『ぐるりのこと。』舞台挨拶

夫婦の絆を描いた珠玉の作品について語る。

#リリー・フランキー#木村多江#橋口亮輔

『ぐるりのこと。』舞台挨拶 橋口亮輔監督、木村多江、リリー・フランキー

お尻の形にだけは自信が!(リリー・フランキー)
  • 世界的に高い評価を受ける橋口亮輔監督が、『ハッシュ』から6年ぶりに完成させた映画『ぐるりのこと。』。バブルを経て、日本人の価値観が大きく変化した1993年から約10年間の日本を舞台に、ある平凡な夫婦の姿を、温かい眼差しで描き出す。主人公・翔子を演じたのは、活躍めざましい木村多江、その夫を、イラストレーター、作家などマルチな才能を持つリリー・フランキーが演じている。 
     
  • ──出演された感想は?
  • 木村多江(以下、木村):素敵な映画に出させていただいたと実感しています。
     
  • リリー・フランキー(以下、リリー):才能ある橋口監督の映画に出られて本当に嬉しい。現場では、ボクはホンヤリしていただけですけど……。劇中、全裸になっているのですが、お尻の形にだけは自信がありますので、そのヘンは自信をもってお届けしようと(笑)。

    ──ボディを磨かれたりも?

  • リリー:気持ちはそうだったのですが、お弁当などが美味しくて太ってしまって……。一番ブヨブヨした状態を見ていただくことになってしまいました(笑)。
     
  • ──監督にとっては初めての“夫婦もの”ですね。
  • 橋口亮輔監督(以下、橋口):前作『ハッシュ!』(02)から6年ぶりの作品で、いろいろな思いの詰まった作品です。前作は“一瞬つながることが大切だよね”という映画だったので、今回はずっとつながった人たちを描こうと思いました。だとしたら恋人じゃないな、と。で、ホモだけじゃないぞというところを見せなければと思い(笑)、夫婦を描くことに。最初はそんな軽い発想でした。

    ──木村さんに質問です。橋口監督やリリーさんとのお仕事はいかがでしたか?

  • 木村:橋口監督の作品がずっと好きだったのですが、自分が出られるなんて夢のまた夢だと思っていたので、お話をいただいたときにはほんとうにびっくりしました。リリーさんは、とにかくお芝居が上手。(私が演じた)翔子が、リリーさんが演じたカナオに引っぱられていくように、私自身もリリーさんに引っぱっていただきました。

    ──監督は厳しい方ですか?

  • リリー:6回くらいぶん殴られたりしました。

    ──え!? 本当に?

  • リリー::(笑)いえ、もう本当に優しい方で。監督の語気が強くなるということはないのですが、スタッフ・キャスト共に、監督の思いに応え、精度の高いものを作るんだという厳しさが、現場には満ちていました。

    ──この映画で、監督はかなり痩せられましたよね?

  • 橋口::(笑)現場で10キロ落ちて、それから体重が戻らないんです。前はマッチョだったのですが(笑)、撮影が大変で。
     
  • リリー::監督と木村さんはどんどん痩せていかれたんですよ。ボクは逆のアプローチとして6キロ太って……。映画の現場って、お弁当やお菓子がおいしいので。多分、“ふんわり名人”で6キロ太ったんだと思います。

    ──なぜ93年からの約10年を舞台に?

  • 橋口::僕も見事に厄年にハマり、鬱になったりなどする中で、自分が生きている日本というものを描いてみたいと思ったんです。じゃあどの時代がいいかと考えた中で、バブルという時代が日本人の価値観を徹底的に変えたのではないかと。そして、2001年の9.11テロが起こるまでの間に日本人のメンタリティがどう変わっていったのかというテーマに、自分のいろいろな思いが投影できるのではないかと思い、この時代を舞台にしたんです。

    ──タイトルにある“ぐるり”とは?

  • 橋口::些細なことも含め、人の世界に起こる様々なこと。結婚や出産や……殺人や。夫婦の“ぐるり”、日本の“ぐるり”──それらすべてをひっくるめて描きたいという思いから、このタイトルをつけました。

    ──最後に、メッセージをいただけますか?

  • リリー::最近は、ちょっとイヤなことがあったらすぐに関係を断ち切ってしまうなど、恋愛も希薄なってきています。でも、面倒なことはリセットして次を探す──ということばかりを繰り返していても、自分の中の不安はなくならないと思うんです。この夫婦みたいに、何があっても一緒に居てくれる人がいるということの方が、人生としてはどれだけ豊かなことだろう、と。単純なことの温かさに気付かせてくれる映画だと思います。
     
  • 木村::見終わった後、自分の“ぐるり”を見回して、「ああ、こういうことも幸せなのかもしれない」と、小さな幸せに気付かせてくれる映画だと思います。
     
  • 橋口::ヘコむと、よく自分の家でこの映画を見直しています(笑)。見直しすぎるとドツボにはまるのですが……。この映画は木村さんとリリーさんの2人に尽きると思います。何気ない日常のワンシーンなどで、演出ではなく、映画の神様が微笑んでくれたんじゃないかという瞬間があるのですが、2人の素晴らしい表情や演技に、皆さんのいろいろな時間が重ね合わせてご覧いただける映画だと思います。皆さんの“大切な何か”にしていただければ、作り手としてこれほど嬉しいことはありません。

    (08/06/06)

リリー・フランキー
リリー・フランキー

Lily Franky
1963年生まれ。福岡県出身。イラストレーターの他、文筆、写真、デザイン、作詞作曲など多彩な分野で活躍。自伝的小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」がベストセラーに。

木村多江
木村多江

Tae Kimura
1971年3月16日生まれ。東京都出身。舞台女優としてデビュー後、『MOROCCO』(97)で映画デビュー。おもな出演作は『花とアリス』(04)『大奥』(06)など。

橋口亮輔
橋口亮輔

Ryosuke Hashiguchi
1962年7月13日生まれ。長崎県出身。初の劇場公開作『二十才の微熱』が大ヒット。『渚のシンドバッド』(95)でロッテルダム国際映画祭グランプリ受賞。『ハッシュ!』(02)が、カンヌ国際映画祭監督週間部門に正式招待されるなど国内外で絶賛され、世界52カ国で上映された。