1980年7月18日生まれ。高知県出身。1994年にCMコンテストでグランプリを獲得し、同CMの出演でデビューを果たす。その後は、数々のドラマや映画に出演し、第一線で活躍。主な出演作は、ドラマ『聖女』(14年)、『ナオミとカナコ』(16年)、映画『おくりびと』(08年)、『鍵泥棒のメソッド』 (12年) など。『秘密』(99年)でシッチェス・カタルーニャ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞したのをはじめ、これまでにいくつもの賞に輝く。公開待機作は、『嘘八百 京町ロワイヤル』(20年)、『ステップ』(20年)など。
デビューから40年以上経ったいまなお、絶大な人気を誇るアーティストの長渕剛。まもなく公開の映画『太陽の家』では、20年振りにスクリーンに復活したことでも話題となっている。強面でありながら実直で人情に厚い大工の棟梁・川崎信吾を熱演しているが、そんな信吾が密かに想いを寄せるのがシングルマザーの池田芽衣。今回は、数々の作品で存在感を放ち続けている女優の広末涼子が演じている。
本作では、子育てと仕事に奮闘しながらある秘密を抱える女性を見事に演じ切っているが、子どもだちに伝えたい思い、そして“俳優・長渕剛”との共演について語ってもらった。
広末:実は、お話をいただいたときから撮影までの間に、脚本が大きく変わった部分がありました。当初から家族や人間愛、絆という部分については描かれていましたが、長渕さんや共演者の瑛太さんからもいろんなアドバイスがあったそうで、私が演じた芽衣はもちろん、各キャラクターの人物像をより掘り下げ、それぞれの背景を再構築してくださったんです。
そんなふうにみなさんの情熱や愛情がしっかりとこもった作品になったことはよかったなと思います。あとは、長渕さんとお芝居をするのは初めてだったので、想像ができなくてワクワクするのと同時に、緊張しながら撮影に挑ませていただきました。
広末:本当に棟梁そのものなんですけど、ときどき長渕さん自身が垣間見える瞬間がありました。そういうふうに生き様のようなものが役に反映されるのはすごく素敵なことですよね。ただ、たまに普通の人からは出てこないようなワードが出てくるのがおもしろくて、ププッと笑ってしまうことも。それが新鮮で、毎日長渕さんの名言をノートにメモしたくなるほどでした(笑)。
広末:いっぱいあるんですけど、本読みのときにお芝居が熱くなってきて、「家族だろ」っていうセリフが「ファミリーだろ」となったり、「この音がさ」というところも「このサウンドがさ」となったりしていて。「この言い方は絶対長渕さんでしょ!」と思ました(笑)。本番では修正されているんですけど、気持ちが入るとご自身が出てきちゃうんでしょうね。
そのほかにも、芽衣の息子をおんぶしながら外で待ってくれているシーンでは、ちょうど現場がとても寒かったこともあり、長渕さんが「あー、さみいなあ。さみいさみい」とおっしゃったんです。そのときに監督が「春の設定なので、寒いという言葉はちょっと……」と伝えたら、「ライブだろ?」と返されたんですが、いやいや、これは映画ですから、と思いました(笑)。でも「感じたまんまだろ」というスタイルがカッコいいなと。そんなふうに、まっすぐな生き方が素敵だったので、長渕さんの名言は私のなかにたくさん残っています!
広末:本当にご自身の“ワールド”があるんだなと感じました。そのほかにも、初めて棟梁が芽衣に挨拶するシーンでは、ちょっとウキウキしながら「棟梁です!」と言うんですが、そのときに腰をフリフリする動きがすごくかわいかったです(笑)。
先日、ライブを拝見させていただいたのですが、すごくアクティブに歌って踊ってらっしゃって。中から湧き上がるものがある方なので、お芝居するときも何かせずにはいられないんだろうなとは思いました(笑)。
広末:なかなか面倒を見切れないタイプの男性なので、奥様は大変そうですね(笑)。今回は飯島(直子)さんが奥様を演じられていますが、まさに「船と港」のような感じ。全部を受け止めてあげられる奥様の強さと懐の大きさは、すごく素敵ですよね。そんなお二人の姿から、血の繋がりやいろんな壁を超えて、人を愛していくということの切なさと強さを感じさせてもらいました。
広末:そうですね……(笑)。でも、奥様はあのまっすぐさが大好きなんだろうし、愛情深さを知っているからこそ受け止められるものなので、すごいと思います。古風で職人気質みたいな役は、最近はあまり見られなくなったタイプのキャラクターでもあると思うので、ぜひ幅広い世代の人たちに見て欲しいです。
広末:子どもと距離を置かないといけない母親のつらさ、寂しさ、不安、もどかしさ、というのは、私も経験したことはありませんでしたが、どれだけ引き裂かれる思いなのかと考えると、演じていてもつらい部分がありました。クライマックスのシーンでは、映っていないところでも実は泣きっぱなしでした。自分のセリフがどうとかよりも、息子の龍生を見ているだけで、胸がいっぱいになってしまったんです。
しかも、龍生を演じた潤浩くんも、カメラが回る前からとてもいいお芝居をしてくれていたので、ずっと涙が止まりませんでした。そういう意味でも、自立しようとする女性や子どもを育てている母親の気持ちというのを改めて強く感じたので、たくさんの人に共感していただけると思っています。
広末:正義感や、正しいことといけないことの判断を教えることは大事だと思っていますが、なかでも一番大切だなと感じているのは愛情表現。私がどれくらい子どもたちのことを好きかという気持ちは、毎日どんなときでも表すように心がけています。これは私自身の経験から言えることでもありますが、人は愛されているという自信があると、壁にぶち当たったときに折れてしまわない強さや、逃げずに向き合える人間性を持つことができると思うからです。
子どもにとっては、家族や大人に対しての信頼感と安心感といったものが大事だと思うので、それは意識するようにしています。特に、今回の芽衣のように、働く女性だと常に一緒にはいられないので、余計にそういう部分を大切にしたいなと思いました。
広末:お見送りは必ず玄関まで行って、いってらっしゃいのチューとハグを子どもたちにするようにしています。これは私の両親がしていたので、当たり前だと思って同じようにしてきたことです。
でも、男の子は大きくなると、だんだんチューもハグも嫌がるんですよね……(笑)。ただ、そうやって接することで、息子がいつか自分の奥さんに対してもきちんと愛情表現をできるようになればいいかなとは思っています。古風な日本男児も好きですけど、やっぱり愛情表現をすることは大事なことなので。
広末:お仕事だけではなく、家族のことも含めて、いろいろな意味で変化の年でした。それによって長いスパンで人生を見られるようにもなったので、そういうきっかけが30代最後の年に訪れたのはよかったですね。今まで目の前のことを精いっぱいに突っ走ってきましたが、そこから少し客観的に人生や家族を見ることができるようになった年だったかなと感じています。
広末:これまでは人それぞれだと思っていたので、全然数字を気にしていませんでしたが、確かに40というのは結構ずっしり来るなと感じてます(笑)。ただ、20歳になるときも「もう大人なんだからちゃんとしなきゃ!」とすごく気負う部分がありましたが、意外と周りはそんなこと気にしてなかったんですよね。
でも、そうやって考えたり、目標を設定したりすることは結局自分に返ってくることなので、いい節目の年だと思って、さらにステップアップできるようにしたいです。今年公開されるほかの作品では役の“色”が全然違いますが、そんなふうに40代になってもきっと新しい役との出会いがあるはずなので、それに対してしっかりと挑めるようにこれからの自分を作っていきたいと思います。
(text:志村昌美/photo:小川拓洋)
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