1995年3月10日生まれ、神奈川県出身。映画『人狼ゲーム ビーストサイド』(14年)で女優デビュー。その後、17年放送の連続テレビ小説『ひよっこ』で、主人公の親友・助川時子を演じ注目される。『"隠れビッチ"やってました。』(19年)で映画初主演を飾り、同作で第32回東京国際映画祭・東京ジェムストーン賞を受賞。ドラマ『彼女はキレイだった』(21年)にも出演し、若手実力派女優として注目されている。
男受けする清楚なワンピースを着て相手の気を引き、告白されたら用済みとばかりにフェイドアウトする主人公・ひろみ。そんなひろみに対し、シェアハウスの同居人であるコジ(村上虹郎)はあきれ、彩(大後寿々花)は「最低の“隠れビッチ”」と言い放つ。そんなある日、ひろみは翻弄したはずの相手を本気で好きになってしまったことに気付くのだが……。
イラストレーターで漫画家のあらいぴろよの実体験に基づいた同名のコミックエッセイを映画化。自分に自信がないゆえに男にモテることで心の隙間を埋めていく主人公を演じるのは、モデルを経て女優としてステップアップしている佐久間由衣。同居人のバイの男友だち・コジ役には、映画や舞台で活躍する村上虹郎。フレッシュな2人に、撮影を振り返ってもらった。
佐久間:彼女の生い立ちも関係していますが、とにかく承認欲求が強い女の子なんだな、と思いました。それで異性に走り、相手に告白されることで優越感を抱いて、周囲を振り回している。でも、どこかまっすぐで嫌いにはなれない子だな、と思いました。
村上:コジ役は、見たままなんですけど(笑)。(ひろみと彩の)守護天使的な存在でもあるし、お母さん的な存在でもあります。なかなか大変な女子2人を見守りながら同居しているので、彼はまともなんです。でも、彼は最初からまともだったわけではなくて、きっと早い段階で傷ついたりしていろいろな経験をして今にいたったのだと思います。
佐久間:私はコジのことを完全にお母さんのように思っていました(笑)。だからこそ3人の同居が成り立っているんじゃないかな。でも、彼が本気を出したときは、女の子たちは何も言えないんですよね。ときには男性であり、ふだんは甘えられるお母さんのような存在でした。
村上:それでいったら、コジにとってひろみは娘みたいな存在なんですけど(笑)。設定としては、コジはおばあちゃんから受けついだ家を持っていて、部屋が空いているからシェアハウスにしているのですが、誰が入居してもいいというわけではなくて、やはり2人のことを人間的にいい子だな、と思っているから住まわせているんじゃないかな。朝食を一緒に食べて、それぞれの生活をして、ときにはケンカもして。僕のまわりにはない面白い関係性ですよ。
佐久間:台本を読んでいたときは、はたして応援してもらえるようなキャラクターになるのかなあという不安と、そうしないといけないという気持ちがありました。でも、現場に入ってからはあまり考えませんでしたね。ただ、細かい部分ではこだわりました。例えば、ひろみが家にいるときの服装なんかも、ドラマや映画の世界ではモコモコの可愛い部屋着を着ていたり、ちょんまげみたいなヘアスタイルにしていたりするじゃないですか。でも、女の子たちに共感してもらうためには、そういう可愛さはいらないということになって。なので、振り切って演じるようにしました。でも、監督には、「まだ振り切れていない」と何度も言われまして、現場ではとにかくがむしゃらでした。小器用に演じるのではなく、一生懸命に演じることで、そんな私の痛々しさがひろみの痛々しさになり、ダイレクトに届くのかな、と撮影が終わってから思いました。
村上:原作では年上の設定だったのですが、映画では違うので、(原作とは)表現の仕方が違ってきました。コジはなぜバイセクシャルの設定なんだろうと思ったのですが、バイなら男性に恋することもあれば女性に恋することもあるので、どちらの立場からも(ひろみたちの恋愛を)見れるからなんだろうと。ただ、僕の中ではコジのアイデンティティはほぼゲイだったので、そういったことを監督さんと話し合いながらキャラクターを作り上げていきました。撮影前、ゲイの友人2人とドン・キホーテに行って、彼らに選んでもらって色とりどりのパンツを買ったんです(笑)。下着が見えるシーンはありませんが、そのパンツを履いて撮影に行くことでゲイの気持ちになれるというか、僕にとっては大事なことでした。この作品とは関係ないのですが、数年前、ゲイの友だちと一緒にプールに行って着替えていたら、パンツの柄が派手で、思わず「すごいね、それ」って言ったことを思い出したんです。
村上:はい。僕はふだん黒しか履かないですけどね!(笑)
村上:共通点に関しては、お互いに言った方がいいかもしれないですよね。自分で言うのもなんか嫌だよね(笑)。
佐久間:なにかありますか?
村上:ひろみと本人との共通点は、自分が成し遂げたいこととか、いい意味での欲望があることかな。ひろみにとってそれは「モテたい」「好きと言わせたい」「幸せになりたい」ということですけど、それに向かってひたむきに努力している姿は本人と同じじゃないかな、と思いました。
佐久間:ありがとうございます。そうですね、ご本人が自由奔放で“感覚モンスター”みたいで(笑)、どこか包容力がある人なんですが、コジもそういうキャラクターですよね。虹郎くん自身、人に対して放っておけないところ、あるでしょう?
村上:そうかもしれないです。
佐久間:そういうところが似てるかな。なので、コジにひろみが説教されるシーンなんかも私の中では説得力があったんですけど。
村上:あはは(笑)。僕は説教好きではないですよ。そこは否定しておかないと。
村上:役へのアプローチの仕方は毎回違いますね。作品や役にもよりますし、テレビドラマと映画でも準備期間の長さが違うので、やはり違ってきますね。今回の場合は、この作品の前の作品で金髪にしていたのですが、コジの役で金髪はないなと思い、監督と相談して赤っぽく染めました。
佐久間:うーん。私はどうだろう。ちょっと答えが違うと思いますが、演技でいえば、「そのままでいてください」といわれると困りますね。
村上:なるほどね。あるの?
佐久間:ありますよ。いい意味で言ってくださっていると思うので嬉しいのですが、でも、困ってしまうんです。演じるうえで意識しないことなんてひとつもないから。
村上:たしかに。僕もそう言われたことあります。「もっとふだんの虹郎っぽく!」って(笑)
佐久間:あはは(笑)。
村上:役に対して何かインスピレーションを得ようとするときにはどうしてる? 映画を見るとか、本を読むとか、人に会ったりとか?
佐久間:私は本が多いですね。“あの小説に出てくるあの子みたいな感じ”とか。映画だと役者さんがお芝居しているので、やっぱり自分とは違うし、その役者さんと自分を比べたりしてしまうので。あとは、“周りにこういう子いる”って思ったら、こっそり会ったり。
村上:言わないんだ?
佐久間:言わない(笑)。
村上:今回の役はさすがに言えないよね(笑)。
村上:銀座で一度、お茶をしました。僕と大後さん(彩を演じる大後寿々花)はクランクイン前で、座長(佐久間)はクランクインしていたときだよね。
佐久間:それが一番大きかったかなあ。のんびり、まったり過ごして。そのままの感じで現場に行って。
佐久間:詳しく書けないと思いますが、最後の方のシーンで、コジの家に虹郎くんも大後さんもいて、そこに私が入ってくるシーンです。あったかすぎて、ヒリヒリしたのを覚えています。
村上:あんなに表と裏の顔が違う人(ひろみ)が、表の顔で接している人と素で接している人と一緒に会うって、緊張するよね。“隠れビッチ”じゃなくても、きっと誰もがそういうシーンってあるじゃない? 例えば、親と交際相手が会っちゃうとか。
村上:あのシーンは台本もなくて、監督が「適当に話してくれ」って。それで、カキザキさんという架空のご近所さんを僕が作り出して世間話をしていました。話すことがないときはご近所さんネタに頼る感じで(笑)。
村上:僕もそのシーンが浮かびますね。あとは、コジの家が古民家なので寒かったことを覚えています。前のシーンの撮影が終わって、次の撮影に入る前に衣裳替えをするんですけど、あったかい部屋は1つしかなくて、「女性の方々がいるので出てください」って言われて、別に悪いことするわけじゃないけど、「すみません」って部屋を出ていくんです。でも、だんだんとみんなが僕が寒がっていることに気付いてくれて、「もう出なくても大丈夫。こっち向かなければいいよ」って(笑)。僕の扱いも役と同じ感じになってきて、本当に一緒に住んでいる気持ちになれました。
佐久間:なんだろう。素直でいることかな。それくらいですね。何が起きても。傷つくこともいっぱいありますけど、嘘つかない、“これ違うな”と思ったらごまかさずに伝えようとか、嬉しいことがあればちゃんと受け止めようとか。あと、最近ふと気付いたことは、共演したいと思っていた人と共演できるようになってきました。
村上:自分に素直であることも大事ですよね。あと、僕らは、基本的に(お仕事を)依頼してもらう側なので、さっき佐久間さんが言ってたように会いたい人に会えるとか、やりたいとことができるとかっていうのは、常に受動的な立場であるからこそ、ある程度は自分の中に(願望を)持っている方が、(出会いがあったときに)お互いに響きあうんじゃないかな、と思います。でも、あまりに決めすぎてしまうのも、もったいないですよね。せっかくこんなに幅のある仕事なので、決めつけすぎず、可能性を広げていきたいと思います。
(text:中山恵子/photo:今井裕治)
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