1949年生まれ。ニューヨーク大学で映画製作を学んだ後、78年に香港に戻りゴールデン・ハーベストに入社、ジョン・ウー監督と出会う。88年ツイ・ハーク主宰のフィルム・ワークショップにゼネラルマネジャーとして入社、『狼/男たちの挽歌・最終章』(89年)のプロデュースを担当。90年にウー監督とマイルストーン・ピクチャーズを設立し、『狼たちの絆』(91年)、『ハードボイルド 新・男たちの挽歌』(92年)などのヒット作を製作。ハリウッドに進出後は、『ブロークン・アロー』(96年)、『フェイス/オフ』(98年)、『M:I-2』(00年)、『ペイチェック 消された記憶』(04年)、『レッドクリフ Part I』(08年)、『レッドクリフ Part II―未来への最終決戦―』(09年)などヒット作を多数製作。
『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』テレンス・チャン(プロデューサー)インタビュー
超大物プロデューサーがド新人監督の作品を製作した理由とは?
『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』は役所広司が主演した日中合作映画だ。ヒマラヤ救助隊「チーム・ウィングス」の隊長ジアン(役所)は、エベレスト南部で墜落した飛行機に残された機密文書の捜索をインドの特別捜査官から依頼される。ジアンはチームのメンバーと共に、ヘリコプターでエベレストの中腹に到着。そこから一行は墜落現場へ登り始める。墜落現場は「デスゾーン」と呼ばれる死と隣り合わせの危険な場所だった。
監督・脚本を手がけたユー・フェイは本作が初監督作。プロデューサーは『M:I−2』『レッドクリフ』シリーズで知られるテレンス・チャン。彼に製作の舞台裏を聞いた。
チャン:本作はユー・フェイ監督が5年をかけて脚本を書き、準備をしていました。私は親しい友人の紹介で監督に会い、脚本をもらいました。私は登山を知らないので、最初はテーマに興味がわきませんでした。フェイ監督は映画を撮ったこともないし、短編映画の経験すらない。正直あまり関わりたくない、放っておこうと思いました(笑)。けれども、徐々に監督の映画に対する誠意や熱意が伝わってきたので、私の心に変化が出てきました。脚本を読み、意見やアドバイスをしました。100回くらい脚本を改稿してもらいました。監督は絵コンテを書いてきて、ノート3冊分あり、3日間かけて読み終えました。絵コンテを見た時に、監督はちゃんと画面でストーリーを語ることができると思いました。改稿をしていく過程でテーマやストーリーがどんどん良くなっていったので、監督を助けようと思い参加を決めました。
チャン:監督が最初に提出してきた脚本は、単に愛を求めて進んでいくストーリーでした。ストーリーにもっと多角的な層を入れた方がいいと思いました。そして最初から持っていた疑問が「なぜ人は山に登るのか」──なぜ危険を冒してまで山に登るのか、でした。監督が言うには「登山家の65%は何かしらのトラブルや事故で死ぬ」。なぜそんな危険なことをするのか分からなかったので、ディスカッションをしていきました。そしてなぜ人は山に登るのか、私自身も分かるようになり、その内容も改稿の中に取り込んでいきました。これは商業映画なので、ドラマや愛情、アクションなども脚本に取り入れてもらいました。ストーリーは単純ですが、いろんな要素が含まれ、いい作品になっていると思います。
チャン:意義としては、この作品から(フェイ監督という)新しい才能が出てくるということ。あと製作当時、中国映画でエベレストを題材にしたのが初めてということです。新しいことづくめだと(興行的な)リスクが大きいことも事実です。興行的に成功するかどうか読めない。プロデューサーとしてできることはベストの役者を集めること。役所広司さんは世界的に有名な俳優です。ヒロインのチャン・ジンチューは中国で有名な演技派女優です。あとベストなスタッフを集めました。いい映画には観客はついてくるものです。
チャン:監督と話して分かったのですが、登山チームは多国籍なんです。全員が中国人というのはありえない。ジアン隊長は50代か60代の男性という設定で中高年の俳優が必要なんですが、中国の俳優でこの役をできそうな人がとても少ない。登山チームは多国籍ということもあり、外国の役者にも目を向け、真っ先に浮かんだのが役所さんでした
チャン:役所さんはとても勇敢な方でした。役所さんはスタントなしでほぼ全てのアクションシーンをこなしていました。一度足を怪我したのですが、病院に行き、医者が止めても自分でやると言いました。役所さんのプロフェッショナルな精神に感銘を受けました。
チャン:合作として作るつもりはありませんでしたが、役所さんを主演として迎えることができたので、結果的に日本のバップが出資することになりました。中国ではルールがあり、外国の出資が10%以上になった場合は合作映画と表記するため、こうなりました。
チャン:中国、アメリカで11月29日に公開します。それ以外の国への海外セールスはまだ始めていません。
チャン:中国市場は大きいのですが、だんだん表現の幅が狭まっているような気がします。中国には検閲があり、厳しいのです。本作は検閲にひっかかるような内容はないので問題ないんですが。例えば学生や学校生活が出てくる映画ですと、映画の宣伝局以外にも教育局(日本の文部科学省に該当)が検閲に入ってきますし、警察がテーマだと公安局が入ってきます。上映環境を見るとほぼシネコンしかなく、アート系の映画館、多様な映画館がない。小さな映画でもシネコンでしか上映されず、初日の興行収入が悪いと次の日に上映が終了してしまう。とても残酷な面があります。あと本作のユー・フェイ監督のように、初めて監督する際は大規模な商業映画を撮ることはとても少ないです。だいたい低予算、しかも商業映画以外から始めます。海外でも中国でも、映画祭で何かしらの賞を取ることが重要になってきています。賞を取り、結果を残せば自分の良い宣伝につながります。そこからはい上がっていく仕組みになっています。
(text:相良智弘)
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