『シチリアーノ 裏切りの美学』マルコ・ベロッキオ監督インタビュー
イタリア映画の巨匠がマフィア映画に初挑戦! 衝撃の実録ドラマとは?
今まで描かれなかったマフィアの重要人物を描きたかった
日本でも熱狂的なファンを多く持つことでも知られているイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ。最新作『シチリアーノ 裏切りの美学』では、本格的なマフィア映画に初めて挑んだ。中心となるのは、血で血を洗うマフィア同士の抗争が繰り広げられた1980年代。シチリアの巨大犯罪結社コーザ・ノストラを裏切った男とされるトンマーゾ・ブシェッタの数奇な人生を描いている。
本作は、2019年カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、イタリアのアカデミー賞とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では最多6部門受賞。さらに、米アカデミー賞国際長編映画賞のイタリア代表にも選出されたことでも話題となり、高く評価されている。そこで、歴史的背景から制作におけるこだわりなど、81歳にして生み出した最高傑作についてベロッキオ監督に語ってもらった。
監督:まずブシェッタは、マフィアの歴史においてはかなり知られた人物だということ。にもかかわらず、過去に映画の主人公として扱われることなく、常に二次的な登場人物として描かれてきたんだ。だから今回は彼を選んだんだよ。ブシェッタはマフィアの歴史の中で、とても重要な人物。なぜなら、初めて改悛したのが彼だったからね。でも、ヴィターレという改悛者が先にいたから実際には二人目なんだけれど、精神科的な問題があってヴィターレの証言は採用されなかったんだ。
監督:彼は明晰で知的で、そして勇敢でもあった。「捜査当局に協力すると決めたからには」と言って、“マフィア構成員のピラミッド”とされるマフィアの組織図まで提供したほど。それだけでなく、彼は構成員たちの実名も挙げたんだ。そうやってコーザ・ノストラと呼ばれるマフィアの全体構造が解明されたのだから、ファルコーネ判事にとっては、とてつもなく重要なことだったと思うよ。ある者たちから見れば彼は英雄ではないけれど、他方で彼は卑劣でもないし厄介者でもない。そこで、私は彼が辿った道を追おうと考えたんだ。
監督:アウラ・ブンケルの特設の法廷でマフィアの歴史を物語る、またとない大きな裁判だったと言えるんじゃないかな。マフィアの構成員たちは、常に中断したり妨害したりして、とても強かったよ。それでも、この裁判は幾つもの終身刑や重い刑罰を宣告するまでに至ったし、その後、控訴や破毀院への上告まで認められる件もあった。こんなことから、ある演劇的な形式で描写してみたいと思ったんだ。オペラ風と言うか悲喜劇的な形式と言うか、もしくは悲劇的とも、グロテスク悲劇的とも呼べるかもしれない。その中でこの被告人たちは、持てる手段をすべて使ってでも自らは助かろうとする。何かの役になるように芝居しようとするが、彼らに裁判を止めることはできないんだ。
監督:最初に撮ったアクションシーンは、銃撃戦で人が殺される場面。私はそういうシーンをこれまでに映画やテレビで数百回、数千回と観てきた。でも、自分が撮る番になったときは、作り方を熟知したとても優秀な技術スタッフたちに助けてもらったよ。だからアクションシーンに関して、特段の難しさはなかったんだ。
監督:当然、個々の襲撃や殺害には、それぞれの事件に至るまでの根拠や準備がある。ファルコーネ判事が殺害された「カパーチの虐殺 」のシーンでも使った手法だが、あたかも私自身の視線は内側から見ていて、死が外部からやって来るかのように撮った。ボンターデは屋内で殺され、ファルコーネは彼の車の中で、そしてインツェリッロは彼の部屋の中で殺されているよね。要するに、ショットとリバースショットを混在させないように撮影したということだ。そうやって、一つの視点を最大限に活かすようにしたんだ。
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