1983年3月29日生まれ。兵庫県出身。2006年に俳優デビューし、07年『椿三十郎』で映画初出演を果たす。14年にNHK連続テレビ小説『花子とアン』でヒロインの夫役を演じ、15年に公開された映画『俺物語!!』では型破りな高校生の主人公役を演じる。映画『孤狼の血 LEVEL2』(21年)では第45回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞をはじめ、多くの賞を受賞。他の出演作に『燃えよ剣』(21年)、『土竜の唄 FINAL』(21年)、NHK大河ドラマ『西郷どん』(18年)、『テセウスの船』(20年)、『レンアイ漫画家』(21年)、『エルピス―希望、あるいは災い―』(22年)など多数。2023年4月28日より『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』が公開予定。
どしゃぶりの雨の夜、タクシー会社を営む稲村家で妻が夫を殺めた。3人の子どもたちを夫の暴力から守り、幸せにするために。そして15年後の再会を誓って家を去った母は、約束どおり帰還し、大人になった子どもたちとの再び対面する。
ある一夜に起きた事件によって大きく運命を変えられた親子を中心に、周囲の人々をも巻き込んで織りなす人間模様、言葉にならない家族の絆を映像に描き出す『ひとよ』。東京でフリーライターをしている次男と、地元に残って夢を諦めた日々を送る妹の板挟みになっているのは長男・大樹だ。勤勉なサラリーマンで妻子もいる大樹を演じた鈴木亮平に話を聞いた。
鈴木:伝えておきます。ちなみにどの人に感情移入しました?
鈴木:そうですか。それがね、聞いてみると一人一人違うんです。女性の方は母のこはる(田中裕子)が多いですね。若い男性は次男の雄二(佐藤健)だし、僕ぐらいの年齢は大樹だし、全然違うんですよね。
鈴木:やはり、僕も家庭があるので、やっぱり大樹ですかね。
鈴木:そうですね。あまり派手なことをしないのが、役として彼に惹かれたところです。全部ため込んでいくキャラクターで、それをほぼ人に見せない。この人、何か我慢してる、何かあるんだろう、と想像させつつ、それをわかりやすく表現せずに、自分の中にひたすらため込んでいく。これはたぶん、映画だからこそできることだと思うんです。真剣に見てもらって、あいつ何を考えてるんだろう?と思ってもらう。ある種、見せ場がないように思われるところが一番僕にとっては魅力的なチャレンジでしたね。
鈴木:最初は僕もスタッフも、吃音は子ども時代の親からのトラウマがあったから、という理解でいたんです。でも、クランクインの半年ぐらい前から吃音者の方、何名かにお会いして、研究者の方にもお話を聞くと、どうも吃音と心理的なトラウマの間に関連性があるとは言えないらしいことがわかったんです。吃音症状が現れる割合は、虐待を受けてきた子どもたちと虐待を受けてない子どもたちでは変わらないんです。それを聞いた時に「彼はもともと吃音を持っていて、だからこそ悩んでいた部分もあり、そこに殺人者の加害者・被害者の子どもというのが重なったんだ」と。なので、それこそ記号的に絶対使いたくはなくて、世の中に誤解もされたくないと思いました。うまくコミュニケーションが取れないからこそ、自分の中にため込んでいくばかりで、一番身近な奥さんに過去の事件のことも伝えないほどの性格になった大樹という人間を、説明演技にならないで自分の中で感じていきたいと思いました。
鈴木:最初の取っかかりにしたのが、何であれだけ親にひどいことをされて、しかも長男ですから、一番長い間ですよね。その大樹が、こんなに早くに結婚して、子どもが欲しいと思ったのかということです。僕は彼の中のひそかな親父への復讐だと思っていて。あんたとは違う、こんなに幸せな家庭を築いたぞ、という。でも、結果的に家族を幸せにできていない。どう振舞えばいいかも分かってないんですね、家庭の中で。親父がそういう人じゃなかったから。だからうまくいかない。自分の血への怯えというか。そこからどんどん広げていきました。この15年、どういうふうに彼は生きてきて、他者とどうコミュニケーションをとってきたのか。それが今回一番考えたことです。
鈴木:全然違うと思います。大樹はお母さんが大好きだったけれども、自分が一番必要とした15年間、母親はいなかった。だから恨んでもいるけど、同じぐらい好きで。自分が親になって、親はいかに子どもを愛していたかが分かるから、より母親の気持ちに寄り添いたくなるけれど、母親が帰ってきても素直に抱き合うことができずに逃げてしまう心境。生きづらい人だな、と芝居していても思いました。
鈴木:いま思い出したのは、スナックで兄弟げんかする場面の動線の作り方ですね。僕が弟を追いかける時につまずいて、居合わせたお客さんにぶつかって「すいません!」という。それを現場で指示されて、ああ、面白いな、と思いました。ダイナミックになるんですよね。計算が見えちゃうと駄目ですけど、うまく動線を作ることによって「あるある、そうなるそうなる!」と思える。単純に会話だけじゃなくて、そういう動きで躍動感が生まれるんです。
鈴木:白石監督の作品って、飽きさせないところがすごくあると思います。こういう家族の繊細なお話だと、「飽きちゃう人は飽きていいから、繊細に撮っていこう」というスタイルもあると思うんですけど、白石監督はやっぱりエンターテインメントとして撮る。カーチェイスを入れてみたりとか。だから、どんどんストーリーが面白く転がっていく。それもダイナミックだな、と完成作を見て思いました。
鈴木:またか、と思いましたけど(笑)。
鈴木:ないですね、何より僕は彼が好きなので。彼を役者としてすごく信頼しているので、彼がやってくれるなら、もう安心して脇を固められるというところがあるんです。前の作品でいかに彼が努力したかも見ていますし、そういう信頼関係は大事です。今回も入ると、スッと弟だと感じられました。以前やった役は実際の彼よりは向こう見ずなところがあったんですけど、今回の雄二は結構、健自身っぽくて。彼はすごく頭がいいし、ちょっとクールなところがあるから。で、僕が演じた大樹は、活発でちょっと悪さもする雄二に憧れているし、コンプレックスみたいなのもあると思うんです。健も、「僕にはそれ絶対ないな」と思うものを持っているから、そことちょっとうまくリンクできた気はしますね。男兄弟って、そういうパワーバランスがあって。ガンとぶつかり合うイメージあるかもしれないですけど、ある程度育っちゃうと、逆に遠慮し合うところがあるので、そこがちょうど僕の中でしっくりしましたね。
鈴木:あれはカットがかかった時に、健がまず「今、良かったっすよね」。僕も「今の感じ良かったよね」と言っていたら、もうそのワンカットでOKになりました。それぐらい、演じている僕らも、撮っている監督も「今のしかない」と思ったカットでした。最初から僕ら3人の空気感とかリズムがすごくしっくりきて。みんな無駄に芝居しないし、ポンポン進めていくけど、どこかでちょっと違和感がある、気まずい感覚があるっていう、あの感じがしっくりきたんですよね、僕らの中で。あの庭のシーンは僕らも一番気に入っているシーンじゃないかな。
鈴木:いいですよね。何がって言えないんだけど。
鈴木:監督は「絶対一発で決めなきゃいけない」という緊張感を出すタイプじゃないんです。OKが出て、「ほんとにOK?」というくらいの淡々とした感じ。監督が言うならOKだろう、と進んでいきましたけど、出来上がりを見たら、そんな淡々とした現場とは思えないほどパワーがあって。そういう意味でも「これが白石組か!」と出来上がった時の方が思いましたね。
鈴木:究極を言うと、家族のために人間は基本的に生きていると思っているんです。生物学的に子孫を残していくのが生物の一番の生きる目的とすれば、家族を作って、子どもを作って、というのが一番の人生の目的だと思うんです。もちろん現実はいろいろ複雑で、そんな単純ではないですけどね。でも。一番自分の本能と結び付いた関係というのは家族なんじゃないかな。自分の子どものために死ねるというのは本能的なところだったりもすると思うし、それだけ強いつながりがあるんじゃないかと思っています。だからこそ悩むし、信頼するし、つい甘えてしまう。だからこそ人間は、それが壊れた時になんとも言えない、言葉にならないような無念を感じるんじゃないかな。それは演じていても思いました。言葉にできないものって、本能がすごく働いていると思うんです。
鈴木:映画を見た人がそれぞれ違うキャラクターに感情移入するという話に戻りますが、それはつまり、自分自身が自分の家族に対してどういう思いを持っているのかを発見できる映画になっていると思うんです。結構みんな、自分の家族への思いって、うまく言葉にできない。それを言葉にできないまま見せているので、「言葉にできないけど、自分は家族に対して、こういう思いを持っていたんだ」と感じてもらえるんじゃないかと思っています。なので、特に家族に対して、もやっとする思いを持っている人は、ぜひ見てほしいなと思います。
(text:冨永由紀/photo:ナカムラヨシノーブ)
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