『パリ、嘘つきな恋』フランク・デュボスク監督インタビュー

「愛があれば偏見も消える」繊細テーマをユーモラスに描いた仏人気コメディアン

#フランク・デュボスク

「障害を持つ人と恋に落ちたら?」という問いへの答えとは?

大金持ちでモテモテな超軽薄ビジネスマンが、車椅子の美女に本気の恋をした! 自分も車椅子生活だと偽ったまま……。

フランスの人気コメディアン、フランク・デュボスクが監督・脚本・主演の3役をこなした『パリ、嘘つきな恋』は、初監督作ながらもフランスで1位を記録した大ヒット作だ。デリケートなテーマに笑いをまぶし、監督の「愛をもって相手を見れば、差異に対する偏見は消えることを伝えたい」という思いで作り上げた本作について、デュボスク監督に聞いた。

──最初に映画を監督したいと考え始めたのはいつでしょうか。それはなぜでしたか?

『パリ、嘘つきな恋』
2019年5月24日より全国公開
(C)2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

監督:映画監督はずっとやりたかったことであり、絶対にやりたくなかったことでもあります。「ずっとやりたかった」理由は、スーパー8ミリカメラでの撮影が、私にとって映画の世界の初体験だったからです。私は14歳で、その年ごろの子がよくするように、短い脚本を書いて撮影をしていました。
「やりたくなかった」理由は、監督になるにはボスになる必要があるのだと気づいたからです。ボスにはなりたくありませんでした。しかし役者として年を重ねるにつれ、「君はショーを構成して監督している。脚本も書いている。だったら映画の監督もやればいいじゃないか」と言われる機会が次第に増えてきました。私は決まって、監督とはそれだけで特別な技術が求められる職業なのだ、私が撮っても許されるテーマがあればいつかは挑戦してみたい、と答えていました。実際に経験した今でも、自分は映画監督ではなく、“本作の監督”だと思っています。人は謙虚でいるべきです。でも、これほどワクワク興奮して、満足した経験はありませんでした。

──この映画のアイデアはどのように膨らませていったのですか?

監督:私が作りたいと思った理由には2つの面があり、どちらも個人的なことです。
 ある日、高齢になりあちこち動き回れなくなった私の母親は車いすを使い始めました。障害者のシンボルである車いすが解決策になり、母親は再び外出できるようになりました。でも彼女は文句を言うのです。「クリスマス・マーケットには行けない、階段を上らなきゃならないんだもの」と。救いの手のように見えるものが、障害物にもなり得るのだ、とその時気づきました。私は同様の事態に直面している、あらゆる障害を持つ人々について思い巡らしました。また私は以前から、文化、社会の違いではなく身体的な違いをもとにしたラブストーリーを手がけたいと考えていた、ということもあります。「障害を持つ人と恋に落ちたら?」という問いに惹かれていました。将来の展望は控えめに言ってもちょっとややこしくなるだろうな、と。愛は合理的な計算を超えられるのだろうか。そう考えてこの映画を作りたいと思いました。

──この映画の本質的な核は、身体的な違いですか?

『パリ、嘘つきな恋』
(C)2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

監督:ずっとそのことに関心を持っていましたし、引き付けられていたのです。子どもの頃、ひどい斜視の女の子に恋をしました。みんなが彼女をからかっていました。でもたぶん、私は別の目で彼女を見ていたのでしょう。彼女の差異はチャームポイントだと早いうちから気づいていましたから。でももちろん、それを受け入れ、違う誰かと生活を共にし、愛し続けるのは勇気がいります。そんな勇気が自分にあったのかは分かりません。

──ユーモアを交えて障害を描くことにはリスク、さらには危険があるかもしれないと考えましたか?

監督:最初は、1ページずつ書き進めるたびに懸念していましたが、物語に没入すると、そんなことはすっかり忘れてしまいました。障害を持つ人に出会うと、最初はあらゆる言葉に気を使いますが、関係性の基盤ができてくると、そのような注意はしなくなります。でなければ、それは違いを受け入れたわけではなくて、相手との間に距離を置き続けているだけだから。私は誰かをからかうつもりは一切ありませんし、それが見る人に伝わればと願っています。

──本作の主人公は、嘘つきで裏切り者で、成功を収めているけれど常に何者かになろうとしている人物です。このキャラクターはどのように思いつきましたか?

『パリ、嘘つきな恋』
(C)2018 Gaumont / La Boétie Films / TF1 Films Production / Pour Toi Public

監督:彼の兄が言います。「彼女を愛していないんだよ、だからおまえは隠れるんだ」。彼は周りの人たちに向き合おうとしません。自分を見つめたくないからです。主人公のジョスランは失敗ばかりしているので、彼が表に出していることよりも隠していることのほうがずっと面白いに違いないと見る人は想像できます。それは確かに、本作で最も大事な自伝的要素です。私は自分が好きではありません。鏡に映る自分を見ることができませんでした。他人を引き寄せるためには、自分以外の人を演じなければなりませんでした。他の誰かになるほうがずっと満たされました。最終的に私がジョスランに望んだのは、現実よりも自分の嘘の中でさらに輝くことです。現実の人間としての彼はとても醜いですから。そう、彼はピカピカのポルシェよりも車いすに乗っている時のほうがはるかに輝いているのです。

──プロデューサー、監督、脚本、主演俳優を兼務した理由は? すべてをコントロールしたかったからですか?

監督:もちろんです。でもそのすべての役を同時進行したわけではありません。書き始めた時は、自分が監督するのか、演じるのかは分かりませんでした。良かった!なぜなら、そうと知っていたら自分のための役を作らなかったでしょうし、それは物語にとって損失になったかもしれません。執筆を終えて初めて、私は監督もやると決めました。そして、私を俳優として雇いたいかを考えるのが監督の仕事です。私たちの財政的なスポンサーからは俳優も務めるようにと助言がありました。

──この繊細かつ突飛なロマンチックコメディで、何を伝えたいですか?

監督:座ったままでいることを強いられている人たちも同じ人間です。彼らはただ見た目が違うだけです。根本の部分では大した違いはないのです。このテーマについて神経を使ってはいますが、何かを訴えようという気はなく、説教をたれるつもりもありません。ただ、人の内側に関心を持とう、と言いたいです。私たちは、そう願いさえすれば、みんな立ち上がることができるんです。

フランク・デュボスク
フランク・デュボスク
Franck Dubosc

1963年フランス生まれ。演劇学校を経てコメディアンとして活躍、国民的スターとなりテレビやラジオに多数出演。『Camping』(未/06年)、『DISCO ディスコ』(08年)などの映画の主演も務める。本作が初の長編映画監督作となる。