1983年生まれ、大阪府出身。『金田一少年の事件簿 上海魚人伝説』(97年)で女優デビュー。映画、テレビ、舞台、インターネット配信コンテンツなどの各媒体で、シリアスからコメディまで幅広い役柄を演じて活躍。近年の映画出演作は『明日の記憶』(06年)、『今度は愛妻家』(09年)、『大木家のたのしい旅行 新婚時獄篇』(11年)、『バイロケーション』(14年)、『太陽の坐る場所』(14年)、『福福荘の福ちゃん』(14年)、『後妻業の女』(16年)、『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』(20年)など。今年は『ミッドナイトスワン』(9月25日公開)、主演映画『滑走路』(11月20日公開)に出演。
売れない脚本家の豪太と、夫と一人娘との生活を支えるために仕事に追われる妻のチカ。収入もないのに呑気で、セックスレスの妻との関係復活しか頭にない夫を、叱咤激励というにはあまりにも強烈な毒舌で攻撃し続ける妻を描く『喜劇 愛情物語』。
身も蓋もない倦怠期の夫婦の物語は、足立紳監督が同名の自伝的小説を自ら脚色し、昨年の第32回東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞作。愛憎相半ばする夫婦のリアルに笑って呆れて、そして泣けてしまう本作で、マシンガンのように辛辣な言葉を畳みかける不機嫌な妻を演じた水川あさみに話を聞いた。
水川:笑いましたよ、もう(笑)。シナリオが緻密に書かれていて、役柄の設定も、状況も目に浮かぶし、とても面白く読めました。
水川:ありがとうございます。そこはすごく大事にしていたんですけど、だからといって台詞の勢いがなくなるのも嫌だったんです。
チカの豪太に対する思いは、きっと根本は出会った時から変わらずにあって。彼の脚本家としての才能に期待して、そこで成功してほしいと願う気持ちは変わらず、今もあるんですよね。そこだけはどうにか頑張ってほしいし、そこだけ良ければ、あとはできなくていいのに、みたいな気持ちが豪太に対してあるんですけど、それすらできないから、今の状況になっていると思うんです。
10年も一緒に日常を共にしていると、そういう気持ちが埋もれてしまって、ちょっと見えなくなってしまったりすると思うんですけど、根本はその気持ちを持っていることを、ちゃんと思いながら演じてはいました。
水川:そういう気持ちはすごく大事だなと思います。夫婦間においてもそうだし、人と付き合っていく上でも。例えば友だちのここは嫌いだけど、でも、ここがあるから素敵だよねっていうのと同じだと思うんです。夫婦間においては、もっと深くて大きいというか。
ここだけは好き、ここだけは素敵、ここだけは他の人にはない、というものを見つけるチカもすごいし、それを持ってる豪太もすごいと思うし、そこがあるからこそ、この夫婦が成立するんだろうと思います。
水川:監督自身は役者のことをすごく信頼してくれてました。だから基本的には、すごく細かい演出はあまりなかったです。台本からくみ取って自分が思うようにやってみたのを監督が見て、「もうちょっとこうしてほしい」という、さじ加減の話はもちろんありましたけど。
あるシーンで、私がすごく怒った調子で台詞を言ったら、「その台詞は普通に言ってください」と言われたことがあります。
夫婦って、すごく相手に怒ってたとしても、何時間後には一緒に食卓を囲むし、一緒の場所で寝るし、腹が立ったり戻ったりするのが日常ですよね。夫婦ってこういうことなんだな、と監督の演出で思ったことがありました。
水川:どうしようもない人だなと思う(笑)。犯罪ぎりぎりのこともして、パンツのぞいたりもするし(笑)。
水川:なしでしょう、そんなの(笑)。
水川:最高でした。すごく楽しかったです。岳くんは、約10年前に、恋人役でご一緒させてもらったんですけど、その時はすごく純愛で。役の上で、彼が私のことをとても好きで、最終的には結ばれたんですけど、その結末はこれかって感じで(笑)、面白いなと思う。行定監督の『今度は愛妻家』です。「愛妻」が付くの、どっちも。運命だなぁとおもいます。
水川:全く変わらないです。やっぱり、岳くんの芝居力ってすごいから、そこにいるだけで本当に素晴らしいです。打ったものを、ちゃんと返してくれるから成立するというか、面白くなるんだなと思った。今回の私はとにかく、エネルギーをぶつけるほうですけど、向こうはそれを受け止めて……はいないんですけど、うまくかわして。
水川:絶妙な間合いで、むかつくことを言って。
水川:もちろんそうです。私が話すテンションが変われば、受けとめ方も変えてくれますから。当たり前のことかもしれないけど、ちゃんとそこに豪太として存在して、お芝居をしてくれて、とてもありがたかったです。岳くんとだからできたと思います。
水川:そうです、監督が実際に毎日生活しているご自宅で撮影しました。そんなことなかなかない、初めての経験でしたね。映っているものも、美術で付け加えたりもしているものもありますが、ほとんど監督のおうちのものです。
水川:なかったです。最初に「奥さまにお会いできるんですか」と聞いたら、「会わなくていいです」と言われましたし、監督が私にも岳くんにも、自分たちを演じてほしいわけではないとは言ってたので意識はしていないです。奥さまには撮影の時に初めてお会いしましたけど、もう、チカそのものって感じで、すごく面白かったです。
水川:本音でぶつかるにも程度がありますけど、私自身は本音を言える関係性でありたいなと思います。それは親しい友達であれ、夫婦であれ。その伝え方はちゃんと言葉を選んで、相手に染み渡るように伝えなきゃいけないとは思うんですけど。
水川:たぶん、あれでは無理ですよね。(笑)全然伝わらずに跳ね返っちゃう。
チカはいろいろ我慢していることが多過ぎて、どうしてもああいうふうになっちゃうんだろうな。腹が立ったことは、もう何年も前のことも言ったりもするし。あれは何十回、何百回言ってるんだろうなって思う。だから理解できますけど、あの言い方だとなかなか伝わりづらいですよね。
水川:そんな気がします。
水川:友だちや、私のマネジャーもそうですけど、長く一緒にいる人はみんな自分とは違います。自分と全く同じような感覚や価値観の人はなかなかいないですから。家族でさえ難しかったりするわけで。むしろ、それが当たり前だとは思っています。
水川:もちろん。そんな、自分本位にはいられないです。ただ、例えば仕事で、これだけは私の意見でやってみたいと思うことはあるし、友達や夫婦の間でも「それは違う」と思うことはちゃんと話します。相手にそれを伝えられるかどうかということだと思うんです、人と付き合うっていうのは。言葉にして伝えられるか、伝わるかってことだと思ってます。
水川:まだそれは、はっきりはわからないです。結婚して10年ぐらい経って、夫婦って素晴らしいとか、夫婦ってこうなんだと思うことがあるのかもしれないけど、私はまだ始まったばかりで、まだまだ途中段階という感じですけど……。
でも、何か物事について自分が抱く感情というのは、もう自分ではわかり切っていたり、限界があったりするかもしれないですけど、誰かと過ごして、誰かのために生きることを決めたりすると、その上限が外れるというか。そこを外さないと一緒にいられないわけですよね。
日常を過ごす中で、今まで自分が見ていたものが、よりきれいに見えたり、すごく面白く見えたり、楽しくなったり、あるいはこんなことに腹が立つんだと感じたり、今まで思わなかったような感情を発見するという意味で、夫婦という形は面白いと思います。
ある意味、自分が成長するために、人生をかけてこの人と一緒にいると決めるということ。夫婦になるっていうのはそういうことなのかなとは思います。
水川:こんな世の中になったとて、私たちは日常を生きていかなきゃいけないから、世界が変わったんだったら、順応していくしかないからこそ、自分らしくちゃんと生活して生きていきたいなと思います。仕事に対しても、その中で自分たちがどういうふうに関わって、どういう発信をしていくかを考えているところです。エンターテインメントって、こういうことになると一番必要がないのかなと思ってしまうけど、どんな時だって、今まで何があってもずっと残ってきたものだから、残していきたいし、そこに関わっていきたい。
私たちがちゃんと作品として残るものを、どういうふうに生み出せていくか、どういうふうにチャレンジしていけるかということが課題だと思っています。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
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