『82年生まれ、キム・ジヨン』キム・ドヨン監督インタビュー

大ベストセラー小説を映画化!手掛けたのは期待の女性監督

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キム・ドヨン

女性である自分が女性の物語を描くことが重要だと感じた

『82年生まれ、キム・ジヨン』
2020年10月9日より全国公開
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

チョン・ユミとコン・ユという韓国でも実力派俳優として知られている2人が3度目の共演を果たしたのは、映画『82年生まれ、キム・ジヨン』。今回は、初の夫婦役を演じたことでも話題となっている。原作は韓国で130万部を突破し、社会現象を巻き起こした同名の大ベストセラー小説。結婚と出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われる主人公のジヨンの生きづらさを描き、現代の女性たちから多くの共感を得ている。

手掛けたのは、本作が長編デビュー作となるキム・ドヨン監督。韓国のゴールデングローブ賞と称される第56回百想芸術大賞では、見事に新人監督賞を受賞するなど、高く評価されている。そこで、ドヨン監督に作品への思いや映像化するにあたってこだわった部分などについて語ってもらった。

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──まずは、原作となった小説「82年生まれ、キム・ジヨン」のどこに惹かれましたか?

監督:原作である小説を読んだとき、ジヨンの生き方や彼女の人生を通して、私だけでなく母親や友人や後輩の人生を振り返るきっかけになりました。当時の私は、子育てをしながら映画の学校にも通っていたので、自分の人生をあわただしく複雑なものに感じていたときでしたから。
でも、他の多くの女性たちの経験を通じて、自分の人生や今までの生き方を認知できるような思いがしました。そして、母や叔母たちの人生もじっくりと静かに見つめ直して振り返るなど、初めて自分から少し距離を置いていろいろなものを見つめ直すきっかけを与えてくれた作品だと思います。読んで開眼しました。

──では、なぜこの映画の監督をすることになったのでしょうか?

監督:オファーをいただいて、監督として参加することになったんです。そのときには初稿ができていたのですが、そこから打ち合わせを重ねていきました。劇中、ジヨンが自分の言葉で語り始めるように、女性の物語を同じ女性である私が作るということが重要だとも感じていたのでオファーをいただいたときは嬉しかったです。
プレッシャーもありましたが、女性だからこその視点を盛り込んで表現したいと思っていたので、恐れて逃げ出すのではなく、勇気を出してチャンスを掴み取るのも大切だなと感じました。チャレンジでもありましたが、監督できてよかったと思っています。

──ベストセラー小説の映画化にあたって、気を遣った点はどこですか?

監督:原作が売れていて有名だということは、多くの人がこの作品に期待しているということでもあるので、その期待に応えられるかというプレッシャーもありました。しかも小説は、ルポルタージュの形なので、それを2時間の映画で叙事にしなければなりませんでしたから。叙事は、さまざまな葛藤を通じて緊張が高まっていくクライマックスに向かう必要があるので、その部分に一番気を配って映画化しました。
特に映画では、ジヨンの人生でも現在の姿に主軸を置いて構成しています。彼女の思いや本当は彼女が何をしたいのかといった感情に寄り添い、自身の道を見出すように描きました。小説を読んで大事なエッセンスだと感じたことは、ジヨンの母親、同僚、上司といった劇中に登場する様々な女性キャラクターを描くことだったので、それらを伝えられるように意識しています。

キム・ドヨン

──映画では、女性が社会で働くことの難しさも描いています。監督自身の思いが投影されている部分もありますか?

監督:私の思いももちろん投影されています。女性が社会で仕事をするという上での制度面の改善も必要ですが、同時に他者を見つめる視線、自分と違う環境や文化に置かれた他者に対しての配慮のまなざしをもつことも学ぶ必要があると思っています。社会の中にいまだ根深くある空気や差別的なまなざしに対し、活発な議論をすることが必要ですよね。その第一歩は一度振り返ってみること、それが最も大事なことだと考えています。

──監督自身の子育て経験も反映されていますか?

監督:例えばベビーカーを足で押すところや自分が学校で専攻して学んだことが、実生活では役立っていない、社会に必要とされていないと心情を吐露するママ友たちとの会話のシーンなど、私の経験もいろいろと反映されています。

──監督ご自身は、なぜ40歳代半ばで、映画学校に入られたのですか?

監督:私は、もともと演劇を専攻していて、俳優として舞台に立ったり、映画にも少し出たりしていました。でも子どもを持ってからは、子育てをしながら演劇活動することが難しくなりました。でも創作をしたいという気持ちはずっとあったので、物語を書き、短編映画を監督しました。
そんななかで遅くならないうちに映画を学びたいと思い、46歳で韓国芸術総合学校に入ることにしたのです。優秀な監督をたくさん排出している学校ですが、運良く受かりましたので、本格的に映画の勉強を始めることができました。40代に入って映画監督の夢を成し遂げられたのは、応援して支持してくれた人がいるからこそです。私自身の人生の中でも、こんな女性になりたい、と思える人がいたように、誰かが困っている時に手を差し伸べられる存在でありたいですね。

観客が前向きな気持ちになるようなラストにしたかった

──特に印象に残っているシーンはどこですか?

監督:もちろんどのシーンも印象に残っていますが、より心に響いたのは、ジヨンがベランダに出て洗濯機の横でぼんやりと座っているシーンや、同僚が家に遊びに来て帰った後に運動場を走るシーンなど。ジヨンの台詞はありませんが、彼女を取り巻く空気や感情も表現されていて、私自身の経験とも重なっていたため印象深く感じました。
また、実家でジヨンのおばあさんが憑依してジヨンの母親に語りかけるシーンの撮影では、思い入れもあったので、私もすごく緊張しました。現場では俳優たちが見事な演技をしてくれたので、撮影しながらとても感動したシーンです。

──希望を感じさせる、原作とは違うラストにしたのはなぜですか?

監督:観客に前向きなメッセージを伝えることが重要だと思い、このようなラストにしました。この映画を観た人が劇場から出たときに、少しでも前向きな気持ちになれるような映画になったらいいなと。次の社会ではもっと生きやすい社会になっているのでは、という希望を持って欲しいという思いでこのエンディングにしました。とはいえ、あまりファンタジーのようにはならないようには、心掛けています。原作のチョ・ナムジュさんが「ラストがとても良かったです」とおっしゃってくださって安心しました。

──ジヨン役のチョン・ユミさんと、デヒョン役のコン・ユさんとは、どのような話をされましたか?
チョン・ユミ

監督:普通に演出家と俳優が行うようなシーン分析やそこでどのような演技をするべきかについては話し合いましたが、実際に現場で演じるときには自然な演技をして欲しいと伝えました。2人は相性が良く、とても良い化学反応が起こり、それが遺憾なく発揮されていたと思います。特にコン・ユは後ろから主人公を支える役柄であることをよく理解されており、そういった部分を表現してくださいました。

──ジヨン役にチョン・ユミさんがキャスティングされた理由は何でしょうか?

監督:彼女はとても美しく優れた女優で、とてもピュアなイメージを持ち、独特のパワーがある女優です。そのうえで普通の女性のイメージもあり、観客が感情移入しやすくなるような自然な演技ができる女優でもあるので、私はこのキャスティングに満足しています。

──コン・ユさんはお父さん役でしたが、現場で子役とのコミュニケーションはどのような感じでしたか?

監督:コン・ユさんもチョン・ユミさんも、子ども役のアヨンと親しくなるために努力されていました。それぞれプレゼントを準備したり、ふざけあったりしていましたね。アヨンのあの時期の子ども達というのは難しい時期で、言葉でコミュニケーションはとれないが、自我が芽生え始めている時期でもあるので、最初の頃は現場になじめなくて、泣いたりしていたんです。でも、俳優2人の努力の甲斐があって、本当に親しくなっていきました。コン・ユパパ、ユミママと呼ぶほどとても親しくなっていましたので、見ていて微笑ましかったですし、優しいお父さんとお母さんでしたね。

──デヒョンはジヨンを気遣っているし、家事にも少しは協力的だと思いますが、いまひとつのところがあります。コン・ユさんはジヨンに対して、役の上でジヨンとデヒョン夫婦の関係性について、どんなイメージを持っていましたか?

監督:デヒョンは、ジヨンのことを気遣ったり心配したり悩んだりする姿が印象的ですが、ジヨンが発病する前は、そういう事をする人ではなかったように描いています。つまり、妻のことを愛してはいるけれども、発病する前は特に問題意識を持っていたわけでも、注意深く気付けてもいない普通の夫だったのではないかと。その方がよりリアルだろうということになったので、そういう演技やニュアンスを映画の中で表現して欲しいとコン・ユさんに話しました。

キム・ドヨン
キム・ドヨン
Kim Do-Young

1970年11月5日生まれ、韓国出身。2018年に演出した短編映画『自由演技(原題)』で、第17回ミジャンセン短編映画祭の社会的視点を扱った映画を対象とした悲情城市部門で最優秀作品賞と観客賞を受賞。『82年生まれ、キム・ジヨン』で長編デビュー作を果たし、韓国のゴールデングローブ賞と称される第56回百想芸術大賞で見事新人監督賞を受賞する。本作では、日常を志向したディテールに凝ったタッチと、着実に感情を積み重ねていく演出を通じ、皆の物語だという情緒的な共感や温かな慰めを与える映画を仕上げた。