1991年6月24日生まれ。愛知県出身。AKB48で活動した後、NGT48に移籍しキャプテンを務めるなど、注目を集める。2018 年に同グループを卒業したあとは女優として舞台やドラマ、映画で幅広い作品に出演し、活躍の場を広げる。主な出演作は、つかこうへいの名作舞台「『新・幕末純情伝』FAKE NEWS」や白石和彌監督作『サニー/32』、テレビ東京「女の戦争~バチェラー殺人事件~」など。
2年間限定の約束で始まった広樹と浅美の交際。広樹には何か秘密がありそうだ。ついに運命の日、入院中の広樹のもとを訪ねた浅美は、彼の決意が変わらないことを知って落ち込む。そこに広樹の妹がやってきて、二人の幸せを願うあまりに大胆な行動に出る。入院患者や“死神”を巻き込んだ大騒動で、広樹の秘密は明らかになるのか?
誰かが誰かのヒーローになる、そんな温かな気持ちを思い起こさせてくれるコメディ『HERO』が舞台から映画になった。もともとは西条みつとし監督が主宰する劇団TAIYO MAGIC FILMの旗揚げ公演作品であり、昨夏には『HERO〜2019夏〜』として再演、それを映画化するにあたり再演時の主要キャストが集結し、新たに松尾諭と斎藤工が加わった。主役の男女を演じているのは、廣瀬智紀と北原里英。インタビューでは作品への思いや現場でのエピソードを語ってくれたが、最後、廣瀬が急に“お疲れモード”になると北原が大笑いしながらフォローするなど、終始、息の合ったトークを聞かせてくれた。
廣瀬:舞台上で初日にサプライズとして発表されたので、舞台のお客様と同時に知りましたね。
北原:はい!
廣瀬:すごく嬉しかったよね。
北原:舞台の本番の期間が短くて、これで終わるのは寂しいなと思っていたので、だからこそすごく嬉しかったですね。
北原:舞台だと後ろの人まで声を届けなければいけないので最後の方のシーンでは声を張ったりしていたのですが、映像でそれをすると違和感が生じてしまうので、より繊細な方向にシフトチェンジした部分はありました。でも、大枠は変わっていない気がします。
廣瀬:僕も舞台で作っていたものと大枠は変えずに、ただ、映画では舞台にはなかったシーンが追加されたので、より役にふくらみを持たせて演じることができました。例えば、二人の回想のデートシーンが追加されたりしたことで、舞台で説明できなかったところを補えたのかなと思っています。
北原:映画版では「2年間こんなに楽しい思い出があったんだなぁ」と思えるので、より別れが辛いというか。見てくださる方々にも、浅美の気持ちを深く理解してもらえるようになっていると思います。
北原:そんなこと言われたら、その時点でちょっと“好き度”は落ちますね。でも、それでも好きだったらその2年間で何とかしようと思うので、そこは浅美と同じ考えで付き合うと思います。
北原:いや、でも私はもうちょっとダサいというか。劇中では言えましたが、あれは広樹の妹の真菜が背中を押してくれたり、周りの人が力を貸してくれたから言えただけで、多分、あれがなかったら浅美は言えなかったと思うんですよ。私ならもっと惨めに別れたくないと伝えると思います(笑)。
廣瀬:僕だったら言えないかな。広樹の生い立ちなどを踏まえていないと、あのセリフは出てこないと思います。西条監督からは「ごめんな。こんな辛い役を与えて」というようなことを言われたんですね。役を演じながら、それくらい心がドーンと落ちるくらいの人生を広樹は辿ってきているな、と感じていました。
廣瀬:けっこう重い気分でした。舞台はお客様もいましたし、キャストも仲が良くていい空気なんですね。その“陽”の雰囲気のなかで、自分は影のある役ですから“陰”な気持ちを作らなければいけなかったので、みんなとちょっと距離を取ろうかなと。でも、楽しくてそっちに行っちゃったり。
北原:映画の時は特に、みんなが待機している楽屋のような部屋でも廣瀬さんは距離をとって集中していらっしゃったのですが、一回だけカードゲームに参加してきて(笑)。
廣瀬:最終日、ついに「何やってんの?」みたいな感じで思わず行っちゃって。もちろんみんなとコミュニケーションはとっていましたが、どちらかというとワイワイと明るい場には自ら入らないようにしていたというか、自然と離れていましたね。みんなもそんなに気にならなかったんじゃないかな。
北原:私はちょっと気にしてましたよ(笑)。
北原:やりがいはどちらもすごくあって魅力的ですね。でも大きく違うのは、舞台は稽古期間も含めてみんなと一緒に過ごしてお芝居する時間が長いところだと思います。
北原:もちろん映画でも団結力はあるのですが、何でしょうね、舞台では反応が生で返ってくるし、やり直しができないので、舞台ならではのドキドキ感がありますね。
廣瀬:そうですね。最近は(新型コロナウイルス感染拡大の影響による)自粛期間を過ごすなかで、やっぱりライブが好きなんだなぁと、改めて思いました。 生でお芝居を届けられること、お客さんの呼吸を感じながら芝居をやれること、舞台での一体感、そういうのが好きだなと。例えば舞台では二人の出会いからゴールまでの時間の経過を順番に演じることが多いですが、映像では後のシーンから先に撮ったりすることもあるじゃないですか。そういう撮影での気持ちの作り方は勉強になりますし、自分はまだまだ経験が足りていないなぁと思います。吸収させてもらうことが多いので、映像も楽しいです。ただ、やっぱり生で芝居を届けられるということが自分の仕事の上では一番なのかなと思います。
廣瀬:どちらかというと僕はお客さんの反応をもらう役ではなかったのですが、今立さん(今立進/同部屋の入院患者、共武役)との掛け合いのシーンで、ここで笑いが取れたらその後に繋がりやすいよね、というシーンがあったのですが、なかなか笑いが取れなくて(笑)。
北原:あははは、そんなことは(笑)。
廣瀬:いや本当に。
北原:稽古場では面白かったですよ!
廣瀬:ほら、稽古場では、って(笑)。いつもそのシーンの終わった後に、今立さんとお互いに深々とお辞儀をしながら「今日は今日で。明日もお願いします」みたいなやりとりをしていて。でも、1日だけお客さんが笑ってたかな、みたいな時があって、舞台裏にはけていったらみんなに「良かったですね」と迎えて頂いて、それもちょっと恥ずかしかったんですけど(笑)。そういう風にお芝居で笑わせることも僕はすごく好きなので、そういう瞬間も楽しかったですね。
北原:ラストの大事なシーンで、私は長ゼリフがあったんですけれど、西条さんが「ここまでは良かったんだけど、この後はもう1回欲しい」とおっしゃることがたびたびあって。私はここの部分では合格点に達しなかったんだな、ということに気付いたりしました。それこそ映像ならでは、ですよね。舞台ではセリフを言ってしまったら終わりですから。
廣瀬:そうだよね。映像で活躍している方々がすごいなと思うのは、全力で演じるのが一回だけじゃないんですよね。何回もそのシーンを演じて、今度はこっちの角度から撮ったり、寄りで撮ったり。僕は毎回そのことを忘れてしまうんですよ。とりあえずこの一回に全力をかける、みたいな。すると「今度はこっち向きで同じのください」って。そういうのを忘れるぐらい舞台で生きてきたんですね。
北原:ラストのシーンは大事に撮っていただいたのですが、二人の告白シーンは、シャッターをガラガラッと閉めるのはここまで、といったこだわりの画角が西条さんにあって、何度か演じましたね。シャッターの向こうから撮影されていたんですけど。
廣瀬:あそこは自分たちの顔ではなくて、シャッターから見える足元と影で表現したかったようなんです。シャッターを閉めるのが自分だったので、「ここくらいかなー」みたいな感覚でしかできなくて、何回もチャレンジしました(笑)。
廣瀬: 2年後は35歳。30歳を過ぎたくらいから、責任感じゃないですけれども、いい大人だなあと感じていることが多くて。それでも日々、自分の成長不足を感じるのですが、35歳には一つ思い描いている夢を叶えたいなと思います。
北原:何ですか?
廣瀬:え、いや、ちょっと言えない(笑)。
北原:えー!? 私も2年後は30代、31歳になりますね。私は元 AKB48なのですが、今、グループを卒業してからちょうど2年くらいなんですよ。この2年間で色々なことをさせていただいて充実していたのですが、あっという間だなと感じることも多くて、自分が2年後に何ができているか考えると不安はありますね。でも、自分の納得いく形でお仕事ができていたらいいなあと思います。
北原:映画版の『HERO〜2020〜』は、舞台を見ていない方には何の前情報もなく見てもらうのが一番いいかなと思うので、ぜひたくさんの西条マジックに騙されてもらえたらなと思います!
廣瀬:舞台から僕たちはやらせていただいているので、より一層キャラクター性を理解した上で演じられたと思います。人々の支え合いだったり、人間は一人では生きられないんだな、ということがこの作品のメッセージとしてあると思うので、そういったところに共感してもらえたら嬉しいです。また、広樹という役を演じて思ったんですけど、一歩を踏み出すのって大変なことだなと。それが大変であれば大変であるほど、明るい未来じゃないですけれど、ほんと新しい世界が一気に広がるなあ、って。それがいい方向に、特に、うん、ねー。(と、机に突っ伏す)
北原:えー(笑)、なんですか? 途中で力尽きるの止めてください(笑)。よかったですよ、全然(笑)。
廣瀬:(笑)今、俺なんて言った? 力尽きた。ごめん、ごめん(笑)。
廣瀬:はい(笑)。それを感じているので、みんなちょっとした悩みを抱えていると思いますがこの作品が一歩を踏み出す機会になればいいな、と思いますし、すごく心温まるハートフルコメディなので、楽しんでもらいたいなと思います(笑)。
(text:中山恵子/photo:小川拓洋)
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