俳優も監督も、大変だからこそ面白い
- 優しくて理解がありすぎる両親、穏やかで平凡な毎日──不幸がないことが不幸という環境にコンプレックスを抱き、エッチな妄想にもんもんとする男子高校生。『色即ぜねれいしょん』は、多くの人々が共感するであろう、恥ずかしくも懐かしい青春の詰まった、これまでにないタイプの傑作青春映画だ。
監督は、NHKの『プロジェクトX〜挑戦者たち』のナレーションを務めていた個性派俳優・田口トモロヲ。高い評価を得た初監督作『アイデン&ティティ』に続き、みうらじゅんの原作を映画化した田口に、映画について、そして大親友のみうらの魅力について語ってもらった。
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- ──小説『色即ぜねれいしょん』の魅力について教えてください。
- 田口トモロヲ(以下、田口):みうらさんから見た世界が描かれているのですが、自分が興味のあることしか描いていないというのが新しい。不完全な魅力があり、想像力を働かせることのできる、豊かな作品だと思います。
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- ──では、みうらさん自身の魅力は?
- 田口:この年で恥ずかしげもなく「親友」と言い合ってるんですけど、あえて魅力を語るのが恥ずかしいくらい。お互い異性だったら付き合ってるねと、飲み屋で相当ディープなキスをしあう、そんな仲ですね(笑)。お互い忙しいので、そんなに頻繁には会わないのですが、会ったら必ず「朝までコース!」です。
仕事の話はあまりしません。話すことと言えば、人生全般! 大きく出ましたが(笑)、とにかく語ることはすっごくデカくて、大抵、人生について語り合ってる。そんなクレイジーカップルです(笑)。
(『アイデン&ティティ』に続き)「ゴールデンコンビ復活ですね」って言われるので、最近は、「もう兄弟ってことにしたらいいんじゃないか」って言ってます。(アカデミー賞受賞作『ノーカントリー』を監督した)コーエン兄弟とか(『マトリックス』シリーズを監督した)ウォシャウスキー兄弟みたいに(笑)。
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- ──主人公はフリーセックスを本気で夢見て旅に出てしまうなど、おバカな言動も多くて、たくさん失敗します。でも、両親をはじめとした周囲の大人たちは温かく彼を見つめ、決してお説教したりはしない。あれこそ、理想の大人像に思えるのですが。
- 田口:「理想的だからこそ、困ってしまう子ども」ということだと思います。あまりにも両親が優しくて協力的で、不幸がないのが不幸というのが原作のテーマ。ものすごくハングリーで不幸な人にとってみれば、「何も悩むことないやん!」という状況ですが、実は彼らにだって悩みはあるんだ、という(笑)。そういう、ドラマティックな人生とは無縁な人々の方が、世の中には多いということを描いています。
今までの青春映画では、ありそうだけどなかったと思うんですよね。それにしても、あんなに理解があって、決めるところはビシっと決める格好いいお父さんって、そうそういないですよ(笑)。僕の家も中流で、外に訴えるほど不幸がないということがコンプレックスだったので、今回この作品を作ることで、そのコンプレックスが発散できたと思います。
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- ──原作はみうらさんの自伝的小説ですが、田口さんの青春とも重なる部分があるのでしょうか?
- 田口:感情的に重なる部分はあるのですが、僕はまったくああいう経験はないので……。本当に暗い中学・高校時代で、封印したい過去ですね。だから、「うらやましいなぁ」「もし自分があんな環境にいたらこうするかなぁ」と夢想、あるいは妄想しながら(笑)、妄想力で作りました。
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- ──原作を映画化するにあたり、気をつけたことは?
- 田口:原作の持つ空気感やテーマは絶対外せなかった。それから主人公の立ち位置ですね。中流の家庭で内気で文化系、不幸がなかったことが不幸というのも、絶対に外せない。原作の舞台が1974年の京都で、そこには今に通じる普遍性があると思ったので、そこにも気をつけながら作りました。
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- ──俳優でもあり監督でもあるわけですが、どちらが大変ですか? また、両者の違いはどこにあるのでしょう。
- 田口:両方大変です。でも、大変だからこそ面白いんです。違いは、監督は全てに関わるので、体力的にも知力的にも気力的にも大変ですが、全部が見渡せるのが楽しい。
俳優は、自分のパートを深く掘り下げることが仕事なので、全く違いますね。俳優として関わると、完成してみて「あ、こんなことになってるんだ!」と思います。
監督としては、関わった人たちから「いや〜面白かった」と言われるのが最高の幸せ。それを言われたいがために監督をしていると言っても過言ではありません。
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- ──今回も言ってもらえましたか?
- 田口:言われたんですよ!「現場が大変だったので、心配してたんですけど」とも言われて、「オレって心配されてたのか」って(笑)。スタッフの方に「面白かったです! 今日は朝まで飲みます!!」と言われた時は、いやぁ〜嬉しかったです。
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- ──この映画は、どんな人たちに見て欲しいですか?
- 田口:全人類に見てほしいのですが、望みが大きすぎて恥ずかしいので(笑)、とりあえず、できれば本当に幅広い人に見てもらいたい。今、青春ド真ん中の人、かつて青春を謳歌していた大人、コンプレックスがある人……。あらゆる人に見てもらいたいです。それから、体育会系の人にも見てもらいたい。「文化系の『クローズZERO』だから」っていつも言ってるんですよ(笑)。とにかく、できるだけ色々な人に見てもらいたいです。
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(09/8/11)
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たぐち・ともろを
1957年生まれ、東京都出身。大学中退後、マンガ家、ライターなどを経て、劇団「健康」の旗揚げに参加。同時期にパンクバンド「はちかぶり」を結成。塚本晋也監督の『鉄男』(89)に主演し、注目を集める。00年よりNHK『プロジェクトX〜挑戦者たち』のナレーションを担当し、話題となる。03年に『アイデン&ティティ』で監督デビュー。
田口トモロヲ インタビュー動画を見る
『色即ぜねれいしょん』
8月15日よりシネセゾン渋谷ほかにて全国公開
(C) 2009『色即ぜねれいしょんズ』
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