1957年オーストリア生まれ。『SCHWARZFAHRER』(1997 年)や、『DREI HERREN』(1998 年)を世に送り 出し、オーストリア映画業界で成功を収めた。その後は、テレビドラマ「タートオルト」(2010 年、2019 年)を はじめ、「DER SCHUB」(2001 年)、「STÄRKER ALS DER TOD」(2004 年)、「DIE ENTSCHEIDUNG」(2006 年)などドラマ作品を数多く手掛けている。
『17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン』ニコラウス・ライトナー監督インタビュー
名優ブルーノ・ガンツ遺作、ナチス下で育む精神科医フロイトと青年の成長描く秀作
激動のウィーンを舞台に、初めてその地に降り立った17歳の青年と精神科医ジークムント・フロイト教授の友情を描いた『17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン』。原作はウィーン出身の作家ローベルト・ゼーターラーの「キオスク」で、2012年の発行以来ドイツで50万部を超える売り上げを記録したベストセラー小説だ。
本作で描かれているのは、ヒトラー率いるナチ・ドイツが勢力を拡大した1930年代。母親と暮らしていた湖のほとりからウィーンに出てきた17歳のフランツは、戦争で片脚をなくした店主オットーが営むタバコ屋に住み込みで働き始める。その店の特別な顧客である精神科医のフロイト教授と懇意になったフランツは、人生を楽しみ、恋をするように助言を受ける。物語の中で唯一の実在の人物フランツ教授を演じるのは、『ベルリン・天使の詩』などで知られる名優ブルーノ・ガンツ。ナチスによる抑圧や自身の病気によってふさぎこんでいた老教授が、若いフランツと過ごすことで明るさを取り戻し、フランツにとっては人生の師となる過程を見事に演じている。ガンツは2019年2月に惜しくも故人となり、本作が遺作となった。
過酷な時代を生きた青年の成長を情緒ある美しい映像で描いたニコラウス・ライトナー監督に、話を聞いた。
監督:小説の論評を読んで、作品への興味を持ちました。原作が発売されるとすぐに買って、電車の中で読んだのです。そして「これは素晴らしい映画の題材になる」と思いました。これは、若者の成長映画です。17歳のフランツ・フーヘルが片田舎から政治的に混沌とする1937年のウィーンにやってきて、急激に大人へと成長していきます。彼は厳しい時代に生きながらも、恋を学び、自分に正直であり続けながら、一人の大人へと成熟する。激動の時代が、彼の行く手を阻み、悲劇を加速させていくのです。
監督:これは初恋の物語でもあります。フランツはボヘミア出身の女性アネシュカに一目ぼれしますが、彼女はフランツより2、3歳年上で、さらに不釣り合いなほどに性的に経験を積んでいます。世情がどん底へ向かう中、恋心は燃え上がりますが、悲しい結末へと向かいます。
監督:若く未熟なフランツと、年老いて人生の終わりに近づくフロイト、二人の男の友情を描いています。このアイディアそして二人の関係性こそが、同時代を描いた他の作品と一線を画すところであり、映画の最も重要な軸なのです。なぜなら、フランツとほかの登場人物(アネシュカ、店主オットー、フランツの母親)との関係性の鍵にもなっているからです。そして原作と同じように、映画の中でも、登場人物たちの思い、願望、弱さ、夢、恐れが感じられるように描きました。さらには年老いたフロイトが認めたように、人間というものは、恋の謎を解くにはいかには小さな存在であるかということが語られています。
監督:原作のトーンを守るように配慮しました。例えば、フランツの夢を映像化したシーンは、映画化するにあたってのアイディアでしたが、原作から逸脱しないようにしました。フランツと母親の手紙のやり取りも映像化にあたって表現されました。正確な人物描写、気取りのない詩情、悲劇性、そしてウィーンの雰囲気など、原作の雰囲気を維持するように配慮しました。フランツが、自らの危険を知りながらナチスの党本部前でかぎ十字の党旗をオットーの片足のズボンに入れ替えたことは、彼の反抗精神の象徴であり、歴史的背景と個人の暮らしの対比こそが本作品の最も重要な鍵であると言えます。
監督:私は、フロイトが発展させて治療に採用した夢分析の専門家ではありませんが、直感的に夢のシーンを作り上げようと試みました。現実ではつながりようもない要素が、夢の中では一緒になって出てくることがあります。現実の要素が、夢の中で新たな一面を見せるようになり、夢を見ている人間の心の中の何かを呼び覚ます。フランツは、フロイトからの助言を受けて、見た夢を書き出すようになるのです。
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