1990年10月15日生まれ、アメリカ・テキサス州ダラス出身。2003年にモデルとしてデビューしたのち、数々のファッション誌で専属モデルとして活躍する。その後、第67回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門にノミネートされたトラン・アン・ユン監督の『ノルウェイの森』(10年)に抜擢され、女優としての活動を開始。主な映画出演作は、『進撃の巨人』(15年)や『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(17年)など。有名ブランドのアンバサダーを務めるほか、デザイナーとしても才能を発揮しており、グローバルな活躍で注目を集めている。
動画配信サービスの普及により、それぞれが制作するオリジナル番組の幅も広がってきたが、そんななか1月24日からHuluでスタートしたのは『ブラを捨て旅に出よう〜水原希子の世界一周ひとり旅〜』。本作は、主演を務める水原希子が世界一周する様子に密着した新しいタイプのドラマだ。
今年で30歳を迎える水原が20代最後の大勝負として挑んでおり、中国やベトナム、インドなどの国々をバックパッカーで回りながら、各地でさまざまな出会いを繰り広げている。そこで、無事に旅を終えた水原に、撮影中のハプニングからいまの心境までを語ってもらった。
水原:まったく初めての感覚でしたね。事前に打ち合わせをしていたときは実感がなかったので、「おもしろくなりそうですね!」みたいな感じで進んでいたんですけど、いざ出発となったら前日にすごく焦ってきちゃって……。プロデューサーにも「画が見えてますか?」と聞いちゃったくらいでした(笑)。でも、やったことがないからこそおもしろいと思えましたし、チャレンジングな作品だったので、本当に勢いだけで行くことができたと思います。
水原:普段、映画やドラマの撮影に行くときはセリフをしっかりと入れていく方なんですが、今回共演するのは現地に住んでいる方々ばかりということもあり、台本通りには行かないだろうなと思ったので、流れをなんとなく把握するくらいで行きました。やってみないとわからない感じは、まさにドラマ半分、ドキュメンタリー半分ですよね。
実際、筋書き通りには全然行かなかったんですけど、奇跡的に予定通りになったりすることもあったので、役者さんとするのとは一味違うおもしろい化学反応が生まれました。
水原:出演してくださる方にシーンの意図を理解してもらうために事前に説明をするんですけど、現地に着いてから気が付いたのは、うちのスタッフが誰も英語を喋れないということ(笑)。その結果、英語が話せる私が間に入ることになったので、ただ旅をしているという以上に、一緒に作っている感じでしたね。しかも、お互いにつたない英語同士なので、ほぼボディランゲージとパッションだけで伝えていましたが、そういったプロセスも含めてすごくいい体験になりました。
水原:たとえば、中国編はちょっとコメディっぽいのに、そのあとのベトナム編では感動する話になったりするので、それぞれの国によって全然違いますが、とにかく人との出会いはすごかったですね。あと、今回の撮影ではスタッフが少人数だったので、役割に関係なく、全員がその場でできることをやらなければいけない状況。おかげでチームワークと絆も深まりましたし、手作り感のある作品になったと思います。それにしても、自分がすべての工程に関わっていくとは考えてもいませんでしたね。
水原:いい意味でも悪い意味でもたくさんありますよ(笑)。とはいえ、ほとんどが素晴らしかったことですが、たとえば1話目に登場する中国のタクシーの運転手さんは本物の運転手で一般の方ですが、設定をすごく早く理解してくれたので、セリフではないようなナチュラルさでコミュニケーションを取ることができました。
インドでも私が汚物を踏んでしまい、それを見ていた売店のおばちゃんが笑うというシーンがありましたが、その人に出演を頼んだのはなんと撮影の10分前。結構セリフがあったにもかかわらず、最初から見事な演技をしてくれました。おかげで私も自然な演技を引き出してもらったと思います。そういった予想もしないような素晴らしい出来事は、旅のなかでたくさん起きました。
水原:実は、あるシーンで役者さんを起用したところがあるのですが、それまで素人の方があまりにも素晴らしかったので、役者さんだからということでさらに期待していたんです。そしたらその人が、いくら言っても聞く耳は持たないし、お願いしたリアクションもしてくれないし、とにかく全然がんばらないんですよ……。
なので、スタッフもみんなすごく苦戦してしまったんですが、最終的には私と言い合いみたいになっちゃって(笑)。悪い人ではないので、撮影後は「ありがとうね」と言って終わったんですけど、本気でぶつかり合うこともありました。でも、そもそも私がそういう役回りをすること自体、予想外でしたね。
水原:今回はまず監督の意図を聞いて、それを私が相手に英語で手取り足取り教える感じで進めていましたが、パッションだけでも相手に伝わるんですよね。もちろん言葉も大事ですけど、いざとなったらそれも関係ないんだなということを知り、「人間ってすごいな」と思いました。
あとはインドのバラナシに行ったとき、ガンジス川に入るか入らないかで悩んだのですが、現地の方が日常のなかで普通に沐浴しているのを見ていたら、だんだん気持ちが変化したことも。そんなふうに、事前に考えていたことと、実際に行って体感してみるのとでは、自分の感覚にも違いがあったので、予定になかったことにもたくさん挑戦しました。特にインドではそういったことが多くあり、いまでは大好きな国のひとつです。
水原:民族衣装ってテンションが上がるので、どれも楽しかったですね。チャン族の衣装も、ベトナムのアオザイもよかったですが、着ることができて一番うれしかったという意味では、インドのサリー。長い布1枚でできているので、いざ着てみるとすごく大変。でも、本当に美しくて素敵だったので、サリーのお店に行ったときは、長居しすぎて、スタッフに怒られてしまったほど(笑)。本当に、それぐらいうれしかったです!
水原:旅から帰ってきて、価値観はかなり変わったと思います。これだけの国を回るというだけでもすごい体験でしたが、そのおかげで怖いものがなくなりました。いまでは先が見えていなくても、とりあえず一歩を踏み出してみようと考えるようになりましたが、それを実践することで、どんどん扉が開くようになったんです。そのほかには、言葉よりも他人に対して自分から心を開くことや壁を作らないことの大切さも知りました。たとえ言葉が通じる日本にいても、そのマインドは大事なことだと思っています。
水原:女優のお仕事を始めたり、20代でチャンレンジしたこともたくさんありましたが、多くは周りの人によって切り開かれた道でもありましたし、基本的には自分が好きなことだけをやってきました。
3年前に会社を起業したこともあり、いまでは自分がすべてを把握しているので、ひとつのプロジェクトに対してもより深く関わりたいという気持ちが強くなっています。そのうえで、自分自身の可能性を信じることも必要だと思ったので、YouTubeのチャンネルを開設したりもしましたが、自分のなかで一番変わったのは、オーディションへの苦手意識。それまでは、オーディションを受けて人にジャッジされることがすごく怖くて、緊張からあまりいいパフォーマンスができないこともありました。
ただ、今回の旅で気が付いたのは言語に囚われるのではなく、「自分が現場に持っていけるものは何か」ということと、パッションが大切だということ。今後もインターナショナルに活躍したいと思っている私にとってはすごくいい試練になりましたし、よりたくましくなったと思います。
水原:最初に引き受けようと思ったのは、こういう機会でもないとこれらの国にはなかなか行けないし、人生を変える体験になるだろうと思ったから。実際は考えていた以上にさまざまなことがありましたが、いろんな国に行くと、自分の概念が崩されては再構築されるのを繰り返すので、心と頭が拡張されるような感覚を味わうことができました。今回はアジア編でしたが、「世界一周」と言っているので、今後もこのシリーズは続けていきたいですし、ぜひ世界一周したいです!
水原:今回は、私が体を張っていろんな国を旅しましたが、そのなかでかけがえのない体験をさせていただいたので、みなさんにもその一部を共有することで世界の美しさや人間の素晴らしさを感じていただきたいです。あとは、絶景やその国の文化に触れられるだけでなく、人間同士が歩み寄ることの大切さも知ることできると思います。どこがドキュメントで、どこがドラマかわからないようなおもしろさもあるので、“ドラマチック・ドキュメンタリー”という新しいジャンルを楽しんでもらえたらうれしいです。
(text:志村昌美/photo:小川拓洋)
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