1984年8月1日生まれ、東京都出身。2002年、ドラマ『壬生義士伝〜新撰組でいちばん強かった男〜』で、父である渡辺謙演じる吉村貫一郎の青年期役でデビュー。07年、『県警強行殺人班 鬼哭の戦場』で映画初主演を果たす。伊藤俊也監督の『ロストクライム -閃光-』にて第20回日本映画批評家大賞主演男優賞を受賞。18年の主演映画『ウスケボーイズ』でも高い評価を得た。また、2021年6月に『峠 最後のサムライ』の公開を控え、4月からの舞台「魔界転生」で初舞台に挑戦する。
時代の転換期に投げ出された作家の、人生の難しさを表現したかった
第2次世界大戦直後のGHQ占領下の日本を舞台に、国の難局に立ち向かった吉田茂(小林薫)と白洲次郎(浅野忠信)を中心に、終戦から憲法制定、主権回復に至る歴史の舞台裏を描き出した『日本独立』が公開。
これまで映画化やテレビドラマ化もされてきた小説『戦艦大和ノ最期』を執筆した、戦艦大和の生き残りである吉田満を、渡辺大が演じている。これまでにも『男たちの大和/YAMATO』などの戦争もの、時代ものにも出演してきた渡辺に、歴史ものを人に伝えていく「映画の意義」に始まり、“心の足し”になる「エンタメの大切さ」を聞いた。
渡辺:こうしたひと世代、ふた世代前くらいの時代ものは、まだ影響が大きいですし、フィクションともノンフィクションとも言い難い、すごく難しいラインを行くものですが、僕の場合は幸いなことに、20代の頭からこうした時代もの、戦争ものに何度か出させていただいています。なので、先人たちに対するリスペクトと、ちゃんとそれらを紡いで渡していこうという心構えは、比較的早くからできていったほうです。それに伊藤俊也監督とは10年前にもご一緒させていただいていて(『ロストクライム -閃光-』)、そこからプライベートでも手紙などでやりとりしていました。こういう作品の構想があるというお話は聞いていたので、そういう意味でも心構えはできていました。
渡辺:それこそ戦艦大和の映画(『男たちの大和/YAMATO』)にも出演してきましたが、吉田さんは、まさにそこに乗っていた人たちの生きざまを描いています。伝えたいという気持ちが本当に生々しくて、あの時代に早く伝えたかったんだろうなと感じましたね。日常を取り戻そうとしている姿と、過去の幻影に捕らわれている辛さ、その渦中に生きながら、流れる世の中に投げ出されたような人生を歩まれたのだろうなと。その難しさを表現できればと思いました。
渡辺:国政とは全く関係のないところで生きていますからね。日本が帝国主義から民主主義国家に変わっていく転換期の中で、日本兵の扱いも、日本国内での評価も180度変わるくらいの世の中だったわけですよね。そういった価値観がひっくり変える世の中で、急激な波に飲み込まれたように翻弄される人生というのは、時代が変わっても身近に感じるでしょうし、特に今のようなままならない時代だからこそ、感じやすい部分はあるのだと思います。
いま改めて思う先輩の言葉。エンタメは心の足しになる
渡辺:この辺の歴史って、学校であまり教えないですよね。僕は別に主義主張しましょうと思っているわけではありませんが、やはり事実としてこうしたことがあったということは、知っておいたほうがいいと思うんです。なぜ戦後こうした憲法が作られたのかといったことを全く知らない人たちが、現行のものを触ろうとするのは危ないことですよね。知るというのは誰にでもある権利だし、それを享受するのは大切だと思います。本作の中の不自由さからも、そうした大切さ感じてもらいたいし、どれくらいの人に伝わるのかは分からないけれど、こうして残る作品を作ることができるのは、意味のあることだと思います。座学では伝えきれないことを、エンタメに落とし込めたらという思いはありますね。
渡辺:津川雅彦さんの言葉は、今になってより痛感しています。最初にご一緒したのは20代前半だったかと思いますが、津川さんは、「僕たちの仕事はね、お腹の足しにはならないけど、心の足しになるんだよ。忘れちゃいけないよ」と常日頃おっしゃってたんです。僕だけでなくみなさんに。たとえば、今回の新型コロナによる影響なんかでは、僕らの仕事というのは、どうしても優先順位が下がっていきますよね。でも落ち着いてきたときに、やっぱり欲しくなるのはエンタメだし、『鬼滅の刃』とかの盛り上がりも、本当にみんなで盛り上がれるのはいいことですよね。やっぱりみんな心の足しを求めてるのだと思います。そのことは、今年特に感じたし、キャリアを重ねることで、津川さんのその言葉をより深く感じてます。
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渡辺:二十歳そこそこのときに、こうした時代物をやって、戦争でご家族が亡くなられた遺族の方に、「ありがとうございました」とおっしゃっていただきました。祖父母くらい年の離れた方から頭を下げられたりすると、申し訳ない気持ちにもなりますが、でもそのとき、その方たちの心の足しになったんだなと。そう思うと嬉しいですね。
渡辺:作品がどう転んで受け止めてもらえるかは、見る人次第で、そこが面白くもあります。たとえば僕が悲しい人生を演じたとしても、「前向きになれました」と捉える人もいる。共感したり、救われたり。いろんな捉え方がありますし、そうした声を5年後に聞くこともあるわけで。そうした声を聞いて、誰かの心の栄養になっているんだと思うと、本当によかったなと思います。
渡辺:伊藤監督は83歳で、カメラマンの鈴木達夫さんはさらに年上ですが、すごいエネルギーを感じました。僕らはまだまだ全然だなと。何十年できるか分かりませんが、先輩たちの姿勢は見習うことばかりです。伝えたいという思いをずっと温めて、募らせて、実らせているわけですから。それから、こうした歴史ものを、フラットに撮る監督の技量を改めて感じました。フラットだからこそ、見た人に考える余裕を与えてくれるし、エンタメとしても面白い。そしてやはり知ることは大切だと思いましたね。
(text&photo:望月ふみ)
(衣装協力:イザイア/イザイア ナポリ 東京ミッドタウン)
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