『ザ・フォーリナー/復讐者』マーティン・キャンベル監督インタビュー

2大スター激突のサスペンス・アクションの背景を語る

#マーティン・キャンベル

今回のジャッキーを見たら、みんな本当に驚くと思う

世界屈指のアクションスター、ジャッキー・チェンと、元“ジェームズ・ボンド”のピアース・ブロスナン。2大スターが共演し、『007/カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベル監督がメガホンをとった『ザ・フォーリナー/復讐者』が公開中だ。

ジャッキーが演じるのは、ロンドンで慎ましく暮らす初老の男。だが、無差別テロで愛する一人娘を殺されたことから、元特殊部隊メンバーだった彼の復讐が始まる……。

ジャッキーが笑顔を封印して挑んだこのサスペンス・アクションについて、キャンベル監督が語った。

──本作のストーリーについて教えてください。

『ザ・フォーリナー/復讐者』
(C)2017 SPARKLE ROLL MEDIA CORPORATION STX FINANCING, LLC WANDA MEDIA CO., LTD.SPARKLE ROLL CULTURE & ENTERTAINMENT DEVELOPMENT LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

監督:この映画は、ひとりの年老いた中国人の男の話だ。チャイナマンっていう言葉は(蔑称なので)使っちゃいけないんだけど、彼が中国系なのは事実で、ベトナムで戦争を経験している。いまは60代になっていて、小さな中華料理店を営んでいる。その日、学校に娘を迎えに行き、ドレスショップに立ち寄る。娘がダンスパーティーに行くからだ。すると、店が爆発され吹っ飛んでしまう。娘が亡くなり、男は取り乱し、すっかりボロボロになってしまった。それでも、静かに警察へ行き、犯人について聞き、明らかにアイルランドの組織と関係があることを話すが、警察からは新しい情報を得ることができない。このままでは何も進まず、新たな情報を得るのも時間がかかりそうだと気づいた彼は、自分の静かで厳かな方法で、この残虐な事件を起こした犯人を探すことにした。男はアイルランドに向かい、ピアース・ブロスナン演じる副首相に会う。そして、ストーリーは、このふたりの戦いが中心になっていく。

──本作をどんな雰囲気の作品にしようと思いましたか?

監督:ザラザラした感じの作品にしようと思った。なぜなら、冬のロンドンでの撮影があったからだ。撮影に必要な光がすぐになくなってしまうから大変だった。確か、午後3時の撮影でもう太陽が沈んでしまってる。だから、夜のシーンのうち1〜2ヵ所は、本当は日中に撮影するはずだったんだ。でも、撮影のデヴィッド・タッターサルが素晴らしい仕事をしてくれたおかげで、作品の雰囲気がよく出ている。ぼくらは迅速に動かなければならなかった。スケジュールが詰まっていたからね。それから、気骨ある感じを出したかった。この作品はスリラーだからね。それに復讐の話でもあるから。それで、アイルランドのシーンがたくさんある。そこで映画の雰囲気ができた。

『ザ・フォーリナー/復讐者』
(C)2017 SPARKLE ROLL MEDIA CORPORATION STX FINANCING, LLC WANDA MEDIA CO., LTD.SPARKLE ROLL CULTURE & ENTERTAINMENT DEVELOPMENT LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.

──ジャッキー・チェン演じるクワンについて教えてください。

監督:クワンは寡黙で、でも絶対に諦めない男だ。彼に失うものは残っていない。死ぬ覚悟さえできていたと思う。家族も失った。ストーリーが進むと、クワンの家族に起こった悲劇についても分かってくる。本当に、大切なものは何も残ってないんだ。残っているとすれば、(娘を殺した犯人を)追跡し、正義を通すことだけ。ジャッキーのまとっている雰囲気がすごくよかった。謙虚で繊細そうで、それでいて威厳がある。クワンは根本的にはいい人なんだ。

──クワンの背景について教えてください。

監督:静かな日々を送っていて、ロンドンのイーストエンドにある中華料理店を営んでいる。実際にその地域には、中華料理店がいくつも並んでいるんだ。店を手伝ってくれている女性が1人。彼女はレストランの日常業務を手伝っている。クワンはそこで派手なことはせず、レストランの収入でとても簡素に暮らしている。警察で、娘を殺した犯人の手がかりや名前を知るために2万ポンド必要だと言われる。その言葉を信じたクワンは2万ポンドを渡してしまう。全財産をかけてでも、娘の命を奪った残虐な事件の手がかりを得たかったんだ。

──ピアース・ブロスナン演じる副首相、ヘネシーの背景について教えてください。

監督:おもしろい作品、そして今回のようなスリラーに共通する要素のひとつは、とてもシンプルであることだと思う。例えば、娘が誘拐されて取り戻すために350人を撃ち殺した、とかね。今回の作品には、政治的な要素が入ってくる。IRAとの関係だ。ピアース・ブロスナン演じるヘネシーが過去にIRAに関わっていたことが明らかになってくる。和平プロセスを進めたメンバーの一員だったんだ。ヘネシーには古くからの仲間もいれば、敵もいる。ストーリーが進むと、自分が仲間だと思っていた人が、実は敵だったかもしれないということに気づきはじめる。だから、この作品には平行して語られるサブプロットがあって、それがIRA側のストーリーなんだ。

──なぜ、クワンは犯人を見つけることにこだわっていたのでしょうか?
アメリカのプレミアイベントに登壇したマーティン・キャンベル監督(左)とジャッキー・チェン

監督:クワンには、何も失うものがないから。それに家族に対して、自分には犯人を見つける義務があると感じている。クワンは、ベトナム戦争の直後に娘をふたり亡くしている。とても悲惨な方法で娘を奪われたんだ。娘を失って、自分が護ってやるべきだった、娘たちを護れたんじゃないかと考える。実際はクワンがどうにかできる状況ではなかった。でも彼は、娘の死に対して罪の意識を背負っていた。そして3人目の娘が死んでしまって、もう失うものがなくなった。娘のためだけじゃなくて、自分の過去のためにも、犯人を追跡しなければ、と考えるんだ。大切なものを全て失い、もうクワンを引き止めるものはない。この追跡を終えた後の人生を、一瞬も考えたことなかったんじゃないかな。ただ、正義のために、倫理的な使命感に動かされていた。それで自分の命を落としたとしてもかまわないと思っていたんだ。

──ジャッキー・チェンとの作品づくりはどうでしたか?

監督:そうだな、ジャッキーはクワンそのものだよ。ジャッキーといえば、素晴らしいコメディー作品、アクション・コメディーを思い浮かべる。世界中のだれもが知っている作品ばかりで、どれも素晴らしい。でも今回の作品については、ジャッキーがシリアスで感情的な役を演じられるかどうか、誰にも予想がつかなかったと思う。感情をむきだしにした父親、娘を失った65歳の男の役。この役には感情的なシーンがたくさんあって、気持ちの面での役作りが大切になってくる。以前、『ベスト・キッド』でジャッキーがとてもシリアスな役を演じていて、とてもよかったんだ。ジャッキーが車を大破させるシーンを覚えている。とても面白いシーンだったんだけど、そのシーンを見て、ジャッキーがシリアスな役もできることに気づいたんだ。彼のこれまでの作品を見ても、真摯に全力で打ち込んでいる。この作品でもそう。でも、今回のジャッキーを見たら、みんな本当に驚くと思う。本当に素晴らしい役者だよ。

──この作品は、どんな人の心に響くと思いますか?

監督:映画が好きな人ならだれでも。年配の人にも見てもらえると思う。不思議なんだけど、みんなそう言うんだよね。たぶん、ジャッキーのおかげだと思う。ジャッキーのおかげで、作品に重みが出て、ストーリーに感情の軸ができた。他の俳優だったらそうはいかなかったと思う。それに、象徴的な存在で、ジャッキーが出ている映画をだれもが見たいと思う。その理由は、ジャッキーが他の俳優とは違うところがあって、作品のなかでとてもリアルだから。きっと、だれもがジャッキーの演じる人物に共感するんだろうね。

マーティン・キャンベル
マーティン・キャンベル
Martin Campbell

1943年10月24日生まれ、ニュージーランド出身。60年代に映画作りのためにイギリスに渡り、カメラマンとして活躍。『SCUM/スカム』(79年)でプロデューサーとしてデビューし、ドラマシリーズ『特捜班CI-5』(78-83年)で監督デビュー。主にイギリスのテレビ界で活躍し、『クリミナル・ロウ』(89年)でハリウッドデビュー。『007/ゴールデンアイ』(95年)、『007/カジノ・ロワイヤル』(06年)をヒットさせたほか、『ノー・エスケイプ』(94年)、『マスク・オブ・ゾロ』(98年)などを監督。