最初は不安とプレッシャーしかなかった(三吉彩花)
この夏も話題作が続々と公開しているが、そんななか、「音楽を聞くとカラダが勝手にミュージカルしてしまう」という催眠術を掛けられた女性を主人公にしたハッピーなコメディ・ミュージカル映画『ダンスウィズミー』が今週末より公開中だ。
今回、矢口史靖監督が、踊らずにはいられなくなるヒロインの静香に抜擢したのは、女優・モデルとして活躍している三吉彩花。そして、静香と一緒に旅をすることになる千絵をお笑い芸人のやしろ優、ワケありストリートミュージシャンの洋子を歌手のchayが演じている。そこで、本作をきっかけに仲良しになった3人に撮影秘話やお互いの思いを語ってもらった。
──今回は、オーディションを経ての出演となりましたが、そのときのことを教えてください。
やしろ:マネージャーさんから勧められたのがきっかけでしたが、それまでオーディションではなく、ネタ見せしかしたことがなかったので、どうしようかと悩んでいたんです。なので、とりあえず倖田來未さんのモノマネで「キューティーハニー」を歌わせていただいて、「ハニーフラッシュ!」と監督に向かってやったら受かっちゃいました(笑)。まさかでしたね。でも、最初はドッキリなんじゃないかと思っていました。
──とはいえ、自分のなかで自信はありましたか?
『ダンスウィズミー』
(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会
やしろ:とにかく自分が最大限できることを監督にぶつけようという気持ちだけですね。自分らしさも出せたので、たとえ受からなくても監督に名前だけでも知ってもらえたら次に繋がるかなという感じでした。
──三吉さんのオーディションはどのような形でしたか?
三吉:私はカラオケボックスでのオーディションで、課題曲2曲を歌ったのとダンスとセリフの読み合わせをしました。でも、まったく手ごたえがなかったので、決まったと聞いてびっくりでしたね。そのときに(EGO-WRAPPIN’の)「くちばしにチェリー」とchayさんの「あなたに恋をしてみました」を歌いましたが、まさかご本人に会えるとは……。
chay:私も後から聞いて驚きました。洋子役は、「課題曲を歌っているchayさんもどうですか?」とスタッフさんが監督に言ってくださったのがきっかけでオーディションを受けたんです。ただ、私は演技未経験。そこで、「演技はできませんが、歌だけは歌えます!」と言って、ギター1本で2曲を監督の前で歌わせていただきました。まさか自分が映画に出る日が来るなんて夢にも思ってなかったですし、矢口監督作品の大ファンだったので感動しました。
──本作は、邦画ではあまりないミュージカル作品ですが、そこで不安やプレッシャーはなかったですか?
『ダンスウィズミー』
(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会
三吉:最初は、不安とプレッシャーしかなかったですね(笑)。ミュージカルは好きなので、いつかは挑戦してみたいと考えてはいましたが、こんなにも早くご縁があるとは思ってもみなかったです。ただ、矢口監督の最新作ということと、日本で初めてのコメディ・ミュージカル映画ということもあり、注目度が高いので期待以上の作品にしなきゃという気持ちにはなりました。でも、まだ自分のスキルが追い付いていなかったですし、いろんな葛藤もあったので、撮影の中盤までは楽しむ余裕はなかったですね。特に1人で練習しているときはきつかったです。
──では、楽しめるようになったきっかけは?
三吉:途中からやしろさんやchayさんたちと撮影で各地を回ったり、みなさんと歌ったり踊ったりするシーンが増えてきたのは大きかったです。そこで、みんなも同じ不安を持っているんだと思えました。特にこの3人は職種もバラバラですけど、お互いに補い合いながら撮影していたので、大変なことも共有しながらモチベーションを保てたと思います。
やしろ優
やしろ:私は台本をもらったときに、かなり出番があるのを知って、正直ちょっと引いてしまいました(笑)。しかも、私がイメージしていた映画の現場というのは怖いものだったので……。でも、監督はまったくピリピリ感を出さない方ですし、撮影中はプレッシャーもなく、本当に毎日楽しかったです。
──そんななかでも、ずっとドッキリだと思われていたそうですね。
やしろ:結構ずっと疑っていましたね。監督も「さっきドッキリの看板を持ってた人いたよ」とか言うんですよ! なので、「本物の矢口史靖監督なんだろうか」とずっと警戒しながら演じていました(笑)。
──chayさんも映画の現場は初めてでしたが、どう感じましたか?
『ダンスウィズミー』
(C)2019「ダンスウィズミー」製作委員会
chay:いつもとまったく違う現場で右も左もわからなすぎたので、よくわからないまま入って、よくわからないまま終わったような感じでしたね(笑)。私もやしろさんと同じように、映画の現場は怖いイメージがあって、監督が罵声を浴びせたり、灰皿が飛んできたりするのかなとか思っていました。でも、監督は物腰が柔らかくて優しい方だったので、リラックスして挑むことが出来たと思います。
──では、あまり不安になることはなかったんですね。
chay:そうですね。あと、大学時代はギターしか弾いてなかったこともあり、「青春を取り戻せた!」と感じるほど楽しかったです。撮影のあとも夜中までやしろさんの部屋でカードゲームしたり、みんなでおしゃべりしたりしていました。朝が早くても全然苦じゃなかったですし、とにかくみんなに会いたいという感じだったので、大切な仲間ができたこともうれしかったです。
催眠術をかけてもらって、タマネギがリンゴの甘さに!(やしろ優)
──それぞれ印象に残ったシーンがあれば教えてください。
左からやしろ優、三吉彩花、chay
やしろ:私は催眠術にかかって、生の玉ねぎを皮ごとかじるシーンですね。とにかく辛くて大変なんですよ。でも、いままで何度かバラエティー番組で催眠術をかけてもらっていた先生がちょうど指導で現場に来ていました。以前は虫が苦手な私が、セミを食べてしまったこともあったくらい。本当にかかりやすいので、今回も「この玉ねぎはリンゴになります」と言われて、がっつり催眠術にかかったまま演技をさせていただきました。おかげですごくおいしかったです(笑)。
三吉:横で見てましたけど、「本当に甘い」って言ってたもんね。でも、お昼休憩のときにみんなでお弁当を食べていたら、「だんだん、口の中が辛くなってきた!」とか言い出して(笑)。
やしろ:そうそう。すごく辛くなってきて、「先生、解けてきました!」って言ってたよね。
三吉彩花
三吉:私はアクロバティックなことが多かったレストランのシーンですね。本編では10分くらいですけど、ブロックごとに分けて撮影したので、4日間かかりました。でも、人生においてシャンデリアにぶら下がるなんて、あと何回あるだろうという感じなので、貴重な経験をさせていただいたと思っています。
やしろ:確かに、もうないだろうね。
chay:私は、結婚式場のシーンです。人生であそこまでのことってしないと思うので、最初はあまり声が出ず、羞恥心もあって、殻を破れなかったんです。そしたら、監督とスタッフさん数名が円になって、協力してくれて、それを何周か一緒にしていたら、できるようになりました。
三吉:念入りな役作りしてましたよね。
chay:そうですね、あそこは素の部分が結構出ているかもしれないです(笑)。監督から言われていたのは、「当日までとにかくストレスを溜めておいてください」ということ。なので、自分のなかで癒しになるものはすべてNGにして、ストレスを爆発させるようにしましたから。でも、すごく気持ちよかったですし、清々しい気持ちになりました。一発勝負のシーンでは、溜めたストレスを一気に発散して、「かましてやるぜ!」って感じでしたね。
──やしろさんから催眠術のお話がありましたが、ちなみにみなさんはかけてもらいたい催眠術はありますか?
三吉:私は英語がペラペラになる催眠術をいち早くかけて欲しいですね(笑)。というのも、この作品で海外の映画祭に監督とご一緒させていただく機会が多いんですが、自己紹介や取材を全部英語でできるようになりたいので。切実です。
chay:私はジェットコースターに乗れないので、乗れるようになる催眠術がいいですね。楽しいんだろうなといつも悔しい思いをしているので、ぜひかけて欲しいです。
やしろ:私はあまりないですが、強いて言うならホラー映画が見られないのを直したいくらいですね。
三吉・chay:ホラー大好きです!
やしろ:じゃあ、催眠術をかけてもらったら、2人と見に行きます。
左からやしろ優、三吉彩花、chay
──本作では音楽が要でもありますが、みなさんの人生で思い出の1曲があれば教えてください。
三吉:私は松田聖子さんの「私だけの天使〜Angel〜」。母親が娘への気持ちを歌った曲で、歌詞がステキなんです。実はこの曲は、成人式の日に母とカラオケに行ったときに母が泣きながら歌ってくれた曲。大人になるターニングポイントを迎えた日でもあったので、私も泣いてしまった思い出があります。いつか私にも子どもが出来たら歌ってあげたい曲ですね。
やしろ:私は芸人のスクールを卒業した後、事務所に所属ができなくて悩んでいたときに聞いていた倖田來未さんの「WIND」。ひとりでカラオケに行っては泣きながら歌っていました。悔しくもあったので、かんばるぞという気持ちになれた曲です。
chay:私はこの作品のオーディションで歌わせていただいたシンディ・ローパーの「トゥルー・カラーズ」。これを歌うといい方向にいくジンクスのある曲なので、勝負のときには歌っていますし、私が初めて弾き語りをできるようになった曲でもあります。今回もこの曲を歌ったので、きっとうまくいくはずと思っていました。
──とても仲の良いみなさんですが、お互いに刺激を受けた部分はありますか?
三吉:いっぱいありますね。というか、刺激しか受けてないです。
chay:職種が違うので、普段だったら出会えなかったですよね。今回は、それぞれ大変な思いをしながらも、ひとつの作品を一丸となって作り上げているのを知ることができてよかったです。こんなにみんな努力しているんだというのを見るのは刺激になりますよね。
やしろ:そうですね。バラエティーだとその日だけで終わってしまうことが多く、自分のことしか考えてないときもあるので、こんな風に一体感を持ってチームで一緒に作っていくというのは味わったことがない経験でした。
三吉:私は一番年下なんですが、おふたりが演技をするのは初めてということと、主演として引っ張っていかないといけないかなと思って、クランクインするまえは正直言って不安でした。でも、そんな心配はまったく必要ないくらい、おふたりともハマっていましたし、その姿にパワーをもらいながら3人でがんばれたと思っています。
──3人だけの忘れられない思い出もありますか?
三吉:あれしかないよね?
chay:撮影期間中に急遽休みがあったので、3人でテーマパークに行きました!
やしろ:まずサングラスとか、グッズ集めから始まったんですよね。
三吉:バレるから、隠せるものを買おうみたいになって。
chay:でも、テーマパークってみんなその世界観に集中しているから、実はそんなに周りのことは見てないっていう(笑)。
やしろ:そうなんですよ。でも、楽しかったですね。
挑戦的なシーンがあったので、心配でした(chay)
──実は、今回は監督に、“いまだから3人に伝えたいこと”を聞いてきました。
左からやしろ優、三吉彩花、chay
やしろ:えー!
三吉:怖い……。
chay:何だろう、気になる!
──「仲が良いのはいいけど、あんまり飲みすぎないように」とのことです。
三吉・やしろ・chay:(笑)。すごい、バレてる!
──逆に、監督に今だから言いたいことはありますか?
三吉:私は、聞いてみたいことといえば、怒っているところを想像できないくらい穏やかな方なので、人生で一番声を荒げたエピソードが気になります。
やしろ:確かに、ちょっと聞いてみたいよね。
──あと、監督からみなさんへの質問も聞いてみました。まずはやしろさんへ。「撮影を急遽取りやめた“ハンバーガーを一口で食べるシーン”について。やしろさんがどうしてもできなかったときに、まさかの三吉さんが成功してしまいましたが、本当は屈辱を感じていたのですか?」ということについて知りたいそうです。
やしろ:感じていましたよ! 普通のハンバーガーを一口で食べて欲しいというシーンでしたが、私は意外と口が小さかったみたいで全然入らなかったんです。
三吉:いろいろ試行錯誤したんですけどね。
やしろ:そのあと、ホテルに帰ってからも彩花ちゃんに付き合ってもらって、何回も練習したのに、目の前で彩花ちゃんが出来ちゃったときはマジで「なんなんだ!」って思いましたよ(笑)。そのあと、監督にも「できるかもしれません」と言ったんですけど、結局ナシになってめちゃくちゃショックでしたね。
三吉:私もショック受けましたから。もしかして私が食べるかも、と受け入れ態勢でいましたし、「私たちの練習って……」となったので(笑)。
やしろ:でも、監督も申し訳ないと思ったらしく、撮らないことをすぐに言えなかったみたいです。
chay:そんな風に言えない感じも、優しい矢口監督らしいよね。
──あと、三吉さんには「クールな顔立ちなので、撮影中は表情筋を動かす練習をしてもらいましたが、いまでも続けていますか?」とおっしゃっていました。
三吉:続けてないですね……(笑)。でも、今回は歌の練習もしていたこともあり、ボイトレの先生にいろいろと教わったので、それを活用してひとりでカラオケに行く回数が増えました。ミュージカルのお仕事がいつ来てもいいように、日々特訓はしています!
──chayさんには「いままでは甘くて豊かなchayというイメージだったのに、今回でブラックchayが出てきちゃったので、思いがけない仕事が舞い込んでくるかもしれませんが、それはぜひ挑戦して欲しいです。ただ、結婚関連のお仕事が来なくなったらごめんなさい」とのことでした(笑)。
chay:今回はわりと挑戦的なシーンがあったので、ファンが減っちゃうんじゃないかなとずっと心配していたんですけど、監督は「新しい人が見てくれるよ」と言ってくれていました。
三吉:絶対ファン増えるよね!
やしろ:私もあれでますますファンになりましたよ。
(text:志村昌美/photo:小川拓洋)