『ドロステのはてで僕ら』朝倉あきインタビュー

ヨーロッパ企画作品への初出演にワクワク!

#朝倉あき

ミリ単位の調節が難しかった

『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』などでも知られる人気劇団ヨーロッパ企画が、劇団全員で初めて取り組んだオリジナル長編映画『ドロステのはてで僕ら』。一時は新型コロナウイルスの影響を受けて公開が延期されるも、下北沢トリウッドと京都シネマを経てTOHOシネマズ池袋及びTOHOシネマズ日比谷で上映中だ。

雑居ビルにあるカフェを舞台に、モニターに映る2分先の未来の自分から突然メッセージを受け取った男の騒動を、長回しで描き切るユニークかつ挑戦的な本作。騒動に巻き込まれた隣人の理容師でヒロイン・メグミを演じた女優の朝倉あきに、ヨーロッパ企画作品に初参加した思いや、手作り感覚満載の撮影エピソードを聞いた。

──「2分差」で過去・現在・未来がつながっていく内容にとても引き込まれました。最初お話が来たときはどんな感想でしたか?

朝倉:ヨーロッパ企画さんとお芝居ができると聞いて嬉しくて、ワクワクしました。しかし、いざ台本を読んでみるとわけが分からないなあと。いい意味でそんなヨーロッパ企画さんらしさが大好きなので、撮影に参加できることを楽しみにしていました。

──クランクインした時の心境は?

朝倉あき

朝倉:楽しみな気持ちでいっぱいだったので、なんとかなるんじゃないかと(笑)。大変だろうというのは台本を読めば一目瞭然なのですが、みなさん実力のある方ですし、その中で今回の役は翻弄される側で仕掛ける側ではないというのもあり、心から楽しんで飛び込めば大丈夫だと思っていました。

──参加してみてヨーロッパ企画らしさを感じた部分はありますか?

朝倉:お会いしてみるまではどういう感じなのか想像できなかったのですが、リハーサルで膨大なセリフや複雑な仕組みを考える過程をわりとみなさん淡々とこなされていて、百戦錬磨な感じがすごかったです。今まで面白いことにたくさん挑戦してこられた自信の表れかなと思っていました。後から聞いたら焦っていた時もあったということでしたが、そういうことを微塵も感じさせないくらい淡々とされていて、そこがかっこよくてヨーロッパ企画さんらしい雰囲気だと思いました。

──モニターに映る2分前・2分後の自分と同じ行動をする事になるシーンはとてもユニークですが、演じる上で意識した事はありますか?

朝倉:主演の土佐(和成)さんは(リブート元となった)『ハウリング』という同じように2分間隔の自分が語りかけてくる作品に出ていらしたので、2分間隔の芝居の差について撮影前に教えてもらいました。最初にこれでいいと思っていた芝居のテンションが、後からやってみるとどんどん低く感じられるそうなんです。なので、あらかじめこのテンションでいくと決めるか、自分が思っているより高めのテンションを心がけた方がいいとのことで、そこはすごく気を付けました。

──モニター越しに2分間隔で出来事が重なっていくのは不思議な感じですよね。

朝倉:特に酒井(善史)さんが、テレビを向き合わせてドロステトンネルを作ったシーンは一番大変だったと思うので、完成したものを見た時はすごいと思いました。

──エンドクレジットで流れるメイキング映像を見てもその熱量は伝わってきました。特に、ワンカット撮影となると緊張感も高まりますね。

朝倉:ヨーロッパ企画さんの方でお芝居ができあがっているので、それを崩さずちゃんとつなげられるよう頑張りたいと思っていました。でも、ミリ単位の調節が現場では難しくて、ワンカット撮りなのでタイミングが来た時には、今までにないくらいの気合をその一瞬に込めたりしていました。

──メイキング映像でちらっと映っていましたが、土佐さんと一緒にモニターを持って階段を移動するシーンでは、朝倉さん自身もカメラに映らない場所でモニターのコードをさばいていたと聞きました。

朝倉:あまりにもカンコンとコードが落ちる音がすごかったので、役としては「そうなんですね、かわかりました」みたいな感じでお芝居に集中しつつも、私もコードさばきに参加する結果になりましたね(笑)。

──演技をしながら裏方的な仕事も同時にされていたんですね。

朝倉:キャストのみなさんも製作にも関わっているみたいな状況の現場でした。完全にキャストとして参加しているのは自分だけみたいな感じがしていて、もっとお手伝いできることがあったらいいのにと、もどかしく思える瞬間はたくさんありました。みなさんに気を使っていただいたと思います。

──そこら辺のチームワークもヨーロッパ企画らしさが伝わってくるエピソードですね。

朝倉:あと、みなさん私服を持っていらしたのも面白かったです。石田(剛太)さんは靴やセーター、シャツなどは自前でめちゃめちゃかっこいいと思いましたし、諏訪(雅)さんのジャージもそうで、役柄に合わせてもとてもお似合いで素敵でした。

──朝倉さん自身も自前の衣装は?

朝倉:一人で理容室を切り盛りしている装いはとても自分では持ちえないので、わたしはすべて衣装に助けてもらいました。土佐さんもトレーナーはご自前とのことでした。雨が降ってドロドロになったことがあって、困ってらしたことがありましたが……。

『ドロステのはてで僕ら』
──メイキング映像では撮影も担当した山口淳太監督が(超小型ジンバルカメラの)Osmo Pocketを使用していることにも驚きました。

朝倉:私はあのカメラで仕事をしたのは初めてで、びっくりしました。ああいうカメラで長時間撮影できるんだと驚きましたし、モニターで見ていても画質が良かったので、色々な可能性が生まれると思いました。

──Osmo Pocketは文字通りポケットサイズのカメラですが、演じる側としてはカメラの存在が小さくなる事で違いは感じましたか?

朝倉:いつもカメラがあるところに人がひとりいるくらいのイメージでお芝居をしているので、特に違和感はなかったです。でも、カメラの存在があまり感じられないぶん、より人間的な視点で撮られているような意識になれて、それはそれで新鮮で面白かったです。

──女優業でモチベーションや原動力としているものは?

朝倉:しゃべるのがすごく苦手なんです。なので、色々な台本や作品を読んでいると新しい考え方を学べますし、それを自分の言葉のように、自分がしゃべりたかったことをしゃべれる瞬間があるので、この仕事で新しい台本や新しい作品、新しい役がもらえるのがいつも楽しいです。

──これから鑑賞されるお客さんにメッセージをお願いします。

朝倉:出来上がった作品がたくさんの方に楽しんでいただいていると聞いて、とても嬉しく思います。ぜひこれからご覧になるみなさまにも、この世界にどっぷりと浸っていただきたいです。どんな風に撮影しているかなども想像していただけましたら、余韻もまた楽しめるのではないかと思います。そのうえで、たくさんのお知り合いに広がりますことを願っております!

(text&photo:ナカムラ ヨシノーブ)
(ヘアメイク:野中真紀子/スタイリング:嶋岡 隆[Office Shimarl])

朝倉あき
朝倉あき
あさくら・あき

1991年9月23日、福岡県生まれ、神奈川県出身。2008年『歓喜の歌』で映画初出演。映画やドラマ、CMと幅広く活躍。主な出演作に、『神様のカルテ』『横道世之介』『七つの会議』『仮面病棟』など。スタジオジブリのアニメ映画『かぐや姫の物語』ではヒロイン・かぐや姫の声を演じたほか、主演作『四月の永い夢』は第39回モスクワ国際映画祭にて邦画史上初のW受賞を果たした。本作でヨーロッパ企画とは初タッグとなる。