連続ドラマW『パレートの誤算 〜ケースワーカー殺人事件』橋本愛インタビュー

内面に怒りを秘めたクールビューティー語る「8:2の法則」

#橋本愛

作品のテーマに共感「運命的かもしれない」

 

映画『孤狼の血』の原作なども手掛けている作家・柚月裕子の小説「パレートの誤算」が、『連続ドラマW パレートの誤算 〜ケースワーカー殺人事件』として、3月7日よりスタートする。市役所の新人嘱託職員として福祉課に配属された主人公・牧野聡美が、尊敬していたベテランケースワーカーの不審死をきっかけに生活保護の実態とそれを取り巻く社会の暗部に迫る姿が描かれる。

タイトルの元にもなっている「パレートの法則」とは、伊の経済学者パレートが経済統計から見出した法則のこと。「8:2の法則」ともいわれ、「(企業の)売上げの8割は2割の社員に依存する」といった傾向をさす。偶然にも、学生時代に同じ考えにたどり着いていたという主演の橋本愛が、本作に込めた希望や役への共感を語った。

 

──まずは、作品の感想を教えてください。

橋本:お話をいただいて、原作を読んだらとても面白かったです。生活保護に関しては不勉強でしたけど、その実態を知りながらミステリーとして謎を追っていくエンターテインメント性と同時に、日本という国や社会の闇や課題に、自然と向き合っている自分がいました。多面的に色々な角度から楽しめる作品だと思いましたし、企画書で「パレートの法則」を見た時は自分の思考と同じ数字が書かれていて、これは運命的かもしれないと思って飛び込みました。

──印象に残っていることはありますか?

 

橋本:原作と変えている部分も結構あり、今回は監督やプロデューサーの方がそれぞれ持っている哲学が投影されていて、ある種のオリジナル作品のようになっています。原作を忠実に描くこととはまた違った面白さを感じました。

──連続ドラマWは社会問題をテーマにした骨太な作品性も魅力ですが、臨むにあたり準備されたことはありますか?

橋本:実際に市役所やケースワーカーとして働かれている方をスタッフの皆さんが熱心に取材してくださったので、それを聞かせていただいたり内実的なことで出来る限りのことはしました。現場では、色々な局面で監督が「答えは出ないよね」とおっしゃっていたのを覚えています。撮影しながら劇中に描かれている様々な問題について難しさを感じていましたが、このドラマを通じて、決して非現実的ではない希望を提唱できると思ったので、そこに説得力を持たせられるよう丁寧に作ろうと思いました。

──ご自身も以前から「パレートの法則」に近いものを感じていたとおっしゃっていましたが。

 

橋本:高校生の頃、基本的に物事はすべて「2:8」の割合になると思っていました。そもそも日本列島自体が東京とその他で「2:8」くらいになっているとしたら。そう考えるとすごく楽になったんです。色々な場面で「この場合だったら自分はこちら側かな」と思える事が一つの指標になったというか、10代の頃は何が正しいかも分からず信じる・信じないの境目が難しい時期だったので、自分が信じられるものは何だろうと思っていた時に、「2:8」の「2側」の何かに憧れていました。

──学校や社会、さらにモデルや女優業といった色々な環境の中で、自分の居場所を測る精神的な物差しだったのですね。「2側」は橋本さんの目にどういう風に写っていたのでしょうか?

橋本:見方によればマイノリティであり勝者ですが、孤独でもあり弱者でもあります。色々な面があり、「そういう人たちを助けたいし、自分もそういう人の味方になりたい」と思ったのが自分の人格形成の入り口でした。なので今回その数字を見て、そもそも「パレートの法則」として既にこの世に提唱されていたものがあったと知って驚きました。「パレードの法則」は経済的観点なので違いはありますけど、どちら側にあったとしても、希望はあるという思いを自分の生き方としてもドラマを通しても伝えられたらと思います。

──作品の最後に聡美が「パレートの法則って誤解されてるって思ったんです…」と吐露する場面で、「人はずっと幸せでいられないかもしれないけど、不幸のままでもない」と話すシーンにつながる思いだったのですね。「2:8の法則」は今でも胸に?

 

橋本:そうですね。「2:8の法則」は結構安心材料になっています。難しいですけれど、最後に聡美ちゃんが思いを語るシーンに向けて全部演じています。誰にも生きる意義はあるので、そこを見出す人がひとりでも増えてくれればと思いますし、「2:8」という割合は固定されているわけではないので、例えばある観点で「8割」の場所にいる人が苦しんでいて私が「2割」にいるとしたら、「2割」の方に引きずり込みたいという思いがあり、その手助けができる作品になればと思っています。

──劇中でも聡美は福祉課に配属された事で生活保護者たちにとって「2側」となり、次第に仕事の意義に目覚めていく姿が描かれていますね。演じていてそんな聡美と重なる部分はありましたか?

橋本:聡美ちゃんは凄い子ですよね。まだ23歳なのにこんなに切り込んでいく力がある女の子は尊敬するし、自分もこんな風に人と向き合えたらと思わされる事がたくさんありました。人が生きる上で一番の原動力は“怒り”という感情だと思っていて、それを聡美ちゃんはちゃんと持っているし、私自身も”怒り”を持ちながら生きているので、重なる部分はありました。

──お役所的な上司や事なかれ主義な人たちから制止されても、それを振り切って理不尽な現状を解決しようと行動する聡美の姿は勇気づけられますね。

橋本:警察へも立場関係なく切り込んでいくし、凄い行動力ですよね。全5話に収めているのでスピード感がある分、あのスピード感を自分の人生に落とし込むと多分早死にすると思います(笑)。ただ、“怒り”によって変えなければいけないことや、動かさないといけないものに対して諦めたくない気持ちは私も持っているので、そこには共鳴しています。

──橋本さんはクールに見えて熱いタイプなんですね。

橋本:怒ったりはしないですけど、内面に(怒りを)持っているタイプなので、タチが悪いかなとは思います(笑)。

2020年の目標は「見てのお楽しみに」
──橋本さんが抱えている“怒り”というのは例えばどんなものですか?

橋本:大まかにいうと、自分のことしか考えていなかったり、人の痛みに鈍感だったり、一番はそれを放っておいてしまっていることですかね。世界平和なんてやってもムダだからやらない、という諦念を覆したいというか……。理論的に無理とは分かった上でやるかやらないかで、やらない選択肢がないだけです。きついと思うことも結構あるけど、やった方が人生の濃度は高くなると思いますし、そう生きた方が実は面白いというのをこの作品でも示せたらいいなと思っています。

──以前、別のインタビューでオファーが来たものに対して自身が興味を持てるかどうかを大事にしているという趣旨のお話をされていました。最近はドラマ『同期のサクラ』など働く女性役が増えているのは、そういうものに関心が増えているのでしょうか?

橋本:確かに、多いですね。でも、働く女性役が増えているのは単に年齢的なものだと思います(笑)。ただ、最近とてもちゃんと個々の哲学を持っている方からお話をいただくことが多くて、とても嬉しいです。そこがないと破綻してしまい、破綻することに自分の時間を使いたくなかったり折り合いをつけられないのが自分の弱さでもあると思ってるので、自分の時間もパワーも意義があることに使えるのは楽しいしありがたいと思っています。

──スタッフやキャストに恵まれているんですね。

橋本:そうですね。

──最後に、2020年の目標などあれば教えてください。

橋本:たくさんあるので全部は言えないですけど、今までやりたくてもやれなかったことが貯まっているので、少しずつ小出しにやっていこうと思っています。

──具体的には?

橋本:色々あって、口にするとチープになってしまう感じがするので、見てのお楽しみにしてもらえたらと思います(笑)。

(text:ナカムラ ヨシノーブ/photo:小川拓洋)

橋本愛
橋本愛
はしもと・あい

1996年1月12日生まれ。熊本県出身。映画『告白』(10年)、『桐島、部活やめるってよ』(12年)などで注目を集め、13年に第36回日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞。同年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し、お茶の間でも話題に。映画ではほかに、『リトル・フォレスト』(2部作/14年、15年)『PARKS』(17年)、『ここは退屈迎えに来て』(18年)などに出演。大河ドラマでは『西郷どん』(18年)、『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(19年)と2年連続出演を果たしている。現在、『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』が公開中。