1945年6月8日生まれ、山口県出身。1972年に小林佐智子と共に「疾走プロダクション」を設立し、脳性麻痺の障害者自立運動家横塚晃一ら神奈川青い芝の会のメンバーを描いた『さようならCP』を監督。その後も、『極私的エロス 恋歌1974』(74年)、『ゆきゆきて、神軍』(87年)など問題作を世に送り出す。『ゆきゆきて、神軍』は 日本映画監督協会新人賞をはじめ、国内外で数々の賞を受賞。2019年には新レーベル「風狂映画舎」を立ち上げ、『れいわ一揆』がレーベル第一弾作品となる。
観念だけでは映画は作れません
新型コロナウイルス感染拡大の影響により延期されていたドキュメンタリー映画『れいわ一揆』がいよいよ公開を迎える。2019年の参議院選挙で注目を集めた「れいわ新選組」の候補者の一人安冨歩を中心に、党首の山本太郎、さらにはその他の候補者たちの選挙活動を追った本作。
メガホンをとったのは、『ゆきゆきて、神軍』などの原一男監督。これまで数々の問題作を世に送り出してきた原監督は、なぜ今回「れいわ新選組」の人々を映画として残そうと思ったのか――話を聞くうちに、映像作家・原一男の思いが垣間見えてきた。
新作公開延期の今、鬼才監督・原一男が語った人間の奢り、そして危機感
監督:以前「原一男のネットde「CINEMA塾」」という番組に、選挙の立候補者について書かれた「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」著者の畠山理仁さんに出演していただいたことがあるのですが、そこで安冨歩さんという方が東松山の市長選挙で馬を連れて選挙をしていた話を聞いて「ぜひ紹介してください」と導いていただいたんです。
2018年7月に僕の番組に安冨さんが出演してくれたとき、市長選の話を聞いて、すごく面白かったので「もう一回選挙に出ませんか? それを映画にしたいので」と聞いたら「出ません」と即答されてしまい……(笑)。そのあと時間が空いたのですが、2019年の6月に、ニューヨークのモマを皮切りに、僕の過去作品を上映する北米ツアーを行ったのですが、最初のモマのとき、マイケル・ムーア監督が来てくれたというニュースを安冨さんが見ていたらしく「原監督というのは、マイケル・ムーアが見に来るぐらい有名な人なんだ」と思っていただいたのか、安冨さんから「映画を撮ってくれるなら立候補しようかな」というメールが来たんです。
プロデューサーの島野千尋くんは、いろいろな考えや葛藤はあったようですが、僕としては自分から振った話だったので「じゃあやりましょう」という話になって……。
監督:そうですね。最初の発想は「選挙活動を撮ったら面白い映画になるだろう」という思い込みから始まった企画で。まあ軽いノリに近い感じのスタートでした。
監督:「あれはダメ、これはダメということをなしにして欲しい」というお願いですね。組織というものは、いざ撮影を始めると、いろいろなことを隠したがるんです。そうなると後々ややこしくなると思ったので、最初に話をしました。そもそも新しい政治の仕組みを作ろうという志で作られた政党なので、山本さんのなかにも隠し事なんてするはずないという気持ちもあったと思います。その部分はしっかり価値を共有できると思っていました。
監督:非常に面白かったです。劇映画もドキュメンタリーも同じなのですが、メインキャラクターがいて、敵役がいる、さらに周囲を固める脇役がいるという構図がある。ドキュメンタリーの場合、最初からしっかりそういう人物を配置して計画的に撮影することはできないのですが、撮影をしながら自然と見えてくるものなんです。この映画は、10人のメンバーが絶妙の役割を持っていました。
監督:山本太郎という人の演出力だと思います。彼は役者として長く映画の現場にいた人。自然と監督術を勉強していたんだと思います。候補者を一人ずつ紹介する方法もそうですが、それぞれの候補者たちの役割が絶妙だったので、僕はそれに乗っかって記録しただけだと思っています。
監督:おおよその目安というのは撮影前に想像するものですが、今回は登場人物が10人いたので、2時間ぐらいでは収まらないだろうなとは思っていました。実際撮影が始まり、撮影期間はおよそ22~23日間。最初は私のカメラだけで撮っていたのですが、候補者たちが全員集まるイベントなどは、一人では追えないので、カメラの台数を増やしていきました。編集マンに聞いたところ、撮影したものは100時間ぐらいあったそうです。そこからまず1本につなげたのが9時間ぐらいのものでした。さらに頭から最後まで何度も見返して、要らない部分を削っていき、現在の尺になったという感じですね。
監督:僕は炭鉱育ちなのですが、炭鉱って倒産もあるなど、超貧困で経済的に最下層にいたんだなという認識があります。それが故に、トップで社会を動かしている権力者に対して、庶民レベルから学問的なことまで含めて、怒りや憎しみ、妬みなどかなり負の感情を持っていました。それがベースに表現が成り立っていると思います。
私たちが作った初期の映画は、権力に対して虐げられているという恨み、一矢報いたいという思いが込められていると思います。権力に立ち向かって戦う人を撮ることで、自分自身の思いを重ねている。登場人物も、反権力として自覚している人たちばかり。『さようならCP』の脳性麻痺の人たちもそうだし、『極私的エロス・恋歌1974』の武田美由紀も自分の親の世代はダメだと権力に向かっていく。『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三さんもまさにそうですよね。
監督:それはあります。自分が作ってきた映画に絡めると、僕は15年かけて水俣病のドキュメンタリーを撮影してきたのですが、いままた水俣病の患者数は増えているんです。政府は安全宣言を出したのですが、少量のメチル水銀が残っている魚を食べ、体内に取り込んでいる人たちが、水俣病の初期の症状を訴えている。現地に行くとそういう方がかなりいるんです。水俣病の怖いところは、五感をつかさどる神経に害が及ぶこと。非常に危険な状況ですよね。コロナウイルスと似たような終末観がある。
監督:観念だけでは映画は作れません。人の思いがあって、それを生活の根っこから表現したいという思いが映画作りになっていくのだと思います。
監督:『れいわ一揆』はもともと、4月17日に公開の予定でした。「いよいよ公開だね」というとき、劇場からコロナ禍のため休業に入るという知らせを受けました。予測はしていたことですが、実際公開が延期になると決まったときは、一気に全身の力が抜けてしまいました。我が映画生活50年で初めてのことでした。そこから劇場が再開に向けて動き出しても、公開できなかった映画がいくつもあり、プログラムを組み直さなければいけない。それはとても大変なことでした。そんななか、公開が9月11日に決まりましたが、この延期期間のあいだ、山本太郎代表の都知事選出馬、大西恒樹の「命の選別」発言、野原善正の離党問題などいろいろなことがありました。「れいわ一揆」は決してれいわ新選組のPR映画ではないですが、それでも党の激震が、もろに作品を揺さぶった。「れいわ一揆」は何という不幸な作品だ、と呪う気持ちもありました。でも、この激震の荒波をくぐって上映されるわけだから、より深く作品の意義を問われるだろうが、それは作品にとって意味あることだと考え直しました。ドキュメンタリーの意義は「問題提起にある」と信じている私にとっては、この作品から、どんな問題意識を汲み取ってくれるだろうか? と楽しみにしています。
(text:磯部正和)
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