今回、初めて来ましたが、大好きになりました。都会的な部分と自然が残っている部分が混ざった雰囲気が興味深いです。フォトジェニックという言葉がありますが、日本は“シネジェニック”ですね。映画映えしそうな、とても美しいビジュアルが多いです。(同時に来日中の)ロマンとも「日本で映画を撮ろう!」と話しているんです。そうすればまた日本に戻って来れますから(笑)。

(text:中山恵子)

ギヨーム・セネズ
ギヨーム・セネズ
Guillaume Senez

1978年生まれ。ベルギー、ブリュッセル出身。ベルギーとフランスの2つの国籍を持つ。2001年に国立映画学校を卒業。短編製作を経て、高校生の妊娠を描いた長編1作目の『Keeper』(15年)がアンジェ映画祭グランプリはじめ多くの賞を獲得。長編2作目の『パパは奮闘中!』が2018年度カンヌ国際映画祭批評家週間部門に選出され、注目されている。