ギャスパー・ウリエル
Gaspard Ulliel
1984年、フランス生まれ。2001年『ジェヴォーダンの獣』(01年)で映画デビュー。アンドレ・テシネ監督の『かげろう』(03年)でエマニュエル・ベアールの相手役に抜擢される注目される。ジャン=ピエール・ジュネ監督と組んだ『ロング・エンゲージメント』(04年)で、セザール賞有望若手男優賞を受賞。この他の作品に、ハンニバル・レクターの若き日を演じた『ハンニバル・ライジング』(07年)、イヴ・サンローランに扮した『サンローラン』(14年)、セザール賞主演男優賞を受賞したグザヴィエ・ドラン監督作『たかが世界の終わり』(16年)などがある。本作のギョーム・ニクルー監督が企画を務めたTVシリーズ『トワイス・アポン・ア・タイム』(19年)でも主演を務めている。
『この世の果て、数多の終焉』ギャスパー・ウリエル インタビュー
フランスの美形俳優が、狂気の地獄を生き延びた兵士を渾身の演技で体現
この物語は主人公が最後の大きな旅に出る前の魂の彷徨のようなもの
第二次世界大戦末期、フランス領インドシナの凄惨な真実と傷ついたひとりの兵士の魂に迫った戦争ドラマ『この世の果て、数多の終焉』。フランス映画祭2016で上映された『愛と死の谷』が絶賛を博したギョーム・ニクルーがメガホンを撮ったこの作品は、多くの日本人にとっても知られざる植民地の闇を描いている。
1945年3月、フランス領インドシナに進駐していた日本軍がクーデターを起こし、協力関係にあったフランス軍に一斉攻撃を仕掛けた。殺戮をただひとり生き延びたフランス人兵士のロベールは、兄を殺害したベトナム解放軍の将校への復讐を誓い、部隊に復帰。密林でのゲリラとの闘いが苛烈を極める中、ベトナム人の娼婦に心惹かれるロベールだったが、やがて理性を失い、ジャングルの奥地に身を投じていくのだった……。
主人公ロベールを演じるのは、ギャスパー・ウリエル。10代後半のときに『かげろう』でエマニュエル・ベアールの相手役に抜擢され、その端麗な容姿と瑞々しい演技で注目を集めたが、以降、『ハンニバル・ライジング』や『サンローラン』などで順調にキャリアを重ね、今ではフランスのトップ俳優のひとりに成長した。本作で理性と狂気の間でもがき苦しむ兵士の運命を熱演した彼に、監督との初仕事やフランスの名優ジェラール・ドパルデューとの共演について話を聞いた。
ウリエル:プロデューサーからコンタクトがありました。ギョーム・ニクルー監督の作品についてはあまり知りませんでしたが、監督の『愛と死の谷』のヴィジョンが決断を下すのに役立ちました。僕はこの作品に完全に捉われ、動揺させられました。ギョームのキャリアを見ると、彼は探究し、問い直す人であり、僕にとってそれは偉大な映画監督の証なのです。
ウリエル:『愛と死の谷間』に関するギョームのインタビューを読みましたが、人を寄せつけない乾燥した不毛な環境と仕掛けに自分の身を置くことは、非常に強烈なことだと発見し、最終的にデスバレーという舞台が撮影で最も重要な要素、完全に登場人物のひとつになったと語っていました。本作でも同様のことが起こりました。自律性や快適な領域から脱することを余儀なくされ、このジャングルの中に自分自身を委ねることになったのです。
ウリエル:はい。撮影中に仕事のやり方、判断とアプローチを変えるギョームの方法は、非常に魅力的で豊かなものです。ギョームには映画の考察についてのかなりユニークな方法があり、撮影のプロセスでは常に自由な感覚を与えてくれます。約束事から自由になり、すべての慣例から距離を置くことによって、多くのことを可能にするのです。同時にとても的確かつこだわりのある人で、自分の求めていることを正確に知っていますが、それを具体的すぎない方法で伝えることができます。だからこそ、俳優は作品に探究と経験をもたらし続けることができるのです。明白な表現形式をつかませようとするために、逆説的に常に予期せぬことを育むのです。
ウリエル:いいえ。ギョームは独特で、彼が考えていることを本当に知ることは決してできません。鍵を与えてくれる人ではないのです。彼は俳優が登場人物の心理状態に入っていくことを嫌います。陳腐な心理描写よりも、無意識、夢、幻想、シンボルにより信頼を置いているのです。事前にはわからず、私たちも決して先読みできないアイデアが彼は好きです。
ウリエル:それが作品と登場人物の強度になっています。ロベールは混乱し、その様相はあやふやで、観客は完全に自由な解釈ができます。ここではかなり抽象的なものに触れているのです。僕にとって、最初からこの役の準備をしすぎて、仕切りを作ってしまうことは考えられませんでした。彼が殺戮の場、死者の間から現れるのが見える最初のシークエンスから、この役に完全に特別な価値を与えることを考えました。ロベールには明らかに幽霊のような面があり、この物語は最後の大きな旅の前の、魂が過去をさかのぼる彷徨のようなものと見ることができます。
ウリエル:ギョームは抽象的で精神的な世界に、非常に野卑で写実的な映像を持ち込み、生々しい暴力と、催眠や白昼夢の感覚を最終的に作り出す果てしない甘美さを共存させています。そして省略を用いた表現方法で解釈を広げる力強さがあります。観客自身がそれぞれのコラージュをするのです。
ウリエル:その争点をつかむために、この戦争に先行して起きた重要な出来事をひとつひとつ検討するのみに留めました。掘り下げすぎた具体的な探究に決して入り込みすぎないようにしたのは、自身の仕事を無駄にせず、ミニマルで簡素な表現形式を常に優先するギョームのアプローチに忠実でいたかったからです。
ウリエル:はい。共演と知り、気持ちが高ぶりました。ジェラールは非常に寛容な人です。これほど他の人たちに興味を持ち、人生を自由に受け入れる人を見るのはまれなことでした。彼と演技をすることは、多くの着想を得られる体験でした。彼は類いまれな力で今の瞬間を演じます。その瞬間にしっかりと、観客の心に刻ませることができるのはすごいことです。だからこそギョームととても息が合うのだと思います。
ウリエル:最終日に撮影しました。ふたつの会話があり、それからギョームはフィルムのリールの最後までショットを続けたのです。確かに非常に雄弁なショットで、多くのことを語っています。後から思い返すと、このショットのないこの作品は想像ができないほどです。ギョームが「アクション」と言ったときは何も予測しておらず、カメラを回し続けることになることも彼自身がまだ知らなかったのです。これがギョームのすごいところで、彼はその仕事の仕方に超自然的な次元の直感があるのです。
ウリエル:そう願っています。ギョームと働くことは、実りのあることです。自分の仕事について考える新たな方法を見出すことができます。私たちの仕事の関係には何か明白なものがありました。神秘や強迫観念、不可能への探究を可視化するという、共通の目標に導かれる私たちを結びつけているという事実です。それは言葉を超えて存在するものです。私たちはお互いがとても違っていても、話さなくても理解し合えるのです。
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