1994年4月24日生まれ。アメリカ出身。ドラマ『コウノドリ』(17年)で俳優デビュー。以後、ドラマ『偽装不倫』(19年)、連続テレビ小説『エール』(20年)などに出演。初主演映画『his』(20年)にて数々の新人賞を受賞、また、映画『騙し絵の牙』(21年)では、第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。現在、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演中。映画『エゴイスト』が2023年2月に公開予定。
2019年に『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』を発表した今泉力哉監督の最新作『his』。かつて恋人同士だった男性2人が8年ぶりに再会するところから物語はスタートする。2019年春に放送された前日譚のドラマ『his〜恋するつもりなんてなかった〜』の主人公、迅と渚は大人になり、社会との関わりや様々な葛藤と直面する。自らのセクシャリティを隠して田舎で一人暮らしをしている迅を演じた宮沢氷魚、離婚調停中の妻との間にもうけたひとり娘を連れて突然、迅の前に現れた渚を藤原季節が演じる。
迅と渚の恋愛を軸に、親権をめぐる法廷劇、シングルマザーの過酷な現状、様々な価値観を受け入れる包摂性など、豊かなテーマと真摯に向き合った作品について、主演2人に話を聞いた。
藤原:LGBTQなどを題材にした作品が今、世の中に多くなってきてる。(宮沢に)確かに多かったよね。
宮沢:増えてきたと思う。でも、何て言うんだろう、きれいなところだけをピックアップして作品を作ってるものも多い。
藤原:美化したりね。
宮沢:それでいいとは思うし、ある種のエンターテインメントとしては成立してると思うけど、やっぱりそこにリアルさを追求したら、また違った作品になると思う。『his』はそういう意味でも、同性愛者が感じるつらさというか、壁をリアルに表現してるな、とすごく感じました。
藤原:僕も同じです。同性愛者の人たちが直面する壁や障害みたいなものは排除して、美しい世界というか、夢のような世界を作品にしてるものが多いんですけど、『his』は同性愛者だからこそ直面する壁みたいなものを正面から描いた作品だなと思う。確かに「なんだ、またか」という見方をされてる方は多いです。今回、予告編もネットで結構再生されてて、1週間で20万回超えてて。
宮沢:すごいよね。
藤原:そこに付けられたコメントを読んでいると、いろんな言葉もいただいていて。それも読んだうえで、その人たちにどう作品を見てもらえるかということも、僕らの役割だという気持ちでいます。
宮沢:映画がクランクアップしてからが僕たちにとって、この仕事におけるパート2の部というか。より多くの人に見てもらいたいです。
藤原:そう。その気持ちがこの作品は特に強くて。今までは、作品を撮って完成すると役者としての仕事が終わった感覚がありました。僕はこの作品を生き切ったから、と胸を張るような。言ってしまえば、見てもらえなくても作品は残るし、僕はやったぞという気持ちでいることあったんですけど、この作品は本当に多くの人に見てほしい。渚とか迅とか、登場人物が愛されてほしいという気持ちがものすごく強いです。
藤原:そういうことも含めると、(役柄として)やっぱり僕はパパであるっていうことが。
宮沢:そうだね、一番大きいと思う。
藤原:でも僕は、実際パパではないんで(笑)。ただ、どうすればパパに見えるかとは考えていないですね。パパという概念に縛られずに、空ちゃんを演じた外村紗玖良ちゃんとどう向き合っていくかだと思って。初めて紗玖良ちゃんに会ったときに、ちょっと人見知りだな、という感じを受けたんです。僕、子どもから結構好かれやすいんですけど、撮影の初日に一緒に散歩していた時に手をつないでこなかったんですよ。
宮沢:そうだったね。
藤原:ちゃんと距離感を取る子なんだと思って。無理にパパ然として近づこうとするのはやめて、なるべくナチュラルに同じ時間を過ごすようにして。ま、1週間もたったら3人で昼寝してましたけど。こたつでね。
宮沢:したね。ほんと家族みたいな。
藤原:家族みたいに。お弁当を食べた後、いつもこたつに入って寝て。
宮沢:ほぼそうでした。最初は嫌でしたね。お芝居をしていて朝から晩まで一緒にいるわけじゃないですか。1人の時間が普段は必要になるんですけども、この作品においては一緒にいるほうが落ち着くというか。やっぱり分からないことが多かったんです。役のこと、この世界のこととか、正解がない作品に立ち向かっていて、分からないことだらけで。自分1人でホテルとかに泊まっていたら、すごい息詰まっていたと思います。そこに季節君がいてくれたので、息抜きというか。
藤原:ずっと一緒にいると、離れてる時間に相手を感じるというか。それぞれ1人のシーンの撮影もあるんですけど、離れてる時間により相手を近くに感じるみたいなことがあったんですよね。それ良かったよね。
宮沢:ね。一緒に過ごして良かったなって。でも過ごしてなかったら、また違った関係性になっていたかなとも思います。
藤原:本当に言葉にするのが難しいんですけど、誤解を恐れずに言うと、一目惚れってこういう感じに近いのかな、という感じがちょっとありましたね(笑)。初めて会って挨拶して握手した瞬間に、包まれるような感じがあった。初めての体験でした。あの瞬間を今でも鮮明に覚えているということは、やっぱり僕にとって印象的な瞬間だったんだなって思いますね。
宮沢:お会いするまでは、過去の作品とか写真とか見てて、ちょっと怖い人なのかなと思ってたんですけど、会ってみたらすごい優しくて、真面目で正直な方だなって。この人ならこの作品を一緒にできるかもって、本当に会った日に思ったんですよね。性格もタイプも好きなものも違うけど、根本のどこかでつながって同じものを共有してるんだと思ったんです、初めて会った時に。それがなかったら、たぶんこの作品はできていなかったですね。
宮沢:僕は、結構最初悩んでいて。どうしても、男である渚のことを心の底から好きになることができるんだろうかという疑問があって。何回も気持ちを作ろうと思って、もちろん好きにはなるんですけども、「この人を愛せるか」と聞かれても分からなかった。そこで1回悩みに悩みまくって、どうしようと思って。で、1回、考え方を変えてみようと思って。渚という人間を愛してみようと思ったんですよ。そうしたら、結構すんなり好きになれた。人を好きになるって、男女とか関係なく、その人間が好きだからというのが根本にあります。結局はそのベースに戻っただけなんですが、考え方のちょっとした変化で僕はすごく好きになれたし、今でもその気持ちは変わらないです。
藤原:好きっていう感情だけを抽出したら、確かに相手が女性であろうが男性であろうが変わりはないのかもしれないですけど、僕らは撮影中しっかりと自覚しましたね。自分たちが同性愛者の映画を撮っているんだということを。撮影しながら自覚していって、覚悟を決めたっていう部分がしっかりありました。 LGBTQを描く前に、恋愛を描いた映画です、と言うこともできますが、同性愛者だからこそ直面する壁とか、同性愛者だからこそ抱える「好き」というものを描いています。あれは撮影しながら生まれていった覚悟で、その覚悟が生まれてから、さらに深いところに入り込んでいったというか。2人が「一緒にいるだけで自分たちは許されない存在なんじゃないか」とまで思っていたんです。そこで一緒に戦った感覚がありました。
宮沢:「こんなに逆に悩んでくれるんだ」と僕は思いましたね。「これをやりたい」という監督は多いですが、今泉さんは自分たちと一緒に考えて、自分たち以上に悩んでくれる。それだけこの作品と立ち向かっている姿を見てると、自分がすごい頑張らなきゃ、という気持ちになるんですよね。応えたいというか。(藤原に)なかなかそういうのってないよね、監督でそこまで悩む人って。だから本当に一緒に作品を作ってる実感はものすごくありましたね。向こうからもいろいろ聞いてきてくれるし、僕からも聞いたりして。みんなでいいものを作ろうとしていて、やりがいを感じたし、なかなかそういう現場は多くはないので。楽しかったです。
藤原:僕らも、せっかく映画にするなら言葉にできない思いを映像にしたいなと思っていました。だから今泉さんと一緒に、その言葉にできない思いをめぐって迷って。僕らの演技もずっと迷ってばっかりなんですよ。やり終わった後に達成感なんて一つもなかったし、迷って、迷って、OKというカットが出た後も悩んで。「あれはほんとに正しかったのか」とか「あの時流した涙は正しかったのか」「泣いてよかったのか、駄目だったのか」、ずっと悩んで。でも、その悩みがまるごと2時間になった。そこに答えはないかもしれないですけど、何かしらのそれぞれにとっての真実が映っていればいいなと思っています。
宮沢:いや、あの子は天才です。
藤原:うん、紗玖良ちゃんがすごいんだよね。本当にプロですね。稽古も一番してたし。
藤原:そうです。でも、どこかで演じてない部分が漏れるんですよ。その漏れた瞬間を今泉さんがすくい上げてるんで。すごいよね。
宮沢:すごいね。
藤原:いや、漏れてるよね。ある瞬間に、僕らみんな、それぞれの役柄とか関係性を乗り越えて走りだしたんですよね、空ちゃんに向かって。あれは何か、それぞれが積み上げてきたものが一瞬であふれ出した瞬間っていうか。
宮沢:hisは「彼の」という意味じゃないですか。自分よりも相手を優先する。迅の場合は渚が、渚の場合は迅がって、自分よりも大切に思える人がいるんだよな、というのをこのタイトルからなんとなく感じる、僕は。
藤原:そう、相手を感じさせるっていうか。空がいるじゃないですか。空の、子どもの目から見たら、大人って男性も女性も関係なくて、子どもの目には真実が常に映ってるのかなと思って。パパに「この人誰」って言ったら、彼は「迅だよ」、His name is Shun.「His name……」と言う。
藤原:子どもはね。ほんとに真実しか見てないですからね。
宮沢:この映画が公開されて、それで現状を変えるとか大勢の人を救うかと言われたら、正直分からないですが、LGBTQであったり、家族のこととか、愛のこととかを考えるきっかけになってくれれば僕たちは報われる。映画を見た帰りにちょっと携帯で調べてみるとか、周りにそういう友だちがいたら目を向けてみるとか。ほんのちょっとの変化でいいので、ちょっと考えてもらえれば僕たちはうれしいですね。
藤原:僕もそういうきっかけになればいいなと思います。日本がこの先ものすごい勢いで変わっていくと思うんで、価値観も含めて、その入り口に立っていればいいな。10年後に、この映画を見返してみたいですよね。「10年前には、こんなふうに闘ってた人たちもいたんだ」って。あと、この映画ごと愛されたい。
藤原:そうですね。この映画が受け入れられないということは、迅とか渚も受け入れられないってことじゃないですか。でもこの映画が受け入れられたら、迅とか渚とか、美里ちゃんとか、空ちゃんとかが受け入れられたということです。僕はどうしても受け入れてほしい、というか、愛されたいですね、この映画ごと。で、ついでに宮沢氷魚と藤原季節も愛されたい(笑)。
宮沢:そうですね、ついでに。ほんと、一番最後の最後でいいです(笑)。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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