1970年生まれ、韓国出身。映画『将軍の息子』(90年)でデビュー。『ユア・マイ・サンシャイン』(05年)、『新しき世界』(13年)、『国際市場で逢いましょう』(14年)、『アシュラ』(16年)などの話題作、ヒット作に多数出演している。
90年代、核開発をめぐり北朝鮮への潜入捜査を命じられた韓国工作員が、祖国の闇に苦悩する姿を描いた『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』。実話を元にした緊迫のサスペンスドラマが、7月19日より公開される。
“黒金星”のコードネームを持つ主人公を演じたのは、韓国の人気実力派ファン・ジョンミン。彼に、映画の見どころなどを聞いた。
ジョンミン:出演を決めた理由も感想もほぼ同じなのですが、まずあの時代に北に潜入したスパイがいて、ああいったことが行われていたという事実を僕は全く知りませんでした。その当時、僕は20代後半で劇団で演劇をしていました。国民の皆さんも知らなかった人が多かったはずですが、当然僕も知りませんでした。脚本を呼んで「そんな昔の話でもないのに、俺たちは知らなかったのか」と驚きました。そして「これはみんなにも教える必要がある」と思ったのが理由です。
ジョンミン:諜報員(スパイ)というのは決して目立ってはダメな存在ですよね。外に正体を知られては絶対にいけないんです。多くの人々は“スパイ映画”と聞くと、ハリウッドのボーンシリーズのように派手なアクションで闘う映画を想像すると思うのですが、それだと自らスパイだと言いふらしているかのようで、とても目立ってしまいますよね(笑)。つまり実際のスパイではありえない話です。それはエンターテインメントとして別のベクトルで見る楽しさがあるのですが、僕たちは事実を基にしているので、そうした派手なアクションはありませんでした。黒金星は相手に正体を知られないように着々とだましていきます。自分が話をしている間にも、心の中には2つの性格が存在します。スパイとして、また別の人格として。それを演技で表現しなければならないということが一番難しかったです。北と南が淡々と話をしている間でも、心の奥底ではまた別のことを思っていなければなりませんから、それを観客に見せなければいけないことが大変でした。
ジョンミン:撮影に入る前に直接お会いしました。お会いして色々なお話を聞いて、とても参考になりました。ただ、ご本人の姿を完全にマネしようとは思っていなくて、パク・チェソさんが長い間どのような人生を生きてこられたのか、とても気になったのです。
お会いした印象ですが、一番驚いたのは、人は話をする時、相手の目を見ると今どんな心理状態なのか、なんとなくでも分かるじゃないですか? でもパク・チェソさんは目を見ても全く読み取ることができませんでした。今、どんな気分なのだろう? 機嫌がよいのか、よくないのか、僕には全く読めませんでした。それには本当に驚きました。きっと長いこと諜報員として活動していたからそうなのだろうとは思ったのですが。僕にとってはそれが最も大きな宿題となりました。どうしたらそのような感じを演技で出せるかと。
ジョンミン:はい。たくさん話をしました。パク・チェソさんが国家保安法違反で獄中生活をしながら書かれた手記があるのですが、それを読んでからパク・チェソさんのところへ行きました。そこで当時の詳しい状況などを聞きました。そういえば、パク・チェソさんも、最初はこの映画がボーンシリーズのようなスパイアクション映画になると思われていたそうです(笑)。それで僕は「じゃあそんなふうに実際に派手にアクションされたのですか?」と聞きました。「いや、するわけがないだろう」という答えが返ってきて、そんな冗談を言ったりもしました(笑)。
ジョンミン:今回初めて監督の作品に出ましたが、ユン・ジョンビン監督はとても賢い方です。そしてとてもしつこいです。僕は仕事をする時は、しつこくて人に苦労させるタイプの人が好きです。そうであってこそ、私自身も様々なことを吸収できると思うからです。簡単に楽に仕事をする人はあまり好きではありません。ユン・ジョンビン監督とはとても気が合いました。この作品は演劇のようにセリフがとても多いのですが、セリフを言い合っている姿が、アクションで闘っているかのように見えたらと監督は考えられていました。韓国でもこの作品の宣伝をする時は“マウス・アクション(=註:言葉のアクション)”という言い方をしていたくらいです。互いに対する緊張感を高めるためにはたくさんの物語がないといけないし、役者の呼吸も合っていないといけません。そして話をしていないときの空気感みたいなものも大事です。映画を作っている側にはそれが分かりますが、そういったエナジーが観客にも伝わらないといけませんよね。どんなふうに表現をしなければならないかについて、常に監督と話し合いました。
ジョンミン:舞台は演技をはじめた若い頃からやってきているせいか、自分の家のようです。映画は、やればやるほど難しくて慣れません。映画はとても細かくて、浅はかな考えで演技に臨もうものならカメラに全部それが出てしまいます。だからもっと頑張ろうと毎回一生懸命にやっています。
ジョンミン:僕はこれまで一度もキャラクターを考えて作品を決めたことはありません。なぜなら、ストーリーが面白かったら、その中の登場人物はきちんといかされます。一番大事なのはストーリーです。
ジョンミン:派手なアクションなどはないので寝ないでください。ハハハ(笑)。僕がカンヌに行って感じたことがあります。カンヌでは観客の大多数が外国の方で、実際に韓国の観客が肌で無意識に感じるものとは違うと思うんです。ですが、こういったことがあったのだなと興味深く見てくださっていました。日本の観客の皆さんもきっとそんなふうに見ていただけるのではないかと思います。北と南という分断された国家間の話ではありますが、共感していただける部分もたくさんある映画です。楽しんで見ていただきたいです。政治的な話がしたいのではなく、結局は人と人とが疎通する物語です。そうした部分を見ていただけたらと思います。
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