1969年4月25日生まれ、アメリカ・テキサス州出身。大学時代に演劇を始め、舞台やCMなどを経て、リチャード・リンクレイター監督の『バッド・チューニング』(93年)で映画デビュー。1996年に『ザ・エージェント』でトム・クルーズの相手役に抜擢され、大ブレイクを果たす。『母の眠り』(98年)、『ベティ・サイズモア』(00年)、『ふたりの男とひとりの女』(00年)などに出演し、ベストセラーを映画化した『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされる。歌と踊りに挑戦したミュージカル映画化作『シカゴ』(02年)でも同賞候補となり、『コールド マウンテン』(03年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞。ジュディ・ガーランドを演じた『ジュディ 虹の彼方に』でアカデミー賞を始め、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)、英国アカデミー賞など数々の映画賞で主演女優賞に輝いた。
2月に発表にされた第92回アカデミー賞で主演女優賞に輝いたレニー・ゼルウィガー。彼女が『ジュディ 虹の彼方に』で演じたのは、『オズの魔法使』や『スタア誕生』などで知られる伝説のミュージカル女優、ジュディ・ガーランドだ。
1969年に47歳の若さで亡くなったジュディは、若くしてスターになった栄光の裏側で過酷な境遇に身を置き続け、薬物依存や不安神経症などに悩まされた結果、晩年は仕事のオファーも途絶えがちだった。映画は、彼女が亡くなる半年前の1968年冬、公演のためにロンドンに滞在していた日々を描く。
壊れそうな心と身体を奮い立たせてステージに上がり続けるエンターテイナーの矜持とあまりにも繊細な素顔、そのどちらも見事に演じたゼルウィガーにSkype経由で話を聞いた。『コールド マウンテン』での助演女優賞を含め、オスカーを2度受賞した大女優でありながら、親しみやすい笑顔を絶やさず、丁寧に言葉を探して話す様子が印象的だった。
ゼルウィガー:この作品を見て心動かされる方々は、ジュディという人物に対する愛情があり、私の演技に対する温かい反応が生まれているんじゃないかと思っています。
彼女の生涯や粘り強さ、いろいろなものを乗り越えたこと、出演映画や歌など彼女のレガシーを大切に思う気持ち、彼女に対する尊敬などが全てこの作品に向けられたんじゃないでしょうか。
ジュディの晩年は悲劇的だったと思われがちですが、私たちはそれを覆したいという思いで映画を作りました。彼女を祝福する思いで作った作品を見ていただいて、観客の方々にも祝福に参加してもらっているかのようであり、それは今も続いていると感じています。
クリエイティブな面だけではなく、1人の人間として包括性、相手の立場になって考えることをすごく大切にした人です。人に対して親切で、思いやりにあふれた勇気ある1人の人間として、いかにインスピレーションを与えてくれる人なのか。そういうふうに彼女を記憶したいという思いで作った映画で受賞したことは、とてもうれしいです。
ゼルウィガー:パフォーマンスの経験を分析するのはちょっと難しい。頭の中では、歌う演技とそれ以外の演技を違うものとする考え方をしてないんです。演じる役にはあらゆる面があって、それを1つのキャラクターとして演じることにつながるから、キャラクターを作るには全ての要素とが必要になってくると思っています。
今回は確かに以前の作品とはまた違った体験だし、こういう形で演じたのは初めてですが、やり方は一緒なんです。つまり、そのキャラクターを表現するのに必要なものを集める作業の1つとして、歌やパフォーマンスがあっただけ。
でも、私は人前でパフォーマンスすることに全く慣れ親しんでいなかったし、自然なことでもなかった。今までと違うスキルを身につけるのはスリリングでもありました。
人前で歌うのは生まれ持った才能を持ってる人しかできないと思っていたから、それを自分がやるということにすごくわくわくしたし(笑)、経験した今となっては、人前でパフォーマンスすることの魅力も理解しました。
演者と観客の間で起きる魔法があると言われるけど、「こういうものなんだ」と理解することができたのは素晴らしい贈り物をもらった気分です。
ずっと鍛錬やパフォーマンスを重ねてきた人が得る権利だとすれば、私はそういう過程なしで経験できたのは、女優という立場を利用してちょっとズルをしたような感じだけど(笑)。
ゼルウィガー:ハードルが高くなる、というのはその通りで、笑うしかなかった(笑)。監督から、ジュディの曲が次々送られてきました。まずは『虹の彼方に』。しかも初期のものではなくて晩年に歌ったバージョンです。それから『By Myself』、そして『Come Rain or Come Shine』、『Over the Rainbow』……と次々に楽曲が送られてきて、そうするとほんとに笑うしかなくて。「こんなの私には無理」と思ってしまった。でも、そうするうちに撮影のスケジュールがどんどん詰まっていくので、もう考える暇がなくなって、「やるしかない」と覚悟を決めることになる。だから、逆にそれはすごくよかったのかもしれません。
リサーチに関しては、最初は好奇心が勝っていました。ジュディが人生の最後のチャプターでいかに苦労したのかについて、全然知識がなかったので、当初すごく理解に苦しんだんです。2歳の時から演技の場で活躍している彼女が、なぜ晩年あれだけ経済的に困難な状況に置かれて、しかも演者として使いづらい人物だと見なされていたのか? その疑問を手がかりに、理解しようと進めていきました。彼女に対して、強い共感、思いやりという気持ちをとても感じたんです。
ハードスケジュールは私自身も十分経験しているし、それをマネジメントすることの大変さも分かっている。しかも私は人前でパフォーマンスする仕事でもなかったのに苦労していた。だから、観客を前に生で歌うジュディは肉体的にとてもきつかったでしょう。体調や声の調子とか、いろいろな要素が全て積み上がらないと最高のパフォーマンスをすることができないですよね。では、誰が彼女の面倒をみて、支えていたのか? そんなことも考えました。
彼女に対して深い敬意を感じています。あれほど長い間、非常に厳しい状況の中でパフォーマンスし続け、自分を持ち続けることができた人です。そういう点が、ジュディを演じるということのモチベーションになっていきました。彼女のことをより理解したいと思う気持ち、そして彼女の生涯、特に晩年について、悲劇の一言で片付けがちだけれど、そうじゃない、と伝えたかった。こういう文脈があったんだということを描きたいという気持ちが強かったです。
(text:冨永由紀/photo:鈴木香織)
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